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新型コロナ 重症者数は鋭敏な指標ではない理由

忽那賢志感染症専門医
(写真:ロイター/アフロ)

東京都を中心に新型コロナ患者数の増加が止まらない状況が続いています。

現在の状況について、菅官房長官は以下のようにおっしゃっています。

7月10日、菅義偉官房長官(写真)は午前の会見で、緊急事態宣言を発出するかどうかの判断の一つとなっている医療提供体制について、逼迫状況にあるかどうかの判断は病床の稼働状況や重症者状況などを総合的に考慮して判断する必要があるとの考えを示した。

出典:医療体制の逼迫、病床稼働や重症者状況などで総合判断=官房長官

このように、緊急事態宣言を発出するかどうかは医療提供体制が逼迫しているか、重症患者数を指標の一つとして判断すると述べられています。

感染状況・医療提供体制の分析(第2回 東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)
感染状況・医療提供体制の分析(第2回 東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料より)

東京都も同様に医療提供体制の分析の項目として重症者数を挙げており、7月15日の時点では重症者数が増えていなかったことから(今は10人に増えています)判断を保留しています。

7/18時点での入院患者数の推移(東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト)
7/18時点での入院患者数の推移(東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト)
7/18時点での重症患者数の推移(東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト)
7/18時点での重症患者数の推移(東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト)

確かに現在の入院患者数の875人、そして重症者数10人という数字は緊急事態宣言時のピークの1413人、105人をそれぞれ下回っており、逼迫している状況にはありません。

ところで、最近この「重症者数」がよく医療機関の逼迫の判断指標として用いられていますが、これを判断根拠として何らかの対策を行うことは妥当なのでしょうか?

私自身は今の時点で緊急事態宣言を出すべきと思っているわけではありませんが、「現時点の重症者数」を対策を行うべきかどうかの判断指標にするのは危険だと考えています。

なぜなら、今の重症患者数は、1-2週間前に発症した患者のうち一定のハイリスク集団が重症化した数を見ているものであり、予見可能な指標であるためです。

また、重症者数が増えた時点で対策を始めても、そこから1-2週は重症者数は増加を続けるためすぐに効果は現れません。

重症者は遅れて増加してくる

第1波を振り返ってみますと、新規患者数と重症者数のピークには約2週間のタイムラグがあることが分かります。

国内の新型コロナ新規患者数と人工呼吸管理患者数の推移(https://gis.jag-japan.com/covid19jp/および日本COVID-19対策ECMOnetより作成)
国内の新型コロナ新規患者数と人工呼吸管理患者数の推移(https://gis.jag-japan.com/covid19jp/および日本COVID-19対策ECMOnetより作成)

これは、しつこく毎回言っていますが、新型コロナの特徴的な経過によるものです。

新型コロナウイルス感染症は発症してしばらくしてから急に悪化します。

新型コロナウイルス感染症の症状経過(DOI: 10.1056/NEJMcp2009575)
新型コロナウイルス感染症の症状経過(DOI: 10.1056/NEJMcp2009575)
新型コロナウイルスの典型的な経過(筆者作成)
新型コロナウイルスの典型的な経過(筆者作成)

典型的には、発症から7〜10日経ってから悪化してきます。

新型コロナ患者の多くは、発症から1週間前後で診断されていますが、高齢者や基礎疾患のある人はより短期間で診断される傾向にあるため、重症者が増えてくるのは診断時よりも後になります。

つまり、重症者のピークは今よりも確実に遅れてやってきます。

今、重症者数や死者数が少ないため「ウイルスが弱毒化した」とか「夏は新型コロナの致死率が低くなる」といった意見が散見されますが、いまのところそのような科学的根拠はなく、これから重症者や死亡者は遅れて増えてくるものと思われます。

2020年4月17日時点での年齢別にみた新型コロナの致死率(厚生労働省 新型コロナウイルス感染症の国内発生動向より)
2020年4月17日時点での年齢別にみた新型コロナの致死率(厚生労働省 新型コロナウイルス感染症の国内発生動向より)

例えば、第1波の症例数が増加している時期であった4月17日時点での致死率はわずか1.6%でした。

2020年7月8日時点での年齢別にみた新型コロナの致死率(新型コロナウイルス感染症診療の手引き2.2版より)
2020年7月8日時点での年齢別にみた新型コロナの致死率(新型コロナウイルス感染症診療の手引き2.2版より)

しかし、直近の7月8日には4.9%にまで上昇しています。

症例が増え続けている時期は全体としての致死率は少なくなり、しばらくすると重症化し亡くなられる方が増えるため、徐々に致死率が高くなっていきます。

重症化しやすい年齢層の患者数も、若い年齢層から遅れて増えてきている

今も感染者の中心は20代・30代の若い世代ですが、全体的な患者数の増加に伴い高齢者の感染者も増えてきています。

重症化するリスクの高い60代以上の感染者だけの推移を見ても、明らかに感染者は増加しています。

週ごとにみた東京都における60代以上の年齢別の新規症例発生数(東京都公表データより筆者作成)
週ごとにみた東京都における60代以上の年齢別の新規症例発生数(東京都公表データより筆者作成)

先程のグラフ「7月8日時点の国内における年齢別の新型コロナ患者の致死率」によると、60代の4.9%、70代の14.6%、80代以上の28.7%の方が亡くなっています。

今後、重症者数や死者数が増加することは避けられないでしょう。

この状況が続けば東京はどうなるのか

この状況がこのまま続くとどうなるでしょうか。

東京と同じ様に、当初流行の中心が若者であったフロリダの状況が参考になるかもしれません。

フロリダ州における年齢別感染者ヒートマップ(@zorinaq氏の7/16の投稿より)
フロリダ州における年齢別感染者ヒートマップ(@zorinaq氏の7/16の投稿より)

フロリダ州では6月から流行がさらに加速し、7月に入ってからは1日平均10000人以上が新型コロナと診断されています。

当初、流行の中心は若い世代であり、症例が増加しても死亡者は増えていませんでした。

しかし、高齢者の感染者が増加するにつれ、死亡者も増加傾向にあり、現在は1日に100人以上の方が亡くなっています。

フロリダ州における新規患者数と死者数の推移(NY times Florida Coronavirus Map and Case Countより)
フロリダ州における新規患者数と死者数の推移(NY times Florida Coronavirus Map and Case Countより)

重症者数は今「医療機関が逼迫しているか」の指標にはなるが、これからの対策を取るかどうかの判断にするには鋭敏ではない

これまでに述べた通り、医療機関での重症者数は、数週間前の感染者のうちのハイリスク患者の数を概ね反映しています。

高齢者の感染者のうち一定の割合でこれから重症化することはこれまでの知見から想定されており、数週間後の重症者数を予想することは現時点の感染者の内訳を分析することによってある程度可能です。

したがって、現時点での重症者数ではなく「現時点でのハイリスク患者数」などのより早期に医療機関のキャパシティを予見できる鋭敏な指標によって判断すべきと考えます。

また今の時点での重症者数に従って対応を取ったとしても、その後しばらくは重症者数は増え続けることになります。

重症者数が医療機関のキャパシティに近づいてから対応をしていては、その後に訪れる重症者のさらなる増加に対応できない可能性があります。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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