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新型コロナ どんな症状・経過に注意すれば良い?

忽那賢志感染症専門医
新型コロナウイルス感染症の典型的な経過(筆者作成)

この記事は2020年5月時点の情報に基づいています。最新情報はこちらをご参照ください。

緊急事態宣言以降、全国で新型コロナの症例は減少していますが、まだまだ油断できません。

どのような症状があれば新型コロナを疑い病院を受診すれば良いのでしょうか。

新型コロナの典型的な症状、病院を受診する目安や注意点などについてまとめました。

新型コロナウイルス感染症の典型的な症状

新型コロナウイルス感染症の初期症状は風邪やインフルエンザと似ています。

風邪は、微熱を含む発熱、鼻水、鼻詰まり、ノドの痛み、咳などの症状がみられることが多く、またインフルエンザも風邪と似ていますが、風邪に比べると高熱が出ることが多く、頭痛や全身の関節痛・筋肉痛を伴うことがあります。

新型コロナと風邪、インフルエンザの症状とを比べると、以下の図のようになります。

新型コロナと風邪、インフルエンザとの症状の比較(オーストラリア政府啓発資料より)◎:頻度高い、◯:よくある、△:ときどきある、×:稀
新型コロナと風邪、インフルエンザとの症状の比較(オーストラリア政府啓発資料より)◎:頻度高い、◯:よくある、△:ときどきある、×:稀

また、新型コロナでは典型的には

・発熱

・咳

・だるさ

・食欲低下

・息切れ

・痰

・筋肉痛

などの症状の頻度が高いとされます。

新型コロナの頻度の高い症状(CDC. Interim Clinical Guidance for Management of Patients with Confirmed COVID-19より)
新型コロナの頻度の高い症状(CDC. Interim Clinical Guidance for Management of Patients with Confirmed COVID-19より)

特に「息切れ」の症状は、風邪やインフルエンザでは稀な症状ですので、新型コロナの可能性を疑うきっかけになります。

嗅覚異常と味覚異常

3月以降、新型コロナ患者では嗅覚障害・味覚障害を訴える患者さんが多いことも分かってきました。

イタリアからの報告によると新型コロナ患者59人のうち、20人(33.9%)で嗅覚異常または味覚異常がみられたとのことです。

特に若年者、女性ではこれらの症状がみられる頻度が高いようです。

また新型コロナであった人とそうでなかった人が自己申告した症状のうち、嗅覚異常・味覚異常は最も新型コロナに特徴的な症状であったという報告もあります。

ただの風邪や副鼻腔炎、花粉症が原因で嗅覚異常・味覚障害が起きることもあるので必ずしも「嗅覚障害・味覚障害=新型コロナ」ではありませんが、前述のような発熱、咳などの症状に加えて嗅覚異常・味覚異常の症状があれば新型コロナの可能性は高くなるでしょう。

また、嗅覚障害・味覚障害のみの症状の方もいらっしゃるようですが「2週間以内の海外渡航歴がある」「新型コロナ患者との接触歴がある」「特定のクラスターに曝露している」のいずれかを満たす方では、新型コロナの検査の対象になる可能性がありますので、かかりつけ医や帰国者・接触者相談センターに相談しましょう。

新型コロナの稀な症状:下痢、血栓、不整脈、皮膚症状など

他にも、新型コロナでは稀に

・結膜充血

・嘔気・下痢

・血痰

などの症状がみられることがあります。

この他にも、新型コロナ患者では凝固系の異常(血液が固まりやすくなる病態)や血管内皮障害が起こることが分かっており、これにより深部静脈血栓症脳梗塞などが起こることがあります。

また新型コロナウイルスは心血管系にも影響を及ぼし、急性冠症候群(ACS)、心筋炎、不整脈(心房細動など)を引き起こすことがあります。

小児では川崎病(発熱、皮疹、眼球結膜充血、いちご舌など)のような症状がみられる事例が海外で報告されています。

皮膚症状についても手足の指に赤紫色の結節が現れることがあるとされますが、現時点では新型コロナとの関連は明確ではありません。

新型コロナウイルス感染症の典型的な経過

新型コロナウイルス感染症の経過(筆者作成)
新型コロナウイルス感染症の経過(筆者作成)

新型コロナに特徴的なのは、症状の続く期間の長さです。

前述のように新型コロナウイルス感染症は風邪やインフルエンザによく似ていますが、症状が続く期間がそれらと比べて長いという特徴があります。

風邪はインフルエンザに比べるとゆっくりと発症し、微熱、鼻水、ノドの痛み、咳などが数日続き、インフルエンザは比較的急に発症し、高熱と咳、ノドの痛み、鼻水、頭痛、関節痛などが3〜5日続きます。

