Yahoo!ニュース

トップ5%の社員5つのの習慣(3/4)

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

優秀な5%社員と、95%の一般社員の行動を比べてみると、5%社員は圧倒的に自席にいる時間が短いそうです。歩数も一般社員と比べて14%多いことがわかりました。5%社員は、自ら頻繁に席を離れて、社外ではキーマンと対話し、社内では他部署の人に話しかけにいきます。人との接点を作ることにより、直接自分の思いを伝え、仲間を増やし、人を巻き込んでいくことができるのです。積極的に動いて人脈形成することで、仕事の質を高めていく、5%社員の習慣について伺いました。

<ポイント>

・95%の社員がやりがちな落とし穴

・過剰な気遣いは生産性を落とす

・デジタルと出勤のハイブリッド時代にやるべきこと

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

■目的から逆算して何が必要かを考える

倉重:次は原則5です。「常にギャップから考える」というのは、どういうことでしょうか。

越川:これは原則1に近いのですが、目的から逆算して何が必要かを考える感じです。目的に対するギャップと他者に対するギャップも考えているのが、5%社員の特徴です。相手は知らないけれども私は知っているというギャップもありますし、相手は知っているけれども自分は知らないというギャップもあります。

 そのギャップを意識して埋めていくプロセスを相手に示していくという感じです。多分、高橋さんも言っていたと思いますが、事前ヒアリングで成約率が決まります。相手の課題が分かっていないと解決できないですから。

倉重:やはり成果が出ない人は、顧客のニーズとずれたことを提案しますね。

越川:イケていない人は自社製品の良さをアピールします。お客さんが欲しいのは変化です。変化というのは、今から未来に対する変化で、その変化が自分にとってベネフィット(メリット)があるかどうかが判定基準です。お客さんが今どういう状態で、未来にどうなりたいかが分かっていないと、そのギャップを埋めるすべは提案できません。

倉重:本当ですね。

越川:ですからギャップファーストにして提案をするのです。お客さまが感じているギャップ、「こういうことを本来はしたいのに今できていない」というギャップは、必ず社外に出していきます。5%社員は社内でもプロジェクトを任されることが多いのですが、そのときに彼らはまずルールの原則1で山の頂上を明確にします。

倉重:ゴールですか。

越川:何をもって成功とするかということです。彼らはギャップを意識するので、そのときに旅のしおりを作ります。ここまで行ったら5合目、ここまで行ったら3合目ということで、いわゆるKPIやOKRという手法だと思います。それがあるとメンバーが迷わず、離脱者も少ないのです。そうすると、今5合目でうまくいっているのか、いないのかも分かります。

倉重:「何とかしろ」ではないですよね。

越川:5%社員はやめる勇気も持っているので、「5合目でこの数字だったら今日は富士山の頂上へは行けない」というときに、そのプロジェクトをやめる判断もできます。

 チェックポイントを設けて、全員で確認しながら腹落ち感を持ってしっかりと山を登るほうが、地図がなく山の頂上を目指すよりも圧倒的に最短距離で頂上に行きやすいということだと思います。

倉重:今どこにいるか、ここから頂上までどれぐらいかかるのか分からずに歩けと言われると、きついですから。

越川:結構多くの企業の評価制度では失敗を良しとしていません。減点式なので、失敗を認めたくありません。失敗していても振り返らないですし、そもそも失敗と言われたくないから振り返らないというのもあると思います。ですから、やはりチェックポイントを設けることが必要です。先ほどの内省と一緒だと思いますが、チーム活動でも内省が必要だと思います。

倉重:本当ですね。それは会社の風土、評価制度などと本当に連動していますね。

越川:おっしゃるとおりです。例えばうまくいっている企業、「働き方改革が成功しています」と自ら言う企業は全体の12%ぐらいしかありませんが、彼らの経営会議はすごく特徴的です。自分たちが行動を決めるというよりも、まず小さな行動実験を現場でさせて、「この行動プロジェクトを継続すべきですか」「止めるべきですか」という判定を経営会議でします。

