他人の氏名を含む商標は登録できないとする商標法4条1項8号については今まで何回か書いてきました(関連過去記事1関連過去記事2)。

4条1項8号 他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)

この条文の趣旨は他人の人格的利益を保護することであり、それはもちろん重要なのですが、最近の特許庁および知財高裁の判断では、あまりにも運用が厳しく非現実的なレベルにまで達しています。再度まとめると、

  • 出願人本人の氏名でも駄目(同姓同名者の許可が必要だから)
  • 出願人の氏名が著名でも駄目(人格権の保護が目的であって著名商標の保護が目的ではない)
  • 英語で表記しても駄目
  • 氏と名のスペースをカットしても駄目
  • 名→氏の順番でも駄目
  • デザインを施しても駄目(識別性の問題ではない)
  • 氏名以外に文字が付加されていても駄目(条文上「~を含む商標」となっているから)

ということになります。審査段階では、全国のハローページを参照して同姓同名者を探すので、ある程度珍しい名前の場合には登録される可能性はあります(たとえば、「前澤友作」は無事登録されています)が、異議申立や無効審判を請求される可能性は残ります。ファッションデザイナーが自分の氏名を含むブランド名を商標登録したくてもできないケースが生じ、かなり影響が大きいです。

過去記事では「これでは、”マツモトキヨシ”もアウトになってしまう」と書いたのですが、それが現実になってしまいました。今回は音商標(商願2017-7811)です(タイトル画像参照)。CMでおなじみの「マツモトキヨシ」という歌詞のサウンドロゴです(上記リンクをたどると音のサンプルが聴けます)。2017年1月に出願されたこの商標は、2018年3月に拒絶査定となり、マツモトキヨシ社(株式会社マツモトキヨシ)は不服審判を請求したのですが、請求棄却の審決が昨日(2020年9月29日)に出ました。

審判官の判断は今までのケースと同じで、松本清、松本潔等々全国にマツモトキヨシという読みの氏名の人はたくさんいるので、4条1項8号に相当する。マツモトキヨシが著名であるという点は関係ない(人格的権利の保護が目的だから)というものです。上記のリストに「音商標の歌詞でも駄目」という項目が加わったことになります。

なお、マツモトキヨシ社のロゴの既存商標登録は登録から5年以上経過しているので、除斥期間という制度(一種の時効)により、4条1項8号を理由に無効にされることはありません。ただし、マツモトキヨシ社が今後、商品・役務を追加して新たな出願をしたり、新たなデザインの(マツモトキヨシという文字を含む)ロゴを出願したり、(ないとは思いますが)失効した登録を再出願したりすると、拒絶される可能性が大になってしまいました。

おそらく、マツモトキヨシ社は審決取消訴訟を提起するものと思われます(追記:10月28日付けで提訴されました)が、最高裁まででもがんばって、なんとか現実により即した解釈を引き出してもらいたいと思っています。せめて、出願人本人の、または、出願人と縁のある氏名であり、既に著名商標化しており、カタカナ書きロゴ等通常の氏名表記とは異なる態様であり、他人の人格的権利を損なう等の特段の理由がなければ、4条1項8号は適用しないくらいの解釈にできないものでしょうか。