しかし、風邪やインフルエンザが新型コロナのように1週間以上続くことは比較的稀です(ただし咳や痰の症状だけが2週間程度残ることはよくあります)。

特に重症化する事例では、発症から1週間前後で肺炎の症状(咳・痰・呼吸困難など)が強くなってくることが分かってきました。

中国のデータでは、発症から病院を受診するまでに平均5日、そして入院までに平均10日かかることが分かっています。

つまり、発症してから1週間程度は風邪のような軽微な症状が続き、約2割弱と考えられる重症化する人はそこから徐々に悪化して入院に至るというわけです。

ただし、日本国内でも新型コロナと診断された方が自宅待機中に突然亡くなられる事例が報告されています。前述の血栓症が関与している可能性があり、発症から1週間を待たずとも、胸痛や呼吸苦などの症状が急激に悪化するようであればすぐに病院を受診するようにしましょう。

中国の4万人のデータの報告によれば、患者の8割は重症化に至らず治癒するようです。

数日〜1週間以降に2割弱の患者では、肺炎の症状が増強し入院に至ることがあります。

約5%の症例で集中治療が必要になりICUに入室し、2-3%の事例で致命的になりうるとされています。

病院を受診する前に

新型コロナウイルス感染症が心配なとき(東京都福祉保健局HPより)
新型コロナウイルス感染症が心配なとき(東京都福祉保健局HPより)

自身が新型コロナかなと思ったら、まずはかかりつけ医か帰国者・接触者相談センターに相談しましょう。

帰国者・接触者外来に受診が必要と判断されたら、マスクを着けて、なるべく公共の交通機関を使わずに病院を受診するようにしましょう。

各都道府県の帰国者・接触者相談センターは以下のページからご確認ください。

新型コロナウイルスに関する帰国者・接触者相談センター

高齢者や基礎疾患のある患者は早めの受診を

年齢別にみた新型コロナウイルス感染症の致死率(厚生労働省. 新型コロナウイルス感染症の国内発生動向.2020年4月17日掲載分)
年齢別にみた新型コロナウイルス感染症の致死率(厚生労働省. 新型コロナウイルス感染症の国内発生動向.2020年4月17日掲載分)

当初から言われているように、新型コロナウイルス感染症で重症化しやすいのは高齢者と持病のある方です。

中国CDCより発表された44672人の新型コロナウイルス感染症患者のデータによると、年齢が上がれば上がるほど致死率が高くなることが改めて数字として示されています。

30代くらいまでは亡くなる人はほとんどいませんが、40代以降から徐々に致死率が高くなり、80歳以上では14.8%という非常に高い致死率となっています。

イタリアでも同様に亡くなっているのは大半が高齢者です。

高齢者では風邪やインフルエンザのような症状が続けば早めに病院を受診する方がメリットがあるでしょう。

持病と致死率との関係(doi: 10.1001/jama.2020.2648.より)
持病と致死率との関係(doi: 10.1001/jama.2020.2648.より)

持病の有る無しによっても重症度が変わってくることも分かってきています。

がん、慢性呼吸器疾患、糖尿病などの持病のある方では重症化しやすいとされます。

また、

・65歳以上の人

・老人ホームや介護施設に住んでいる人

・慢性呼吸器疾患、中等度~重症の気管支喘息

・重篤な心疾患

・免疫不全患者:免疫不全の状態を引き起こす原因としてがんの治療、喫煙、骨髄移植、臓器移植、HIV感染症、ステロイドやその他の免疫抑制薬の長期使用など

・重度の肥満(BMI40以上)

・糖尿病

・透析・慢性腎疾患

・肝疾患

(CDC. People Who Are at Higher Risk for Severe Illnessより)

などに該当する方も、早めに受診することが望ましいでしょう。

周囲の流行状況を把握しておきましょう

各都道府県における新型コロナの流行状況(厚生労働省 発生状況マップより)
各都道府県における新型コロナの流行状況(厚生労働省 発生状況マップより)

新型コロナは時期や地域によって流行状況が大きく異なります。

2020年3月下旬から4月上旬にかけては全国で新型コロナ患者が増加傾向でしたが、緊急事態宣言以降患者数は減少傾向であり、5月中旬の現在は最も感染者の多い東京都におけるPCR検査の陽性率も5%未満となっています。

つまり、発熱や咳のような症状が出現したとしても新型コロナである可能性は、一時期よりは下がっています。

東京都でのPCR検査数と陽性率の推移(東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより)
東京都でのPCR検査数と陽性率の推移(東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより)

また地域によっても流行状況は異なります。

5月16日までに東京都では5032人の患者が報告されていますが、岩手県のようにまだ患者が報告されていない地域もあります。

こうした地域にお住まいの方では、風邪症状が出たとしても、海外渡航歴や接触歴がなければ新型コロナの可能性は高くないでしょう。

時期や地域によって、自身が新型コロナに罹る可能性も変わってきますので、お住まいの地域の流行状況をしっかりと把握しておくことが大事です。

風邪やインフルエンザのような症状が出現した場合も、個々人が自身の感染リスクと重症化する可能性を考慮した上で、病院を受診するかどうか判断するようにしましょう。

また、病院を受診しない場合も、手洗いや咳エチケットなどの予防対策は必要ですし、周囲の人(特に高齢者や持病のある人)にはうつさないような配慮が必要です。

緊急事態宣言が解除された地域も、引き続き3密空間を避けるなど新型コロナに注意した生活を続けることが重要です。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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