 良かったら「Go」と言って背中を押してあげて、駄目だったら「No Go」を経営陣が言ってあげると、現場もやめる勇気が出ます。

倉重:経営でないと、逆に決められないですから。

越川:どうしてもうまくいかない企業は、経営会議で重要なことを全部決めようとしてしまうので、PDCAのPにものすごく時間をかけるのです。計算したら1時間の経営会議に現場で費やしている準備は、大体1時間につき75時間から80時間になっていました。

倉重:それほど準備をしているのですか。

越川:会議のための打ち合わせを何度もしたり、資料レビューを課長と部長と本部長がしたりしています。

倉重:根回しもありますから。

越川:根回しをして経営会議に持っていったら何人かが寝ていたり、そもそも決定してくれなかったり、すごく生産性が低いのです。

倉重:日本企業は決めるのが遅いと言われますから。

越川:経営会議はそもそも短い時間でより多くのことを決定するのが目的の会議だと思います。決定する人と実行者が離れているから経営会議が必要なのだと思います。実行する人と決定する人が同一だったら会議をする必要がありません。

倉重:確かにそうです。

越川:特に大企業では経営会議が決めないと現場が動けません。経営会議は決定の数を増やしたほうが、現場が動きやすくなります。

倉重:労働時間も「減らせ」と数字だけを言うのではなくて、「これはやらなくていい」ということをきちんと出してあげるべきですね。

越川:そのとおりです。残業削減に成功している企業は、やめることを決めている会社です。例えば経営会議で、テンプレートを1アジェンダ1枚と決めている企業は、準備が8分の1から10分の1になっています。

倉重:それでいて実際の成果は変わらないわけですね。

越川:それをやらないと経営会議で資料を30枚、40枚作ることで評価されるのではないかという妄想があふれかえってしまいます。「1アジェンダにつき1枚しか見ない」と決めたり、会議のための会議を禁止したり、「60分会議をやめて45分にしなさい」「メールはやめてチャットにしなさい」というルールを作っている組織のほうが成果を出しているのです。

■過剰な気遣いは生産性を落とす

倉重:本当に働き方改革にもつながっていく話だなと思います。今まで5%社員の原則を伺いましたが、逆に良くない95%社員の行動もありますよね。先ほど作業感で満足してしまうというのがありましたが、他にもいろいろありそうですね。

越川:充実感にとらわれてしまうと、どうしても時間を奪われます。

倉重:メールチェックも小まめにやるなということですか。

越川:メールはスマートフォンが十数年前に出てから気になってしまってチェックすることが多いです。特に今テレワークになっているので、余計に頻繁に通知が来ます。5%社員は、1時間から1時間半に1回見ていますが、一般社員の方は「もうすぐに返さないといけない」という思いにとらわれてしまっています。結果的にはメールではなくて翌日電話したほうが早かったということも多いです。

倉重:それは最悪ですね。上司側もマネジメント側も、きちんと「土日は見なくていい」と決めたり、「急ぎません」などと付けたりしたほうがいいでしょうか。

越川:うまくいっている組織は、そもそも管理職が土日に返信をしません。下書きなどに入れておいて月曜日に送信するという感じです。それがあるだけで、部下はじっくりと休みは休みとして休養できますから。

