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スリランカ連続テロ 半年前にインド「国家捜査局」がインド南部でIS活動家を逮捕し、テロ計画を察知!

黒井文太郎軍事ジャーナリスト
首謀者のモハメド・ザハラン(別名ザハラン・ハシム)。SNSで演説を投稿していた

 スリランカ連続テロについて、一昨日、昨日と下記2本の拙稿を寄稿しました。

'''▽「スリランカ連続テロ 謎の組織「National Thowheeth Jama'ath」の正体」黒井文太郎 4/23(火) 9:14'''

'''▽「スリランカ連続テロ 地元グループをIS(イスラム国)がオルグか?」黒井文太郎 4/24(水) 16:56'''

 その後、また新たな情報がどんどん出てきています。今回のテロについては、当初から真偽不明の情報も多く、いろいろ錯綜していますので、前回の拙稿を新情報でアップデートする意味で、以下にまとめておきます。

自爆テロ・グループのメンバーは富裕層の若者たち

 まず、スリランカ当局の発表により、自爆犯の人数が7人から9人に訂正されています。9人のうち8人の身元がすでに判明(1人は女)し、すべてスリランカ人ということですが、ほとんどが富裕層で、イギリスに留学した経験者もいるとのこと。ただし、やはりシリアやイラクで戦闘を経験したメンバーがいたとの情報はありません。

 なお、当局の発表では、今回のテロを実行したのはもちろんNTJですが、サポート役として「ミラト・イブラヒム協会」(Jammiyathul Millathu Ibrahim/JMI)という過激派組織も関与していたとのこと。こちらもISとの関連が疑われる国内組織とのことですが、実態はあまりない非常に小規模の組織です。

スリランカ当局はNTJの構成員リストから160人を追跡中

 スリランカ当局は現在も、「テロ・グループはまだすべてが摘発されたわけではなく、テロの脅威は続いている」としています。

 治安当局はすでにNTJのメンバー160人のリストを入手し、そこから捜査の手を広げているようです。すでに60人以上を逮捕して調べていますが、メンバー160人といっても、名前だけの人もいるでしょうし、現地からの報道では「メンバーは100~150人」「逮捕者は100人程度になるだろう」などといった当局者の話も出ています。しかも、すべてがコアなメンバーとは限らず、今回にテロに関与したメンバーの規模は依然不明です。

 ISとの関係を知っていたり、爆弾製造などの訓練を受けたメンバーの数は、グループ内部からの情報漏れがあまり見られない点からすると、それほど多くない印象です。ちなみに、ロイターがスリランカ政府高官の情報として報じているところでは、逮捕者の1人はシリア人ということですが、未確認情報です。

テロ計画が察知された発端は、インド「国家捜査局」がインド南部で半年前にIS活動家を逮捕したことだった

 興味深いのは、前回の拙稿でも言及しましたが、今回のテロ計画をインド当局が察知した経緯についてです。前回拙稿では、「インド当局がインド国内で"IS容疑者”を逮捕し、彼がスリランカでNTJリーダーのザハラン・ハシムを訓練したことを供述した」との米CNN報道を引用しました。

 それに加えて、今度は「ニューヨーク・タイムズ」紙が、インド当局が昨年(2018年)に逮捕した"IS関係者"が「ザハランの演説映像をSNSで見て感銘を受けた」と語ったことから、ザハランの調査が開始されたと報じています。

 さらに、インド紙「ヒンズー」は、インド捜査機関「国家捜査局」(NIA)が半年前にインド南部のタミル・ナードゥ州で逮捕した"IS信奉者"を尋問したことが、今回のテロの事前情報を入手する端緒だったと伝えています。

 仮にこの3つの報道がすべて事実であるとしても、登場する人物が同一人物かは、記事からはわかりません。書き方もIS容疑者であったり、関係者であったり、信奉者であったりと微妙に異なっています。そもそも1人の人間なのか、それぞれ別の人間なのかも不明です。

 ただ、逮捕の時期や場所の説明に齟齬はないので、同一人物もしくは同じ仲間グループの人間とみていいでしょう。テロを指導するような人間が常に単独で動いているとも限らないので、同グループの仲間が次々と逮捕されていた可能性は、もちろんあります。

爆弾技術を持つIS活動家が、SNSで地元過激派の演説映像を見て、彼をテロリストとして勧誘していた!

 ここで重要なのは、このインド南部で活動していたISの関係者(もしくは関係者たち)は、爆弾製造の技術を入手できる立場だったということです。つまり、ISでそうした訓練を受けていた人物なわけで、これはもうISの活動家といっていいでしょう。

 そして、このIS活動家がこの数年以内にSNSでザハランを発見し、テロ要員として見込みがあると判断し、一本釣りした可能性が高いということになりそうです。ザハランは数年前から、SNSで過激な演説を発信していたことがわかっています。インドを活動拠点にしていたIS活動家は、ザハランに接触し、彼のグループ(NTJ)をISのテロ要員として取り込み、実際にテロを指南したわけです。

 しかし、インドの「国家捜査局」が約半年前にインド南部でIS活動家を逮捕し、この活動家の供述で、今回のテロ・グループの情報が入手されたということになります。ちなみに国家捜査局は、2009年にインド国務省統括下に設置されたテロ対策専門の機関です。ニューデリーの本部の他にインド全国に8か所の支部があります。

テロリストが逃げ切れたのは「携帯電話を使わなかったから」

 他に注目される新たな情報としては、「インドのメディアによると、スリランカ国防担当国務相が、NTJが2016年にバングラデシュでテロを実行したグループと繋がりがあると指摘した」という報道があります(共同通信)。

 これは非常に警戒すべき内容の情報ですが、現時点では信憑性のある根拠情報はほとんどありません。ただ、教育を受けた富裕層の若者がテロに参加しているという点で、バングラデシュでのテロのグループとタイプが似ているとの指摘はあります。

 それと、筆者が「なるほど」と思ったのはこちら。豪紙「オーストラリアン」が報じた「テロ警戒情報を受けたスリランカ当局がザハランを捜索したが、ザハランは携帯電話を使わないので、事件までに発見することはできなかった」との情報です。確かにそうだろうなと納得です。

軍事ジャーナリスト

1963年、福島県いわき市生まれ。横浜市立大学卒業後、(株)講談社入社。週刊誌編集者を経て退職。フォトジャーナリスト(紛争地域専門)、月刊『軍事研究』特約記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て軍事ジャーナリスト。ニューヨーク、モスクワ、カイロを拠点に海外取材多数。専門分野はインテリジェンス、テロ、国際紛争、日本の安全保障、北朝鮮情勢、中東情勢、サイバー戦、旧軍特務機関など。著書多数。

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