東京オリンピックの撮影関連規定は極悪なのか?
2020年開催の東京オリンピックのチケット購入・利用規約に関して、福井健策弁護士がツイッターで何回かツイートされています(本記事では著作権関連のトピックのみ取り上げます)。
確かに、33条3項および4項には以下の既定があります(太字は栗原による)。
チケット購入者は、会場内で撮影した写真・動画について、翻案権も含めて著作権をすべてIOCに譲渡し(かつ著作者人格権の不行使に同意し)、個人的目的のみに利用することを「IOCがチケット購入者に許諾する」という構造です。撮った動画を自分で見たり友だちに見せる分にはOKですがSNSにアップするのはNG(単なるルール違反ではなく著作権侵害)ということになります。
平等院の写真に関する記事でも解説したように、IOCは施設管理権に基づいて会場内での行為を規制できる権利を持っていますが、「撮影するな」あるいは「写真や動画を商用利用するな」ではなく「著作権を譲渡せよ」というのはなかなかドラスティックです。
「(施設管理権に基づいて)商用利用禁止」と「(施設管理権に基づいて)著作権を譲渡せよ」はどう違うかというと、第一に、前者の場合は原則的には差し止め請求できない(損害賠償請求しかできない)のに対して、後者では著作権法に基づく差し止め請求ができます。第二に、前者では撮影者に対してしか権利が及ばないのに対して、後者では誰に対しても権利行使できます。さらに、厳密に言えば後者では刑事罰も適用され得ます(現実にそういう話になることはないと思いますが)。
たとえば、誰かがオリンピック会場内で撮影した動画をSNSにアップしたとします。前者の場合は、IOCは撮影者に損害賠償請求することしかできませんが、後者の場合は、それに加えてSNS事業者に動画の消去を要求できます。さらに言うと、IOCは、その勝手にアップされた動画を(撮影者の許可なく)自由に使うこともできてしまいます。
「極悪」既定という考え方もあるかと思いますが、会場内撮影禁止と言っても言うことを聞く人は少ないでしょうし(特に外国人観光客は完全スルーでしょう)、撮影OK、私的利用のみ許諾するとした方が現実的という考え方もあり、この場合にアップされた写真・動画の削除を(アップ主ではなく)SNS事業者に命じられるという点で合理的と言えなくもありません。