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「1・2・3・ダァーッ」の登録商標とその更新について

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
出典:特許情報プラットフォーム

故アントニオ猪木選手の決め台詞「1・2・3・ダァーッ」は商標登録されています。権利者はコーラルゼット株式会社という猪木氏自身が代表を務めていた会社です(出願人は株式会社猪木事務所でしたが実質的に同じ会社と思われます)。

第4558232号(9類:コンピューター関係)、第4562064号(41類:興行関係)、第4587463号(33類:酒類)、第4587464号(30類:植物性食品)、第4587465号(32類:飲料)、第4587466号(29類:動物性食品)となぜか区分ごとに別々に出願され、登録されています(日本の商標制度では一出願で複数区分を指定できるのであまりこうする意味はありません)。

「1・2・3・ダァーッ」が商標登録されているのだから、アントニオ猪木(の事務所)に無断で「1・2・3・ダァーッ」と言ってはいけないのかというと、もちろんそんなことはありません。商標権はある言葉(や図形)を商品やサービスの標識(マーク、ブランド)として独占できる権利であって、その言葉を使うことそのものを独占できる権利ではありません。

この商標登録を引き合いにして、飲み会で「1・2・3・ダァーッ」と言うために猪木の許可は不要だが、「1・2・3・ダァーッ」ブランドのビールを製造・販売するためには猪木(事務所)の許可が必要というたとえを、私が大学でやっている商標法の講義の一番最初に商標の意味を説明する時にいつも使ってきました。

さて、これらの商標登録は2002年の登録なので、今年が2回目の更新期限になっており、9月22日に無事更新手続が行われています。上記の第4558232号(コンピューター関係)は2002年4月5日の登録なので更新期限(2022年4月5日)を過ぎてしまっているのですが、更新期日から6カ月間は料金を倍額払うことで権利回復できるので、ぎりぎりセーフでした。まあこの時期に手続が後回しになってしまったのはいたしかたないと思います。

また、これらの登録には6回ほど権利移転の手続が行われており、最後の移転は猪木氏の死後の10月6日に行われています。詳細はウェブからは見られませんので、登録原簿の閲覧請求中です。閲覧でき次第、内容を追記します。

追記)第4558232号(コンピューター関係)のみ原簿を取り寄せてみました。猪木事務所→インタナショナル エンタテイメント エージェンシーというニューヨークの会社(詳細不明)→コーラルゼットと権利移転がされていることがわかりました。それ以外は住所変更なので特におもしろい話ではありません。移転手続の取下が繰り返されている事情も不明です。最近の10月6日付の移転申請はまだ原簿に反映されていないようです。また、株式会社平和に対して「スロットマシン」を指定商品とした専用実施権(独占ライセンス)が設定されていました(既に期間終了)。平和とアントニオ猪木のコラボによるパチスロ機は何種類かあるようですが、「1・2・3・ダァーッ」そのものを商標としたものはないようです。包括的な契約の一貫としてライセンス締結されたものと思います。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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