Yahoo!ニュース

ぎりぎりセーフを狙った「鬼滅の刃」便乗グッズ販売で有罪判決

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
(写真:西村尚己/アフロ)

「”悪質、人気に便乗” ”鬼滅”類似グッズ販売会社社長に有罪判決」というニュースがありました。「鬼滅の刃」を連想させるデザインの商品を販売したとして、不正競争防止法違反により、雑貨販売会社社長が有罪判決を受けたという話です。

この事件については、起訴された時に記事を書いています。不正競争防止法と商標法違反の疑いで、社長と店員の計4人が逮捕され、結局、販売会社社長の不正競争防止法の件だけが起訴されていました。

被告人は、「鬼滅の刃」「炭治郎」等々、明らかに商標権侵害となる言葉やマークの使用は避けて、主要キャラクター6人が着ている服の模様をあしらった商品を「鬼退治」等の商標を付けて販売していました。ぎりぎりセーフの線を狙ったのだと思うのですが、結果的にぎりぎりアウトだったということになります。

関連法文は、不正競争防止法2条1項1号です。

2条1項1号 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為

模倣品の販売を防止するという目的においては商標法に似ていますが、商標と異なり、登録されている必要はありません。また、保護対象はマークや名称だけでなく、商品の形態等にも及び得ます。その代わりに、重要な要件として、周知であること、および、消費者に混同が生じていることが求められます(商標権侵害の場合はこれらの要件は不要)。加えて、今回は刑事なので「不正の目的をもって」という要件もあります。

裁判所は、以下のように判示したようです。

六つの模様に特別顕著性(独特の特徴)があるのかを慎重に検討。伝統的な和柄も含まれており、うち三つは単体では作品に結びつけられないとした上で、「4種類の模様を組み合わせれば、特別顕著性があると認められる」と判断。被告は模様の入ったタオル、パーカなどの商品を4種類以上のセットで販売しており、「作品を連想させ、公式グッズとの認識を抱く」と認定し、不正な目的があったと結論付けた。

当然ながら、炭治郎の服のような柄の服を売るだけで犯罪になるわけではありません(実際、普通に売っています)。

しかし、同じアニメで使用されている柄4つの商品をセットで、かつアニメを想起させる言葉と共に販売していれば、全体的に判断して2条1項1号に相当すると判断され得ます(偶然の一致とも昔からある柄に過ぎないとの抗弁も困難ででしょう)。一般に、不正競争防止法は(商標法もそうですが)対象の周知性が高いほど、保護も強まります。「鬼滅の刃」の周知性は相当なものと考えられるので、やや被告人側にとって厳しめのように思える判断が出るのはしかたありません。ただし、被告人は控訴する意思だそうなので最終的にどうなるかはわかりません。

ところで、弁護側は「税関の許可も得て輸入した」と抗弁していたようですが、権利者が税関に申立をしておけば、明らかな権利侵害品は税関で差し押えになる可能性はあるものの、税関で差し押えられなかったからと言って権利を侵害していないということにはなりません(逆は必ずしも真ならずというお話です)。ちょっとよくわからない理屈です。

そのあたりも含めて、是非、判決文を公開していただきたいものですが、地裁判決は必ずしも裁判所サイトで公開されるとは限らない(特に刑事の場合)のが困ったところです。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

栗原潔のIT特許分析レポート

税込880円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

日米の情報通信技術関連の要注目特許を原則毎週1件ピックアップし、エンジニア、IT業界アナリストの経験を持つ弁理士が解説します。知財専門家だけでなく一般技術者の方にとってもわかりやすい解説を心がけます。特に、訴訟に関連した特許やGAFA等の米国ビッグプレイヤーによる特許を中心に取り上げていく予定です。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

栗原潔の最近の記事