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KIMONOが米国で商標登録されてしまったらどうなるか?

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
(写真:アフロ)

キム・カーダシアンが関係するKIMONO Intimates社が、下着類、かばん類等を指定して、米国にKIMONOを商標登録出願していたことについては昨日書きました

万一、これらの出願が登録されてしまった場合にどのような影響があるか検討しましょう。商標権が及ぶのは原則その国の中だけなので日本国内でのビジネスに影響が及ぶことはありません。

この話に関連して2016年に私が書いた記事「スペインでうどん屋がUDONという商標を使えないという問題について」という記事を引き合いに出す人もいるようです。状況としては似ていますが、スペインの一般消費者にとってUDONが一般名詞化しているかどうかは微妙であるところ、米国の一般消費者にとってKIMONOが(少なくとも衣服の一種としては)一般名詞化している点が違います。

重要な点として、日本の「着物」をKIMONOとして米国で販売することに対して、これらの商標権の効力が及ぶことはありません。商品の特性そのものを記述することは商標的使用ではないからです(「記述的フェア・ユース」と呼ばれ米国商標法にも明文化されています)。ちなみに、この点は日本の商標法でも同様です。

やっかいなのは、たとえば、米国においてKIMONO Shopと看板やタグを付けて着物を販売している店で、合わせて下着やかばんも売っていた場合等に、下着やかばん類を指定商品とした商標権を行使される可能性が出てくることです。この場合でも裁判で記述的フェア・ユースを主張することは可能と思いますが、米国で実際に裁判をすると相当な費用がかかりますので、相手の主張を呑んで和解せざるを得ないといったケースが出てくる可能性もあります。とは言え、KIMONO Intimates社も消費者の反発を買ったのでは意味がないので、あまり強硬に出ることはないと思いますが。

私の個人的感想を言えば、今回の事件での最大の問題は、KIMONOを日本文化として世界にアピールしたいという動きがある中で、米国の消費者の中に「KIMONOって下着ブランドのことですよね」という印象が広まってしまう、一種の希釈化が発生してしまうことだと思います。すなわち、商標登録がされるか否かだけではなく、実際のブランドとしての使用自体が問題だと思います。

この問題の解決策ですが、いきなり裁判沙汰にするのは好ましくありませんし、勝率は必ずしも高くないと思います。やはり、日本の関連団体が、KIMONO Intimates社と米国の消費者に向けて何らかの声明(感情的な非難ではなく冷静な意見)を出すべきでしょう。KIMONO Intimates社も営利企業として損得で動きますから、米国の消費者の反発を買ったら損だなと思わせれることができれば、別商標への変更も検討するのではと思います。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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