「チバニアン」商標登録が(一部)取消になった理由
「”チバニアン”印刷物の商標登録を取り消し 特許庁、研究チームの異議認める」というニュースがありました。
ということだそうです。「チバニアン」が個人により商標登録されていたことは以前から問題になっており、最近に国際学会が正式名称として選択する可能性が高まったことでさらに懸念が増していたわけですが学術界としては一安心といったところでしょう。
この異議申立の決定文(特許庁の判断)が既にウェブで公開されています。J-PlatPatの審決速報メニューで異議番号2017-900179を入力すれば見ることができます。異議申立人は「大学共同利用機関法人情報・システム研究機構」です。「チバニアン」という名称の命名者でもあります。
結論部分は以下のとおりです。
商標法第4条第1項第7号とは「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」です。別にわいせつ物等に限定された話ではなく、審査官がこの商標を登録すると社会通念的にまずいと判断したときに「伝家の宝刀」的に使用される取消理由です(これが乱発されると、それはそれでまずいのでよほどのことがないとこの取消理由は採用されません)。特許庁審判官は、「もしチバニアンという商標が公的な研究チームと関係ない人により印刷物に対して使用されると消費者の混同を招くので公の秩序を害する」と判断したことになります。
ここで注意が必要なのは、取消になったのは「印刷物」という指定商品のみであり、他の指定商品である紙類、貴金属類、おもちゃ類の登録は残っている点です(商標権は常に商品やサービスとのペアとして扱われます)。さらに、今年の6月には同一出願人により弁当類やジュース類を指定商品とした新たな出願が行なわれています。この出願もこのまま登録されてしまう可能性が高いと思われます。
これらの登録はフリーライド色は強いものの「公序良俗違反」で取消・無効にするのは難しいのではないかと思います。印刷物の場合のように「チバニアン」という商標を使用すると消費者が誤認するというロジックが立てにくいからです。例として、地質時代とはちょっと違いますが、会計ソフトの「弥生」は当然に商標登録されていますが、消費者が「弥生時代」と混同するから無効であるという理屈は通らないというようなものです。さらに、地質時代の名称の例で言えば、CAMBRIAという商標登録(ホテルチェーン等)もいくつかありますが、「カンブリア期」と混同するので無効というのはちょっと無理筋と思います。
市原市の地層現場周辺等で「チバニアン」という名称の土産物を販売しようとする人はいると思いますが、商標権上の考慮が必要になってくる可能性があります(土産物としてありそうな饅頭類が出願されてないのは幸いかもしれません)。ただし、商標権は普通名称を普通に使用される方法で使用している場合には効力を生じませんので、たとえば、「“チバニアン”の里、市原名物<独自の商品名>」といったような表記をすれば、商標権侵害を回避できる可能性はあります(なお、この場合でも「チバニアン」を目立つように表示したりすると商標的使用と見なされるリスクはあります)。