倉重:確かにそうです。私もつい、ふと忘れていたことを思い出したりするとメールを入れてしまいますが、「週明けでいいです」と一応書いてから送るようにはしています。

越川:それだけで全く違うと思います。さらに5%社員はメールもすごくコンパクトで分かりやすいです。

倉重:長々としたメールは要らないという話ですね。

越川:もう100文字ぐらいです。相手に求めるアクションや伝わってほしい1文に絞り込みます。それが5%社員と95%社員の違いです。

倉重:テレワークになりチャットも増えています。チャットの短文では、作業指示の感じが強くて怖いという人もいますが、どう思いますか。

越川:そこもやはり心理的安全性だと思います。腹を割って話す関係をまずつくっていただきたいのです。会議を減らして会話を増やしてもらいたいのです。会話の中でも、テレワークで閉ざされてしまった雑談、対話を増やすことによって、確実に心理的安全性は上がります。心理的安全性が上がれば、「何々様、いつもお世話になっております」とか、社内なのに敬語や季語のあいさつを入れたりしません。

倉重:そういうところがありますか。

越川:例えば「様」や「お世話になっております」を入れなくても別にさげすんでいないということがわかっていれば、皆さんはチャットで「今ちょっといいですか」から始められるのです。

倉重:役職名を入れないのは失礼ではないということですね。

越川:役職名は要りません。Slackもアットマークの後に「さん」や「様」は不要で、用件から入ればいいのです。用件から入ると、メッセージを打つ人も、打つ時間が3分の1ぐらいになります。

倉重:書く時間が減りますね。

越川:見る側も短い文章で済みますから、両者にとってメリットがあることだと思います。

倉重:上司と部下の両方とも意識すべきですね。

越川:コロナを通じて明確に分かったのは、過剰な気遣いは生産性を落とすということです。きちんとコミュニケーションが取れているチームと、心理的安全性が取れておらず忖度(そんたく)まみれのチームを比較して調査しました。やはり忖度まみれのチームは資料作成時間がすごく長いのです。

倉重:やはりそうですか。

越川:うまくいっているチームも含めて調べたら、作成されるPowerPointのスライド枚数のうち24%が、上司とお客さまに対する過剰な気遣いで作られていることが分かりました。これを僕は「忖度資料」と名前を付けました。怖いことに、その忖度資料の追跡調査をしたところ、「重要だろう」「必要だろう」と思っていた忖度資料のうち、何と8割がめくられてもいませんでした。

倉重:見られてもいなかったのですね。

越川:心理的安全性がないから気遣いが発生して、両者の作業時間を奪っていたのです。心理的安全性があるチームは、「今このような感じで作っていますがイメージは合っていますか」と途中でヒアリングをします。

倉重:早めに投げてもらったほうが軌道修正もしやすいですすね。

越川:実は5%社員がやっていたことを2万9,000人にまねてやったら大成功したプロジェクトがあります。「フィードフォワード」というものです。

 5%社員は仕事を受けるとき、途中で齟齬(そご)がないか相手に意見を聞いています。普通の社員は終わった後に意見を聞くフィードバックをしますが、5%社員は作成資料の進捗20%で提出先の人に1分だけ、「こんな感じで作っていますがイメージは合っていますか」と聞きます。これをフィードフォワードといいます。すると、何と資料作成時間が10%以上減っただけではなくて、両者にとって不幸な「差し戻し」が74%減ったのです。

倉重:それほどですか。

越川:忖度資料も半分以上減りました。これは上司にとってもメリットがあります。部下が忙しい、忙しいといって残業をしていたら、どうも必要のない資料ばかりを作っていたというのは両者にとって不幸なことです。中間報告を1分見てあげて「この資料は必要がないよ」とか、「これは文字ではなくてデータで1枚にまとめて」と言ってあげたほうが両者にとってハッピーなのです。

倉重:重要そうな資料をやめろということですね。

越川:おっしゃるとおりです。必要そうな、重要そうなの「そうな」を取るというのが、会話による心理的安全性です。

倉重:「この人はこれぐらいやれば大丈夫だろう」ということを、きちんと部下も分かっているということですね。

越川:日本人は顔を突き合わせて空気を読みながら作業をしていきますので、それが見えていないときは、やはりどうしても妄想が膨らみやすくなります。相談相手もいないので、資料作成時間が長くなる傾向にあります。

