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クラフトワーク、フローリアン・シュナイダーの「特許」について

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
出典:USD244717S公報

「クラフトワークの共同創設者、フローリアン・シュナイダーが73歳で死去」というニュースがありました。大変悲しいです。クラフトワークは自分が電子音楽に目覚めたきっかけでもあり、タイトル画像のジャケットで知られる「ツール・ド・フランス」などは今でよく聴いています。ところで、記事タイトルの「共同創設者」はco-founderの訳だと思いますが、会社みたいなので「創立メンバー」「初代メンバー」くらいの方が良かったんじゃないでしょうか?

さて、フローリアン・シュナイダー氏のWikipediaエントリーを見ると「1973年にはセンサーパッドの付いた電子パーカッションを発明し1975年に特許を出願、1977年にアメリカで(ラルフ・)ヒュッターと連名で取得している」との記載がありますので調べてみました。

当該「特許」はUSD244717Sですが、これはデザイン特許、すなわち、日本でいう「意匠登録」です(タイトル画像参照)。技術的なアイデア(発明)ではなく、外観デザインで権利取得したということになります。したがって、上記Wikipediaエントリーの記載の「電子パーカッションを発明し、特許を...取得した」は微妙に不正確で「電子パーカッションのデザインを創作し、意匠登録した」と書くべきでしょう。

この件に限らず米国記事の翻訳記事で「特許」と書いてあったものが実は「意匠」でしたという話はあるあるです(米国の制度では特許と意匠を同じ法律で扱っているのでこういう事態が生じます)。しかし、この話はまだ続きがあります。

英語版のFlorian SchneiderのWikipediaエントリーを見ると、上記意匠登録の話は書かれておらず、クラフトワークの代名詞とも言えるロボット音(Robovox)の特許を取得したとの記載があります。その記載の引用元の記事”7 pieces of gear that prove Kraftwerk are technological trailblazers”(クラフトワークのサウンドを生み出したテクノロジが紹介されており大変興味深い記事です)によると、1991年発売のThe Mix収録版のThe Robotで使用されているロボット音が“system for and method of synthesizing singing in real time”という名称の特許に基づくものとの記載があります。

これで調べてみると確かにフローリアン・シュナイダー氏を発明者とする特許出願(EP0396141)が1990年5月に欧州特許庁に行なわれています。こちらは、意匠ではなくシンセサイザーの技術に関する純然たる特許ですが、審査中に取り下げられており特許化はされていません(なので、上記記事も微妙に不正確です)。ただ少なくともフローリアン・シュナイダー氏がテクノロジにも造詣が深かったということは確かなようです。

出典:EP0396141公報
出典:EP0396141公報
弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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