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新型コロナの後遺症 記憶障害、脱毛、集中力低下など様々な症状が明らかに

忽那賢志感染症専門医

新型コロナウイルス感染症の後遺症が注目されています。

新型コロナに感染した後に、倦怠感や胸痛、脱毛、記憶障害など様々な症状が持続することが報告されています。

新型コロナの後遺症はどれくらいの頻度で起こり、どのような症状があるのでしょうか?

新型コロナの一般的な回復過程は?

流行当初の中国からのデータでは、新型コロナウイルス感染症は8割が軽症、約14%が中等症(酸素投与・入院が必要)、約5%が重症(人工呼吸管理など集中治療が必要)とされます。

そして中国からの報告では、持病や年齢によってばらつきはあるものの、軽症では約2週間、中等症・重症では約3〜6週間くらいで回復していくとも言われていました。

しかし、アメリカの新型コロナ患者350人を対象とした調査では、診断後14から21日までに元の健康状態に戻った人は軽症患者の64%と入院(中等症以上)患者の39%であったとされ、中国で言われていたよりも回復には時間がかかるようです。

どうやら新型コロナ患者では一定の割合で完全には回復せず、症状が続くことも分かってきました。

新型コロナの後遺症で頻度が高い症状は?

新型コロナから回復した後も「体がだるい」「胸が痛い」「息苦しい」「動悸がする」などといった慢性症状に悩まされている患者さんがいらっしゃいます。

この新型コロナ罹患後の亜急性〜慢性に続く症状についても知見が揃ってきました。

2月下旬から3月にかけて大規模な流行がみられたイタリアから新型コロナの後遺症(コロナ後症候群)に関する143人の報告が出ました。

急性期と亜急性期〜慢性期の新型コロナ患者の症状の頻度(doi:10.1001/jama.2020.12603)日本語は筆者
急性期と亜急性期〜慢性期の新型コロナ患者の症状の頻度(doi:10.1001/jama.2020.12603)日本語は筆者

これによると、新型コロナから回復した後(発症から平均2ヶ月後)も87.4%の患者が何らかの症状を訴えており、特に倦怠感や呼吸苦の症状が続いている方が多いようです。

その他、関節痛、胸痛、咳、嗅覚障害、目や口の乾燥、鼻炎、結膜充血、味覚障害、頭痛、痰、食欲不振、ノドの痛み、めまい、筋肉痛、下痢など様々な症状がみられるようです。

32%の患者で1〜2つの症状があり、55%の患者で3つ以上の症状がみられたとのことです。

4割の人が生活の質が低下していると答えており、新型コロナから回復した後も苦しんでいる方が多いことが分かります。

コロナに罹るだけでもぴえんなのに、後遺症まであるなんて、ぴえん超えてぱおんです。

若い健康な人も5人に1人は症状が遷延する

アメリカで新型コロナと診断された270人の、検査時点の症状と2~3週後も続く症状の頻度の違い (http://dx.doi.org/10.15585/mmwr.mm6930e1より)
アメリカで新型コロナと診断された270人の、検査時点の症状と2~3週後も続く症状の頻度の違い (http://dx.doi.org/10.15585/mmwr.mm6930e1より)

アメリカからの電話調査の報告では、新型コロナウイルス感染症と診断された270人のうち、175人(65%)が検査日から中央値7日で普段の健康状態に復帰し、95 人(35%)が検査から2-3週間経過した後も「普段の健康状態に戻っていない」と回答しています。

症状が遷延する頻度は年齢層によって異なり、18~34歳では26%、35~49歳では32%、50歳以上では47%が検査後14~21日経過後も普段の健康状態に戻っていないと回答していることから、高齢者の方が症状が長く続きやすいようです。

基礎疾患があるかどうかも症状が続くかどうかに影響を与えており、基礎疾患がない、もしくは1つだけの人(28%)と比べて、2つの基礎疾患を持つ人(46%)、3つ以上の基礎疾患を持つ人(57%)の方が症状が持続する割合が高かったとのことです。

