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なぜYAMAHA製改造バイクにYAMAHAのステッカーを貼って販売すると商標権侵害になってしまうのか

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
(写真:イメージマート)

先日、X(旧ツイッター)で、YAMAHAの現行バイクの外装を改造して、絶版の旧車に似た外観にしたオリジナルモデルにYAMAHAのステッカーを貼って販売しようとしたところ、ヤマハ発動機より商標権侵害の警告書が届いたという件が話題になりました。

おそらく、販売者としては「YAMAHA製でないバイクにYAMAHAの登録商標が描かれたステッカーを貼って販売すれば商標権侵害になることは当然として、元はYAMAHAのバイクなのだからYAMAHAのステッカーを貼って何がいけないのか」という感覚なのだと思います。しかし、この件は、もし訴訟になれば商標権侵害とされるのはほぼ確実です。

元はYAMAHA製のバイクであっても、今、YAMAHAが作っているバイクとは異なる外観にされたことで、商標の持つ出所表示機能と品質表示機能が損なわれているので商標権侵害になるという論理付けがされるでしょう。

なお、商標権は「業として」の使用にしか及びませんので、買った人が個人でステッカーを貼って自分で使うだけであれば商標権侵害となることはありません(侵害の警告書においてこうすれば問題ないということをYAMAHAも主張しているようです)。なお、一般には、登録商標が印刷されたステッカーを許可なく製造・販売すると商標権の間接侵害となる可能性が出てきますが、YAMAHAの場合にはグループ会社が販売する純正ステッカーもあるようなので、それを個人で買って貼る分には問題ないでしょう。

なお、このように元々は真正品だった物に何らかの改造を加えて販売したことで、商標権侵害とされたケースは結構あります。たとえば、無音化改造したAirTagをネットオークションで販売した事例(関連過去記事)、ジェイルブレイクしたiPhoneをネットオークションで販売した事例(関連過去記事)、任天堂Wiiの改造品(いわゆるMODチップ)をネットオークションでオークションで販売した事例などがあります。

さらに遡ると、たとえば、調味料のハイミー、ココアのHERSHEY’S、オイル添加剤のSTPなどを小分け・詰め替えして、商標を付したまま販売したことで商標権侵害とされたケースがあります。中身は変えていなくても詰め替えにより品質を維持できない可能性もあることから品質表示機能を損なっているという考え方です。

しかし、自動車やバイクのように(さらには、スポーツ用品や楽器のように)販売後にある程度改造を行い、かつ、それを(元の商標を付けたまま)転売することが一般化している商品もあります。自動車で言えば、ちょっとでも改造を加えた(たとえば、ステアリングを取り替えたり、タイヤをインチアップしたり、ECUチューンしたり等)車を中古車屋で転売すると商標権侵害とされてしまうと現実にそぐわないとも思えます(なお、個人で改造する分には商標権侵害になり得ないのは前述のとおりです、問題になるのは転売の時です)。

これは、厳密に言えば違法(権利侵害)だが、訴えても利益がない(むしろ不利益になる)ため権利者が黙認しているという状況であり、二次創作物における著作権の扱いと似ていると言えるかもしれません。

追記:解説YouTube動画も作って見ました。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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