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ブランドジーンズのバッグ改造品販売で逮捕:商標権の「直接侵害」とは何なのか?

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
出典:いらすとや

「"悪意を持ってやっていなかったが…" 商標法違反で県内初、本物の商標を使ったいわゆる"直接侵害"の疑いで長岡市の女を逮捕」という記事を読みました。

エドウィンやリーバイス等のブランド物のジーンズの商標部分を残す形でバッグにリメークして、販売していた人が商標法違反により逮捕されたという話です。

警察によりますと、商標法違反の中でも本物の商標を使ったいわゆる『直接侵害』のケースで逮捕するのは県内で初めてだということです。

という文面があるので、本物の商品の商標部分をそのまま使った商標権侵害を「直接侵害」と呼ぶかのように思えてしまいますが、そういう意味での「直接侵害」は初めて聞きました(ひょっとすると警察用語なのかもしれませんが)。

一般に、商標権の「直接侵害」とは、登録商標と同一・類似の商標を「使用」することを言います。「使用」とは、典型的には商標(正確には標章)が付いた商品を製造・販売・輸入等することです(さらに、当然の前提として「業として」(商売として)という要件も含まれます)。本物の商品の商標部分を使わなくても、エドウィン製ではないジーンズに勝手に自分で作った「エドウィン」というタグを付けて販売すれば「直接侵害」になります。

「直接侵害」があるからには、「間接侵害」もあります。商標を「使用」しているわけではないが、侵害につながる可能性が高い行為です。典型的な「間接侵害」として、侵害品の販売目的所持があります(販売していなくても所持しているだけで侵害になります)。

ブランド品の商標権侵害で警察に検挙されるパターンとしては、侵害品の販売目的所持による「間接侵害」嫌疑が多いと思います。侵害行為が立証しやすいからと思われます。これに対して、今回はおおっぴらに店で売っていたので「直接侵害」で逮捕できたが、それは(新潟)県内で初めてという話だったのが、いつのまにか、本物の商品の商標部分をそのまま使っているので「直接侵害」と読めてしまいそうな文面になってしまったのではないかと思います。

なお、ちょっと話が変わりますが、被疑者の方は「悪意を持っていなかった」と述べているそうですが、これはおそらく、自分で正当に購入したジーンズを使っているから商標権侵害にならないだろうと考えていたのだと思います。自分で正当に購入したジーンズを中古ジーンズとして商標が付いたまま再販売しても商標権を侵害することはありません(これで商標権侵害になったらあらゆる古着ビジネスは成立しません)。これは、商標の機能(出所表示機能)を害していないからです。しかし、バッグや財布等、ジーンズ以外のものにリメークしてしまうともはやこれは成り立ちませんので、業として販売すると商標権を侵害することになります。なかなか理解しにくい点だと思いますので、まさか商標権侵害になるとは思わなかったというのは単なる言い訳ではなく、情状酌量の余地はあるのではないかと個人的には思いました。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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