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「チケットキャンプ」が警察の捜査を受けたのはなぜなのか?

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
出典:いらすとや

「"チケットキャンプ"がサービスを停止、再開は未定」というニュースがありました。ミクシィの子会社フンザが運営するチケット売買サイト「チケットキャンプ」が警察の捜査を受けたことを理由としてサービスを一時停止するということだそうです。

多くのコンサートチケットは転売禁止とされており、転売されたことが明らかなチケットではコンサートに入場できないことがあったりします。なのでチケット売買サイトでも公式には認められていないわけですが、これは契約上(民事)の話であって、警察は関係ありません。(追記:と書きましたが、最初から転売目的でチケットを購入したことが明らかであれば詐欺罪に問われる可能性はあります、実際、本記事公開後、チケットキャンプはこのような詐欺行為の幇助という別の件で警察の捜査を受けました。)

会場前でチケットを転売しているダフ屋が警察に捕まることがたまにありますが、これは迷惑防止条例違反によるものでネットでの転売は関係ありません(将来的にネットでの転売にも適用されるような改正が行なわれる可能性はありますが)。

上記記事には「商標法違反および不正競争防止法違反の容疑」と書かれています。一般に商標法違反には刑事罰があります(偽ブランド品を販売目的で所有していて逮捕なんてニュースがたまにあります)ので、警察が出てくるのはわかるのですが、チケット売買サイトのどこが商標法違反になり得るのでしょうか?

事務所名やアーティスト名が商標登録されていることもありますのでチケットの券面に登録商標が書かれていることがあり得ますが、これを理由にチケット転売が商標法違反となることはありません。商品が偽物でない限り商標はその出所表示機能を発揮しているからです。もし転売が商標権侵害になり得るのであればチケットに限らずあらゆる中古ブランド品の販売が商標法違反になってしまいます。

ネット上の様々な情報を総合するとどうやら「ジャニーズ」の名称をサイト上でジャニーズ事務所の許可なく使っていたことが問題とされたようです(参照記事)(追記:本記事公開後に出た新聞記事でも裏付けられました)。そもそも、ジャニーズ事務所はチケットの転売についてはうるさいにもかかわらず、チケットキャンプは「ジャニーズ応援キャンペーン」(ジャニーズ関連チケットの取引手数料を無料にする)等を展開していたのでジャニーズ事務所を怒らせるのも無理はないと言えます。

当然に予測されるとおり「ジャニーズ」は株式会社ジャニーズ事務所によって商標登録(第3016145号)されており「興行場の座席の手配」という指定役務もありますので商標権侵害となる可能性はあります(商標的使用ではないという抗弁も可能に思えるので起訴されるかどうかはわかりませんが)。

イベントチケットの転売問題は功罪相半ばするところがあってなかなか難しいところがあります(これについては長くなるので別記事で議論したく思います)が、この件に関して言えば他人の名称(しかも登録商標)にただ乗りして商売するのはさすがにやり過ぎと思います。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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