倉重:テレワークだと効率が悪いのではなく、元からチームとしてうまく機能していないという話ですね。

越川:今ハイブリッドなので、クライアントの企業の方に言っているのは、「出勤したときこそ大切に使ってください」ということです。週に1回でも月に1回でも出勤したときこそ、資料作成ではなくて、心理的安全性が取れるようなワークショップ、ブレーンストーミング、雑談、1対1、ランチなどをしてください。そこで心理的安全性が取れるとテレワークは絶対うまくいきますと言います。

倉重:「行かないとできないことをやれ」ということですね。出社する意味も改めて考えるようになります。

越川:面白いことに、5%リーダーは出社したときに絶対1人ランチはしません。必ず誰かを誘います。

倉重:普段接点がない人もランチなら誘いやすいですから。

越川:コロナ禍で感染対策をされている企業もありましたけれども、出勤している人は全員ではないので、隣の部門の人なども誘います。話をすると意外な情報が出てきたり、お互いに「意外と良かった」と言い合ったりします。こういったテレワークで閉ざされてしまった偶然の出会いを必然にするということが、今すごく求められています。

倉重:その偶然の可能性を意識して高めているのですね。

越川:例えば5%社員が一番よく使うチャットの一言は「今ちょっといいですか?」なのです。これはもう完全に相手のプレゼンスを見て、偶然の出会いを必然にしようとしている動きです。5%リーダーは、例えば出勤したときは1人ランチをしませんし、5%リーダー、管理職はウェビナーにすごく出ています。月に2回以上ウェビナーに出ている人が一般社員の場合は2割ぐらい、5%リーダーは6割以上です。

倉重:やはり社会人脈なども意識しているということですか。

越川:強い人脈というよりも薄い人脈、弱いネットワークを広げると彼らは言っています。NewsPicksで誰かがコメントしたなどという情報に網を掛けておいて、意外と良かったという情報を捕まえようとしている感じです。デジタル世界でもそういった人脈は築けます。「このことだったらこの専門家に聞こう」というのと一緒だと思うのです。

倉重:確かに、越川さんも労働法だったら私に聞きますね。

越川:そういう網を広げていくことが、今このデジタルと出勤のハイブリッドの中ですごく重要になってきました。意識して網を張っておくと意外な魚が引っ掛かるので、これが自分のキャリアアップになったり、事業開発につながったりします。

倉重:一つひとつの選択が、どう将来の自分のキャリアに結び付くか分からないですから。

越川:5%社員も5%リーダーもウェビナーによく出るのですが、面白かったのが「途中でこれは違うなと思ったら、すぐに退席する」と言っていたことです。

 それも小さな行動実験です。いいと思って参加したらすごく営業攻勢をかけられたり、全く違うことを話されたりすることもあります。やめる勇気を持っているというのも、彼らの特徴です。

(つづく)

対談協力:越川 慎司(こしかわ しんじ)

株式会社クロスリバー 代表取締役CEO/アグリゲーター

国内外通信会社に勤務、ITベンチャーの起業を経て、2005年に米マイクロソフトに入社。日本マイクロソフト 業務執行役員としてPowerPointやExcelなどOfficeビジネスの責任者等を務めた後、2017年に株式会社クロスリバーを設立。

クロスリバーでは、選択式週休3日・完全リモートワーク・複業(専業禁止)を導入し、新たな働き方を実践しながら800社以上に「稼ぎ方改革(More with Less=より短時間で、より大きな成果を)」の実現を支援。

メディア出演、講演多数。講演の受講者満足度は平均94%、受講後に自発的に行動を起こす受講者は70%以上。

著書16冊『AI分析でわかったトップ5%社員の習慣『AI分析でわかったトップリーダーの習慣』『ずるい資料作成術』『超会議術』『巻込力』など。その多くが重版となり海外でもベストセラーに Amazon等で発売中

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

倉重公太朗の最近の記事