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中国の武漢で原因不明の肺炎 現時点でどう備えるべきか

忽那賢志感染症専門医
SARS流行時の中国の様子(写真:ロイター/アフロ)

''最新情報はこちらに整理しています'''

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新型コロナウイルス感染症の現状と評価(2020年1月21日現在)}}}

以下は1月4日以降アップデートされていない情報ですのでご注意ください!

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中国の武漢で原因不明のウイルス性肺炎の報道

中国の湖北省武漢市で原因不明のウイルス性肺炎による患者が発生しているニュースが連日流れています。

中国で原因不明の肺炎患者相次ぐ 武漢で27人発症、政府が調査(2019/12/31 )

中国で謎の肺炎拡大、患者44人に SARS懸念する声も(2020/1/3)

これまでの情報を整理しますと、

・1月3日の時点で症例は44例、そのうち11例が重症で残りの患者の状態は落ち着いている

・症状は発熱、呼吸困難などで、胸部レントゲン上両側の肺炎像がみられる患者もいる

・ウイルス分離やPCR(遺伝子検査)でインフルエンザ、鳥インフルエンザ、アデノウイルス感染などの一般的な呼吸器疾患は除外されている

・全ての症例が武漢の医療機関で隔離され治療を受けており、121例の濃厚曝露例が追跡調査されている

・症例の一部は家禽類と野生動物を売る華南海産物市場(華南海鮮城)に関連している

・ヒトからヒトへの感染は今のところ明らかではなく、医療スタッフの感染例も報告されていない

出典:原因不明のウイルス性肺炎に関する武漢市保健衛生委員会の報告 (中国語 2020/1/3)

ということのようです(※本文の最後に最新情報のアップデートがあります)。

一部ではSARS(重症急性呼吸器症候群)の再流行ではないかと疑われているようですが、SARSコロナウイルスについては中国の専門検査機関はPCRという検査を行う体制を持っていると考えられますので、これだけ時間が経って判明していないのであればSARSの可能性は低いのではないかと考えます。

あるいはパニックを避けるために故意に政府が発表を遅らせている可能性はあるかもしれませんが、重症度や致死率、ヒトへの感染性からすると今のところSARSとは性質の異なる感染症という印象です(※ 筆者追記 2020/01/05に武漢市政府は正式にSARSではないと発表しました)。

また例年この時期流行しているH7N9鳥インフルエンザについても検査が行われて否定済みということかと思います。

家禽類や野生動物を売る海産物市場から症例が発生しているということですので、何らかの動物由来感染症の可能性が疑われます。

武漢での原因不明の肺炎にどう備えるべきか

今後の情報を注視する必要はありますが、現時点では、ヒトからヒトへの感染は報告されていないということ、死亡例が報告されていないことから過度に恐れる状況ではありません。

しかし、これから春節を迎えるため、国内の医療機関は中国、特に武漢からの観光客には注意しなければなりません。

また武漢に渡航された方、これから渡航される予定の方については以下の点にご注意ください。

武漢へ渡航した方

・帰国後数週間(※潜伏期不明のため)は健康状態を注意深く観察し、体調不良時はすぐに病院を受診しましょう。その際には必ず渡航歴を医師に知らせるようにしましょう

・咳や鼻水、喉の痛みなどの呼吸器症状がある場合は、マスクを着用しましょう。マスクがないときも咳エチケットを徹底するようにしましょう

武漢に渡航する予定の方

・家禽や野生動物との接触、生肉や調理が不十分な肉の摂取は避けるようにしましょう

・現地で体調の悪い人、病人との接触は避けるようにしましょう

・食事やトイレの後など手洗いをこまめに行いましょう

中国ではこれまでもSARSやH7N9鳥インフルエンザの大流行を経験してきました。

また今では日本国内でも症例が報告されているSFTS(重症熱性血小板減少症候群)も最初は中国から報告されています。

2019年はAlongshan virusという新種のウイルスによるマダニ感染症も中国から報告されています。

これらの感染症はある瞬間から中国で生まれたわけではなく、これまでも存在したウイルスが近年の検査技術の進歩やヒトと動物との距離が短くなったことなどにより明らかになってきたものです。

今後も中国に限らず、未知のウイルスによる感染症は現れるでしょう。

その際に大事なのは信頼できる情報源から正しい情報を入手し、正しくリスクを評価し、正しく感染症を恐れることです。

引き続き中国からの発表を注視したいと思います。

2020年1月5日追記(アップデート)

・2020年1月5日8:00時点で、7人の重症患者を含む合計59人の原因不明のウイルス性肺炎患者が武漢市で報告され、残りの患者のバイタルサインは安定している。

・死亡例なし。

・59人の患者のうち、最も早く発症した症例は2019年12月12日であり、直近の発症者は12月29日

・163人の濃厚暴露者を追跡調査している

・SARS/MERSは除外された

・海鮮市場を一時的に閉鎖し調査を行う

・病原体は未だに不明であり同定を進める

出典:原因不明のウイルス性肺炎に関する武漢市保健委員会の報告(中国語 2020/01/05)

2020年1月9日追記(アップデート)

まだ公式には発表されていませんが、新型コロナウイルスが原因ではないかという報道がWall Street Journalなど複数のメディアから出ています。

新規コロナウイルスは、1人の患者のサンプルから遺伝子の配列決定がなされ、その後武漢市の他の数名からも分離された。しかし、中国当局はこの新型コロナウイルスが武漢で起こっている肺炎の原因であるとはまだ結論付けていない。

出典:New Virus Discovered by Chinese Scientists Investigating Pneumonia Outbreak

SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)もコロナウイルスによる感染症ですが、これらのSARSコロナウイルス、MERSコロナウイルスとは異なるものであるという報道です。

公式発表が待たれます。

参考:

厚生労働省検疫所 FORTH-原因不明の肺炎-中国

厚生労働省. 中華人民共和国湖北省武漢市における原因不明肺炎の発生について

帰国後診療医療機関リスト - 日本渡航医学会

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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