特に基礎疾患のない18~34歳でも、19%が普段の健康状態に戻っていなかったとのことであり、若い健康な人だからといって後遺症に悩まされないとは言えないようです。

2割で脱毛、3割で記憶障害、睡眠障害、集中力低下

フランスで新型コロナと診断された279人の 発症から約110日後も続いていた症状 (https://doi.org/10.1016/j.jinf.2020.08.029より)
フランスで新型コロナと診断された279人の 発症から約110日後も続いていた症状 (https://doi.org/10.1016/j.jinf.2020.08.029より)

フランスからは、脱毛、記憶障害、睡眠障害、集中力低下といった症状も後遺症として報告されています。

新型コロナを発症してから約110日後に電話インタビューで回答した120人の回復者のうち、55%の人が倦怠感、42%の人が呼吸苦、34%が記憶障害、31%が睡眠障害、28%が集中力低下、20%が脱毛を訴えたとのことです。

記憶障害、集中力低下、脱毛などの症状はエボラ出血熱やSFTS(重症熱性血小板減少症候群)などの感染症の後遺症としてみられることがありますが、新型コロナでも稀にみられるようです。

また新型コロナに感染する前に仕事をしていた人のうち、発症から110日後の時点で職場復帰をしていたのは69.1%であったとのことです。

半数以上が退院1ヶ月後も呼吸機能が戻らない

この他にも新型コロナから回復した後も後遺症が残っている事例が報告されています。

中国の孫文大学第五附属病院からの報告では、新型コロナウイルス感染症で入院していた患者57人が退院した1ヶ月後も、半分以上が呼吸機能に何らかの異常が残っているとされます。

呼吸機能に関する後遺症はこれ以外にも多く出ており、特に重症であった患者さんでは、退院1ヶ月時点で肺機能低下がみられる頻度が高いようです。

この報告は重症度の高い症例が多いため「新型コロナになったら半分が呼吸機能が戻らない」というわけではなく、「重症例では半数以上に退院1ヶ月後も呼吸機能の後遺症がみられる」ということかと思います。

肺だけでなく心臓にも影響が残る

ドイツからは、新型コロナに感染した様々な重症度の100人の回復者の心臓MRIを行ったところ、基礎疾患、新型コロナの重症度や経過、および発症からの時間とは無関係に、78人(78%)に異常所見が確認され、60人(60%)で心筋の炎症所見がみられた、と報告されています。

このことからは、新型コロナは肺だけでなくそれ以外の臓器にも長期的な影響を与えることが示唆されます。

1割の患者で嗅覚・味覚異常が戻らない

嗅覚・味覚異常は2020年3月以降に注目され始めた新型コロナに特徴的な症状ですが、この嗅覚・味覚異常も回復後少なくともしばらくの間続くようです。

新型コロナ患者を対象とした嗅覚・味覚異常に関する調査では、発症から 4 週間後の時点で 48.7%の患者が嗅覚・味覚異常が完全に回復し、40.7%が完全には良くなっていないものの改善しており、10.6%は嗅覚・味覚異常が続いているまたは悪化していると回答しました。

つまり1割の患者では1ヶ月後も嗅覚・味覚異常が続いているということです。

ちなみに私は鼻茸があるため10年以上嗅覚がありません。だからどうということはないんですが。

新型コロナの後遺症を防ぐためには新型コロナに罹らないことが一番

これまでの報告をまとめますと、新型コロナから回復した後も遷延する症状の特徴として、

・発症から100日以上経っても何らかの症状に苛まれる人がいる

・倦怠感や呼吸苦、胸痛といった症状が遷延しやすい

・集中力低下、脱毛などの急性期ではみられなかった症状が2〜3割で報告されている

・嗅覚・味覚障害も遷延することがある

・肺や心臓に長期的な影響が残ることがある

・高齢者や基礎疾患のある人に多いが、若い健康な人でもみられることがある

ということが分かってきました。

新型コロナは感染したときだけでなく、回復した後も私たちを悩ませる恐ろしい感染症です。

新型コロナの後遺症を患わないためには、新型コロナに罹らないことが一番です。

「手洗い」「咳エチケット」「屋内でのマスク着用」「3密を避ける」といった感染対策を今一度徹底しましょう。

羽海野チカ先生作 手洗い啓発ポスター
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感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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