裁判所サイトに掲載されている知的財産判例を見ると、特に最近、発信者情報開示請求の訴訟が多く見られます(先日の記事で紹介したものもそうでした)。地裁判決の場合、すべての判決が裁判所サイトに掲載されるわけではないのですが、匿名ユーザーによる迷惑行為に対抗するために、プロバイダー責任制限法(プロ責)に基づき発信者情報の開示を請求するケースが増えていることが窺えます。

発信者情報開示についてはツイッターが関係するケースがよく見られます。ツイッターの匿名アカウントの行為に対して名誉毀損や著作権侵害の訴訟を行うためには、通常、以下のステップが必要になります(なお、今年末までに施行予定の改正プロ責法では1.と2.のステップを1回にまとめて、かつ、裁判よりも簡便な手続で行えるようになります)。

ステップ1. 米ツイッター社に対して匿名アカウントのIPアドレスの開示を請求

ステップ2. そのIPアドレスを管理するプロバイダー(ISPや携帯事業者)を被告に、そのIPアドレスを使っている匿名ユーザーの氏名・住所・電話番号等の開示を求めて提訴

ステップ3. 開示された個人情報に基づいて匿名ユーザーを被告に提訴(著作権侵害・名誉毀損等)

通常、ステップ1. は通常の裁判ではなく、発信者情報開示仮処分命令申立にすることが多いようです。プロバイダーのIPアドレスのログ保持期間はあまり長くないので、通常の裁判を行うと判決時点で目的のIPアドレスのログが消失している可能性があるからだそうです。通常、仮処分だと裁判所のサイトに決定文は載りませんので、ツイッターに対してどのような請求が行われているかは外部からはわかりにくいです。

しかし、最近、ツイッターを被告として発信者情報開示の訴訟(仮処命令申立ではない)の事例がありました(判決文)。ツイッターで匿名ユーザーにトレース疑惑をツイートされたイラストレーターが名誉毀損と著作権侵害(公衆送信権と同一性保持権)であるとして、米ツイッターを被告として匿名ユーザーの情報開示を求めたものです。

リンクを貼るのはやめておきますが、判決文の内容からどのツイートが対象なのかはわかります。問題とされたツイートは、イラストがトレースではないかいう意見を、画像の重ね合わせと共に示したものです。私見としては、匿名ユーザーゆえの言いたい放題モードになっている要素はあるものの、正当な批評(著作権法における正当な引用)の範囲内と言えないこともないのではと思いますが、裁判所は、名誉毀損に相当する、(批評に必ずしも必要でない画像を利用したことから)著作権侵害に相当する、(ツイッターの仕様により画像がトリミングされていることから)同一性保持権侵害に相当する(出た!)と判断し、IPアドレス、メアド、電話番号の開示を命じました。なお、IPアドレスは直近のログインで使用されたアドレス(もとよりツイッターは投稿ごとのIPアドレスは記録していないようです)なので、匿名ユーザーが最近まで定期的に投稿を行っている前提であれば、プロバイダーにおけるアクセスログの保存期間はあまり気にしなくてよさそうです。

一般的に、ネット上で、漫画やイラストのトレース疑惑を指摘する際に、当該画像とネタ元画像を重ねて表示して類似点を示すのは、普通にやられるていると思いますので、正直、これで著作権侵害と言われてしまうと批評ができなくなってしまうのではと思います(なお、トレース自体は別に違法行為とは限りません)。

発信者情報開示に一般的に当てはまることですが、訴訟の被告はプロバイダーであって発信者ではないので、問題のツイートをした匿名ユーザーは当事者ではなく、裁判所の判断に不服があっても直接的に反論することはできません。反論するのは、上記のステップ3. において被告になってからということになります。結果的に、ステップ3.でステップ1. および2. と同じ結論が出るとは限りません。

今回のケースでもうひとつ注目すべきは、発信者情報の一つとして電話番号の開示が命じられことです。電話番号を入手できれば、上記のステップ2.に進むまでもなく、匿名ユーザーに電話をかけて交渉する(プレッシャーを与える)ことはできるかもしれません。ただし、ツイッターにおける電話番号の登録は任意なので、今回のケースで登録されているかどうかは不明です。

結局のところ、重要なのは「実名であれば言わないようことは匿名でも言わない」という大原則を守りましょうということです(正当な内部告発等はまた別ですが)。また、上述のとおり、年内には、プロバイダー責任制限法の改正法施行により、発信者情報開示のハードルが今よりもっと下がりますので、この原則はますます当てはまることになるでしょう。