マスク着用による新型コロナの感染防止効果について

(写真:西村尚己/アフロ)

トランプ大統領が新型コロナウイルス感染症に罹患したのは「マスクを着けていなかったからではないか」という意見が散見されます。

マスク着用によってどれくらいコロナの感染を減らすことができるのでしょうか?

新型コロナの流行以降に急速に増えているユニバーサルマスクのエビデンスについて紹介します。

なぜ全員がマスクを着ける必要があるのか?

インフルエンザなどの「発症した後から周囲に感染させる」呼吸器感染症とは異なり、新型コロナは発症する前の無症状のときから人にうつしていることが明らかになってきました。

インフルエンザと新型コロナの発症前後の感染性の違い(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0869-5より作成)
インフルエンザと新型コロナの発症前後の感染性の違い(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0869-5より作成)

このように新型コロナはこれまでのインフルエンザなどのウイルス感染症とは異なり、発症前に感染性のピークがあることが特徴です。

インフルエンザでは咳やくしゃみなどで発生する飛沫を介して感染すると言われていました。

新型コロナは、咳やくしゃみなどのない無症状の時期にどのように広がるのでしょうか。

以下はNew England Journal of Medicineに掲載された動画です。

会話によって発生する飛沫をレーザー光を当てることで可視化したものです。

前半がマスクなしで会話した場合の飛沫の拡散、後半がマスクを着けた状態で会話した場合の飛沫の拡散を見たものです。

「Stay Healthy(ヘルシーでいよう!)」と繰り返し発音していますが、特に「th」の発音の際に飛沫が多く飛んでいることが分かります。全然ヘルシーな感じはしません。

しかしマスクを着用すると、ほとんど飛沫は飛ばなくなりヘルシー感が急激にアップします。

このように、通常の会話でも飛沫が発生し、特に大声を出すと飛沫が大量に遠くまで飛んでいることから、咳などの症状がなくても感染が伝播しうるものと考えられます。

実際に、これまでにクラスターが発生している場所の特徴として、カラオケや合唱団などのように、大声を出す、歌うなどの場所に多いことが挙げられます。

このような背景から、コロナ以前の時代には、咳やくしゃみなどの症状のある人にマスク着用が推奨されていたのに対し、Withコロナ時代には症状の有無にかかわらず屋内や人との距離が保てない環境では全ての人がマスクを着用する「ユニバーサルマスク」という概念が急速に普及してきました。

日本は元来からインフルエンザシーズンには無症状の人を含めてマスクを着用する光景が見られていたことから、このユニバーサルマスクという考え方には比較的抵抗がないのではないかと思いますが、こうした習慣のない国や地域ではいまだにこの考え方に抵抗がある人も多いようです。

トランプ大統領がマスクを着用したがらないのは有名ですし、独自のコロナ対策を行っているスウェーデンでは未だにマスク着用は積極的には推奨されていません。

ほとんどの国民がマスクを着けていないスウェーデンの様子(DOI: 10.1126/science.370.6513.159 より)
ほとんどの国民がマスクを着けていないスウェーデンの様子(DOI: 10.1126/science.370.6513.159 より)

確かにこの「ユニバーサルマスク」という考え方は新しいものであり、提唱された時点では十分な科学的根拠がありませんでした。

しかし、コロナの流行から半年以上が経ち、ユニバーサルマスクに関するエビデンスも集まってきました。

ユニバーサルマスクが感染を減らすというエビデンス

アメリカでマスク着用を義務化したことで45万人の感染を回避

アメリカ各州におけるマスク着用義務化と感染率の推移(https://doi.org/10.1377/hlthaff.2020.00818より)
アメリカ各州におけるマスク着用義務化と感染率の推移(https://doi.org/10.1377/hlthaff.2020.00818より)

4月と5月に米国の各州がマスク使用を義務づけたことの影響を調べた研究では、マスク着用の義務化によって新型コロナの患者数が1日あたり最大2%ポイント減少したと推定しています。

この研究ではユニバーサルマスクによって45万人もの新型コロナ患者を減少させたのではないかと推計しています。

また、査読前ではありますが、200以上の国のマスク着用率と新型コロナの感染者数との関係を検討した研究では、習慣的にマスクを着ける国、政府がマスク装着を推奨している国では、週ごとの人口比での致死率の上昇率が他の国と比べて4倍低かった、とのことです。

中国での家庭内感染においてマスク着用が感染を減らした

マスク着用による家族内感染の予防効果(BMJ Glob Health. 2020;5(5) )
マスク着用による家族内感染の予防効果(BMJ Glob Health. 2020;5(5) )

中国の北京で124家族335人を対象としたコホート研究では、家族内の誰かに感染者が出た場合に4つの家族に1つは他の家族に感染が起こっていました。

しかし、新型コロナを発症した人が症状が出る前からマスクを着けていた場合は家族への感染を79%減らしました。ただし発症後にマスクを着けても家族への感染は減らさなかったそうです。

