Yahoo!ニュース

正露丸のラッパメロディがようやく商標登録

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

大幸薬品の正露丸のCMで使用されている軍隊ラッパ音のメロディが音商標として出願されていることは既に書きました。(関連過去記事「音商標の公開公報が発行されました:一番乗りはあの会社のあの音」、「正露丸のラッパ音商標出願の審査が長引いている件」)。

過去記事にも書いたように、2015年4月1日に一番乗りで出願されていたにもかかわらず、審査が長引いていましたが、約2年半の審査期間を経てようやく登録されたことになります(担当者の方もほっと一息かと思います)。

これに関して、特許庁から「音楽的要素のみからなる音商標について初の登録を行いました」というリリースが出ています。正露丸のラッパメロディに加えて、インテルとBMWのCMで使用されているサウンドロゴも登録され、計3件が登録されたことになります(上記リリースではこの3件の音商標を聞くことができるようになっています)。

2015年4月1日に音商標の出願が可能になってから既に多くの音商標が登録されていますが、これはすべて言葉ないし歌詞がついているメロディの音商標でした(たとえば、大正製薬の「ファイトイッパーツ」、伊藤園の「おーいお茶」、小林製薬の「ブルーレットおくだけ」(メロディ付き))。特許庁の審査基準としては、言葉として識別力があれば音商標としても識別力があるとみなす運用になっていますのでこれは当然です。

今回のポイントは、歌詞なしのメロディだけから成る音商標が初めて登録されたという点です。メロディだけの音商標は「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」とされ、登録のためには、出願人は使用による識別性(セカンダリーミーニング)を立証しなければいけないという運用になっています。一般に、セカンダリーミーニングの立証には、広告への投資額や消費者への認知度アンケート調査結果等々多様な書類の準備が必要で結構大変です。審査記録を取り寄せてみましたが(特許と異なり商標は有料で取り寄せないと審査経過がわかりません)大幸薬品側は複数回の面談を行ない、大量の証拠書類を提出していました(たとえば、テレビ番組でこのラッパメロディを聞いた人が「正露丸のCM」を連想したと答えたといった証拠なども提出されています)。

商標は更新さえすれば永遠に権利が存続できる強力な権利なので、ハードルを高く設定するのは当然と言えます。したがって、たとえば、一般個人がメロディを商標登録しようとしても現実には登録は不可能です。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

栗原潔のIT特許分析レポート

税込880円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

日米の情報通信技術関連の要注目特許を原則毎週1件ピックアップし、エンジニア、IT業界アナリストの経験を持つ弁理士が解説します。知財専門家だけでなく一般技術者の方にとってもわかりやすい解説を心がけます。特に、訴訟に関連した特許やGAFA等の米国ビッグプレイヤーによる特許を中心に取り上げていく予定です。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

栗原潔の最近の記事