シドニー篭城事件の犯人マン・ハロン・モニスは「イスラム国」支持者か?~「テロの連鎖」に警戒を!

犯人は「イスラム国」の旗を要求?

オーストラリアの最大都市シドニーの中心街で、12月15日午前10時前(日本時間午前8時前)、銃を持った男がカフェに押し入り、人質をとって篭城するという事件が発生した。オーストラリア治安当局は、発生から16時間あまり後の16日午前2時15分(日本時間0時15分)に強行突入し、犯人が射殺されて事態は収束した。

犯人はイラン生まれで、シドニー在住のマン・ハロン・モニスという男である。現時点で動機は明らかになっていないが、イスラム国の支持者か、もしくは支持者ということにしてイスラム国に便乗した可能性が高い。

たとえば、ハロンは「アッラーの他に神はなし。ムハンマドは神の使徒なり」と書かれた旗を持ち込んでおり、篭城時に人質に掲げさせるなどの行動をとっている。この言葉は、イスラム教ではシャハーダ(信仰告白)と呼ばれ、もっとも重要な言葉とされている。

また、現地からの報道によれば、ハロンは治安当局に対して、イスラム国の旗を持って来るように要求したとの情報もある。イスラム国がシンボルとして使用している旗にも同じ言葉が書かれているが、デザインが違う。そのことを篭城中にネットで知った彼が、イスラム国に呼応していることを誇示するために、イスラム国の旗を入手したいと考えた可能性がある。

スンニ派に転向した自称「イスラム聖職者」

このハロンという人物は、もともとかなり奇矯な言動の人物だったことが判明している。

彼は1964年にイランで生まれた。現在、49歳もしくは50歳である(12月下旬生まれなら49歳。現時点での現地報道では49歳説と50歳説と両方ある)。もともとの名前をムハンマド・ハッサン・マンテギという。

96年にオーストラリアに亡命し、マン・ハロン・モニスと改名した。自身のウェブサイト(事件後に閉鎖された)ではイスラム聖職者と名乗っているが、単なる自称に過ぎないようだ。また、組織に属さない独立した平和活動家とも自称していたという。

もともとシーア派イスラム教徒だったが、オーストラリアのシーア派指導者には拒絶されている。彼は自身のサイトで、この12月に入ってスンニ派への転向を表明している。

ハロンは同サイトにアフガニスタンなどでオーストラリアやアメリカなどがイスラム教徒を攻撃していることを非難しているほか、現地のシーア派コミュニティに戦闘的な書簡を送付するなどの行動もあった。

これらのことからは、もともとシーア派として欧米各国による対テロ戦に反対していたが、最近になってスンニ派に転向し、同時にさらに過激な行動を志向するようになったことが推測される。となれば、今回の犯行は、スンニ派の超過激派集団であるイスラム国への同調という可能性がある。

殺人事件の従犯の容疑も

ただし、このハロンという人物は、さらに奇妙な行動がある。彼はなんと、自分の先妻の殺害事件の従犯として起訴されており、現在、保釈中だというのである(彼自身は否認)。

また、他にも性的暴行、強制猥褻などでも嫌疑を受けているという(彼自身は黒魔術等のサービスを行っただけと主張)。

さらに、過去には、アフガニスタンで戦死したオーストラリア兵士の遺族に、非常に攻撃的で、故人を侮辱する表現の手紙を送付しており、こちらではすでに有罪判決を受けている。

こうした経歴がすでに現地メディアによって報道されているが、それらのことからは、彼が通常の精神状態にあったかさえ、よくわからない。ただ、彼は篭城中、現地メディアに盛んに接触しており、さらにアボット首相との対話を求めるなど、自身の行動を大きくアピールしたいと考えていたことは確かなようだ。

そこでハロンが訴えようとしていたことは、おそらく彼独自のイスラムの大義のようなものだったろう。イスラム国の支持者と自身を位置づけていた可能性もあるが、彼の奇矯な過去からすると、世界の注目を集めるイスラム国の動きに便乗しようとした可能性が高いのではないかと、現時点では筆者は推測している。

なお、現時点での情報では、ハロンがイスラム国と直接関係していたという形跡はないようだ。

カナダでもイスラム国支持者のテロ

今回の事件の背景はこれから明らかになっていくだろうが、イスラム国の支持者を自称する個人または少人数の仲間内グループが、イスラム国に便乗してテロを起こすということは、短期的な連鎖として、今後も世界各地で発生する可能性がある。

すでにそうした徴候がある。たとえばこの9月には、やはりオーストラリアで、イスラム国支持者の18歳の少年が警察官をナイフで襲い、逆に射殺されるという事件があった。また、やはりオーストラリアで、イスラム系移民15人がテロ計画容疑で一斉摘発されるという事件も発生した。当局の調べによると、このグループはイスラム国に参加しているオーストラリア国籍の戦闘員から連絡を受けていたという。

10月には、カナダでカナダ軍兵士が襲撃されるという事件が2件、立て続けに発生している。1件目はモントリオールで、イスラム国支持者の25歳の男がカナダ兵士2人を轢き、うち1人が死亡している。

2件目は首都のオタワで、32歳の男がカナダ兵士を射殺した後、連邦議会議事堂に侵入して銃を乱射したという事件である。こちらは犯人がイスラム国支持者かどうかはっきりしていないが、イスラム教への改宗者で、犯罪歴のある人物だったということだ。

テロの連鎖を警戒せよ

捕虜や異教徒を大量処刑し、斬首遺体を晒してその様子をネットで誇示したり、異教徒の女性を戦利品として奴隷化したりするなど、すでにイスラム国の残虐性は世界中で報じられているが、それでも一部にはイスラム国を支持する外国人が、イスラム社会の外部にも極少数ながら存在する。その中から実際にシリアやイラクに渡ってイスラム国に合流し、義勇兵となるケースが続出しており、国際的な問題になっている。

さらにそれだけでなく、前述したように、世界中のシンパが各地でテロを起こす危険性が高まっている。たとえば、すでに9月にイスラム国の最高幹部のひとりであるアブ・ムハンマド・アドナニが、アメリカ、イギリス、フランス、オーストラリアなどの国名を挙げて「イスラム教徒はこれらの国民を、どんな方法を用いても殺害せよ」との声明をツイッターで発表するなど、海外のシンパにテロを呼びかけている。

かつて9・11テロの後にスペインやイギリス、インドネシアなどでアルカイダの支持者によるテロが連鎖したように、現在はまさにイスラム国のテロ指令に呼応したテロが連鎖する可能性がある。今回のシドニーのケースが相当するかどうかはわからないが、必ずしも強固な宗教的同調でなくとも、社会不適格者あるいは異常者がイスラム国の支持者を気取って起こす通り魔的な犯罪が連鎖するかもしれない。

イスラム国はかねてSNSを駆使し、非常に高度なネット戦略で、海外に支持者を広げることに成功している。筆者は9・11テロ以前から国際テロの動向をフォローしているが、テロは流行り病のような性質がある。こうした熱は一時的でも流行しやすい傾向があり、今後しばらくは警戒すべきであろう。

(ちなみに、イスラム国のネット戦略や、海外での関連テロの動向については、拙著『イスラム国の正体』<ベスト新書・KKベストセラーズ刊>に詳述しています⇒内容案内