家にいるときもマスクを着けているというのはさすがに日本で馴染まないとは思いますが・・・特に抵抗がないという方は着けてもよろしいかと思います。

病院でマスク着用することで医療従事者の感染が減る

病院内でのマスク着用による新型コロナ予防効果(JAMA . 2020 Jul 14;e2012897. )
病院内でのマスク着用による新型コロナ予防効果(JAMA . 2020 Jul 14;e2012897. )

新型コロナ以降、病院内では患者さんやお見舞いに来られる方にもマスク着用をお願いしている病院が増えています。

これも新しい生活様式の一つと言えますが、この病院内でのマスク着用による新型コロナの予防効果が示されています。

2020年3月から4月にかけて新型コロナが大流行していたアメリカのある病院で、3月に医療従事者がマスク着用を義務化し、4月に患者のマスク着用を義務化したら医療従事者の新型コロナ感染率が低下したという報告も出ています。

マスク着用は感染を減らすだけでなく重症化を防ぐ可能性も

マスクは感染を防ぐだけではなく、感染した場合も重症化しにくくなるのではないか、という仮説もあります。

動物実験では最初に曝露するウイルス量が多いほど、その動物は重症化しやすくなることが知られています。

新型コロナでも、ハムスターに曝露させるウイルス量が多いほど、そのハムスターは重症化しやすいということが、東京大学医科学研究所の河岡先生らのグループから報告されています。

こうした実験はなかなか人間にはできませんが、インフルエンザウイルスをボランティアの人間に曝露させた研究があり、曝露させたインフルエンザウイルスの量が多ければ多いほど、インフルエンザの重症度が高くなり、症状の持続期間も長くなったという結論でした。

こうした事実から、マスクを着用することで曝露されるウイルスの接種量を減らすことができれば、新型コロナに感染したとしても重症化が防げるのではないかという仮説がNew England Journal of Medicineに掲載されています。

この仮説を支持するものとして、ハムスターを使った実験でもマスクの効果が報告されています。

ハムスターでのマスク効果を検証した実験(Clin Infect Dis . 2020 May 30;ciaa644.)
ハムスターでのマスク効果を検証した実験(Clin Infect Dis . 2020 May 30;ciaa644.)

新型コロナウイルスを感染させたハムスターと、感染していないハムスターを直接接触できない同じ環境に入れて、感染が成立するかどうかを検証したものですが、どちらもマスクを使用していなければ15匹中10匹(66.7%)で感染が成立したのに対し、感染していないハムスターがマスクを着けていたら12匹中4匹(33.3%)、感染したハムスターがマスクを着けていたら12匹中2匹(16.7%)に感染が成立したということで、マスクに新型コロナウイルスの伝播の予防効果が示されたものです。

ハムスターのマスクの有無による新型コロナの重症化の違い(Clin Infect Dis. 2020 May 30;ciaa644.)
ハムスターのマスクの有無による新型コロナの重症化の違い(Clin Infect Dis. 2020 May 30;ciaa644.)

さらにこの研究では、通常ハムスターが新型コロナウイルスに感染すると重症化することが多いのに対し、マスクを着けて感染したハムスターは、軽症であったことも報告されており、予防効果だけでなく、マスク着用によって曝露するウイルス量が減ることで重症化阻止効果もある可能性が示唆されています。

マスクの種類はどれでも良い?

マスクの種類と飛沫の濾過効果の違い(DOI: 10.1126/sciadv.abd3083より)
マスクの種類と飛沫の濾過効果の違い(DOI: 10.1126/sciadv.abd3083より)

研究などで効果が検証されているマスクは、N95マスクやサージカルマスクといった医療現場で使用されるマスクであることが多いのですが、市販されているマスクでも同様の効果は期待できるのでしょうか?

マスクの種類による飛沫の濾過効果の違いを見た研究では、ほとんどのマスクは医療従事者が用いるサージカルマスクやN95マスクとそれほど遜色のない濾過効果があると考えられます。

ただし、この研究ではバンダナやネックゲイターは何も着けていないのとほぼ同じくらいの効果しかないとのことであり、これらを感染対策の目的で使用することは避けた方が良いでしょう。

マスク着用はメリハリをつけましょう

ちなみにマスク着用が推奨されるのはいまのところ換気が不十分となりやすい屋内や混雑した交通機関内のみであり、人との距離が十分に保たれている場合は屋外でのマスク着用は推奨されていません。

冒頭の写真の三越前のライオンは屋外でもマスクを着用しており「新しい生活様式」に適応しすぎていますが、屋外でのマスク着用は特に夏場では熱中症のリスクもあり注意が必要です。

また日本小児科医会は窒息や熱中症のリスクが高くなるとして2歳未満の子どものマスク使用は不要でありむしろ危険という声明を発表しています。2歳未満でなくとも小さいお子さんや心肺機能が低下した方のマスク着用には十分注意しましょう。

またマスク装着によってマスク表面が汚染し、これを触ることによって手にウイルスが付着し感染のリスクとなることも考えられます。飛沫を浴びるなど明らかに汚染した場合にはこまめにマスクを交換するようにしましょう。

またご自身の感染予防のためにはマスク着用以上に、手洗いをこまめに行うことが重要です。

マスクを着けているから自分は安心、と思わず基本的な感染対策もおろそかにしないようにしましょう。

手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)
手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)