多額の税金の無駄使いにもつながってしまった五輪エンブレム事件ですが、ひとつだけ良かった点を無理矢理挙げるとするならば、世の人々の知財に関する意識を高めたことがあるかもしれません。

特に、広告デザインやマーケティングを担当する方で、自社のマークが他人の権利を侵害しないか、あるいは、自社のマークが商標登録可能かを調べるために、図形商標登録の検索に関心を持たれた(というか業務上の必要性を感じた)方も多いのではないでしょうか?文字商標の検索はやったことがあるが、図形商標調査はハードルが高いと考えている方も多いのではないかと思います。

独自の図形商標登録データベースを管理している商標調査専門会社に依頼するという方法もありますが(ビジネス的にきわめて重要な商標であればそうすべきです)、簡単な調査であれば特許庁の(正確に言うと特許庁関連の独立行政法人の)サービスである特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)(旧名称:IPDL(特許電子図書館))を使って無料で行なえます。昭和的UIで使いにくい部分もありますがそれほど難しくはありません。以下、簡単に使い方を説明します。

図形商標は国際的に共通の分類体系であるウィーン図形分類によって分類されています。ウィーン図形分類のコードを調べるには、J-PlatPatの「図形等分類表」のメニューにアクセスします。

そして、そのコードを「図形等商標検索」のメニューから入力して検索します(なお、「図形等分類表」の画面で分類コードのリンクをクリックしてから画面下部の「セット」のボタンをクリックすると、分類コードがセットされた状態で「図形等商標検索」の画面が開きます、慣れてくるとこちらの方が楽です)。多くの場合、検索結果が1,000件を越えて一覧表示できないので、商品で限定する必要が生じます。それには、商品の「類似群コード」(特許庁が決めた類似商品をグループ化したコード)を使うのが簡単です。

類似群コードを調べるには「商品・役務名検索」の画面から「商品・役務名」を入力して検索します。

具体例を使った方がわかりやすいので、ワイン(およびその類似商品)を指定した登録商標のうち、猫のモチーフを含むものを検索してみましょう。

「商品・役務名検索」から「ぶどう酒」で検索すると類似群が28A02であることがわかります。

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次に、「図形等分類表」から大分類の「3.動物」をクリックしさらに中分類・小分類を選択します。猫には3.1.6.01というウイーン図形分類コードが割り当てられていることがわかります。なお、ブラウザの検索機能を使っていきなり「猫」の文字列を見つけて、コードを調べることもできます。

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「図形等商標検索」で図形等分類1に3.1.6.01を、類似群コードに28A02を入力して検索すると目的の商標が131件見つかります。ここから先の類似判断は手作業と目視でやるしかありません。

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ついでに、佐野エンブレム原案と類似した登録商標を検索してみましょう。図形分類コードとして、特種な書体で表現された文字T(27.5.1.20)、二つの三角形(26.3.2)、円(26.1.1)を指定して検索すると、類似群コードで絞るまでもなく41件が検索されます(なお、修正後の佐野エンブレムの商標登録出願も表示されます)。報道によると原案との類似先登録商標は複数あったらしいのですが、そのひとつが下図の赤丸で囲んだもの(スペインの時計メーカーの商標登録(4944790号))なのではと思います。

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これが佐野エンブレム原案と商標として類似するかどうかはちょっと微妙です。また、この会社のウェブサイトを見るとこの商標はもう使われていないように思えます。こういう場合は、商標権を譲渡してもらうか、不使用取消審判を請求するのが一般的なのですが、時間的制約もあったのでエンブレムのデザインを変更して回避するという方策を採ったのでしょう(今にして思えばこれが悲劇の始まりでした)。今さら言ってもしょうがない話ではありますが。

日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事、『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 IT系コンサルティングに加えてスタートアップ企業や個人の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています。お仕事のお問い合わせは http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から。【お知らせ】Skype/Chatworkによる特許・商標の無料相談実施中です。詳しくは上記お問い合わせ先から。

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