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徐々に見えてきた新型コロナウイルス感染症の重症度と潜在的な感染症数

忽那賢志感染症専門医
地域別にみた新型コロナウイルス感染症の致命率(2020年2月1日現在:筆者作成)

1月29日から31日にかけて武漢市に滞在する日本人565人が帰国し、PCRというウイルスの遺伝子検査が行われたところ、8名が陽性となりました。

これに加え、地域ごとの感染者と死亡者の数からも新たな事実が浮かび上がってきました。

帰国者565人のうち8人が新型コロナウイルス陽性の意味するところは?

第3便までの帰国者565人の転帰(筆者作成)
第3便までの帰国者565人の転帰(筆者作成)

武漢から565人の方が帰国し、ほぼ全員に新型コロナウイルスの検査(咽頭のPCR法)が行われました。

検疫所で症状のある28人は医療機関に送られ、無症状とされた方も国立国際医療研究センター(感染症で非常に有名な病院ですね)で診察が行われ、症状があると判明した35人が入院となっています。500人は無症状ということでしばらく(おそらく最大の潜伏期の14日間)はホテルに滞在するとのことです。

現時点では、このうち有症状者3人と、5人の無症候性感染者、計8人が新型コロナウイルスのPCRが陽性でした。

新型コロナウイルスに関連した患者(14、15例目)及び無症状病原体保有者(*)の発生について

新型コロナウイルスに関連したチャーター便に係る帰還邦人の状況について(1月31日)

つまり帰国者の1.4%が新型コロナウイルスに感染していたことになります。

これは素直に解釈すると驚異的な数字です。

武漢に滞在していた日本人の1.4%が新型コロナウイルスに感染していたということは、武漢の人口が1108万人ですから、単純計算で武漢では10万人くらいの感染者がいるということになります(これについては今後数理モデルの専門家が詳細な解析をするはずなので、あくまで数理モデル素人の概算です)。

ちなみにこちらの論文では武漢市での感染者数は75815人と推定しており、それほど大きくずれてはいないように思います。

このことから分かるのは、おそらく今の時点で武漢市では新型コロナウイルス感染症が蔓延しており、診断されていない症例がもっともっとたくさんいるだろうということです。

2020年2月1日現在、武漢市で新型コロナウイルス感染症と診断されているのは3215人となっていますが、現地では軽症例は検査の対象になっておらず重症例を中心に診断・治療が進められていると考えられます。おそらく武漢市ではもっとたくさん軽症の未診断例がいることでしょう。

対照的に、今回帰国した方のうちの陽性例には軽症例や症状の無い人も含まれています。日本以外でも、この厳戒態勢の中できる限り新型コロナウイルス感染症の患者を見逃すまいとしていることから、軽症例も拾い上げられていると推測されます。

中国以外では死亡者がまだ出ていないことの意味するところは?

地域別にみた新型コロナウイルス感染症の致命率(2020年2月1日現在:筆者作成)
地域別にみた新型コロナウイルス感染症の致命率(2020年2月1日現在:筆者作成)

その証左として、2020年2月1日時点での致命率は2.2%となっていますが、武漢市での致命率が6.0%と群を抜いています。

武漢市以外の湖北省の致命率が1.4%、湖北省以外の中国全土の致命率が0.2%、中国以外の国々での致命率は0%です。

これらの事実から分かることは、おそらく武漢市にはもっとたくさんの新型コロナウイルス感染症の患者がいるが、いまのところ重症例を中心に診断されていることから見かけ上の致命率が高くなっているということです。

武漢市での流行から時間差があり世界中に広がっていること、そして新型コロナウイルス感染症は発症から1週間以上経過してから重症化することがあることから、今後中国以外でも死亡者が出る可能性は高いと考えますが、少なくとも日本での致命率が武漢市を超えることはないでしょう。新型コロナウイルスの拡散はとどまるところを知りませんが、一方で重症度については当初の想定よりもずっと低くなりそうです(とはいえ、持病を持つ方や高齢者では重症化のリスクがあることは間違いありません)。

未知の感染症が広がることに不安を覚えるのは当然ですが、新型コロナウイルス感染症のリスクを正しく評価し、正しく恐れることが大事です。

現状を正しく認識し、こまめな手洗い、咳エチケットといった普段から個々人ができる感染予防をより丁寧に行っていきましょう。

※本投稿に当たり沖縄県立中部病院 高山義浩先生の整理されたデータを参考にさせていただきました

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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