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今回のゲストは、株式会社Will Lab(ウィルラボ)の代表取締役小安美和さん。小安さんは、「女性×はたらく」をテーマに掲げ、行政、地方自治体、企業、NPO等とともに、女性の雇用創出・リーダー育成・起業家支援等に取り組んでいます。岩手県釜石市、兵庫県豊岡市、朝来市などで女性の雇用創出、人材育成等に関するアドバイザーを務めるほか、2019年8月より、内閣府男女共同参画推進連携会議の有識者議員をされています。女性の就労支援に力を入れている小安さんに、コロナ禍における子育て女性の就労困難問題について伺いました。

<ポイント>

・「働きたいけど働けない人」の3/4が女性

・シンガポールでは「ジョブホッピング」が当たり前

・コロナで浮かび上がってきた女性の就労問題

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■女性の就労支援を始めた2つの理由

倉重:今日は「コロナ禍における女性の就労支援」がテーマです。女性の働くを応援されている小安さんにお越しいただいていますので、簡単に自己紹介をお願いします。

小安:こんにちは、小安美和と申します。「女性×はたらく」というテーマを掲げて、5年前に起業をし、「はたらく」を通して女性をエンパワーするプロジェクトを全国で展開しています。

 主に地方自治体と連携をして、その地域の企業と女性をマッチングするプロジェクトや、企業横断で女性のキャリア形成や人材育成をするスキームを横展開しています。これまで岩手県釜石市、兵庫県豊岡市・朝来市などと連携しモデル開発してきました。

倉重:そもそも、女性の就業支援という分野をしようと思ったきっかけは何ですか?

小安:きっかけは2つありました。1つは、人口減少・少子高齢化です。5年前までリクルートにいて人材サービス事業の経営企画をしていたのですが、経営視点でマーケットを見たときに、人口減少・少子高齢化の中で、働きたいけれども働けていない人が400万人以上いて、そのうちの300万人が女性だというデータに出会ったのです。

倉重:4分の3が女性だったのですね。

小安:働く意欲があるのに働けていないのであれば、その阻害要因を見付けて、働ける世界をつくりたいと思いました。

 私自身は働くことが好きで、働き続けてきましたが、途中で労働市場から離れてしまう人たちがいます。理由はさまざまあるものの、一番多いのは出産・育児によるものです。日本では、第一子妊娠・出産で46.9% が離職をしています(国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査(夫婦調査)」(2016年))。

離職後、復職する人もいれば、復職できない人も相当数いるところが社会課題なのです。「離職しても、いつでも戻られるマーケットをつくりたい」ということで、当時はリクルートグループの中でプロジェクトを立ち上げて活動を始めたのですが、ライフワークとして本気で取り組みたいと考えて、2016年に独立をしました。

倉重:小安さん自身もパートナーの転勤で海外に行って、キャリアがいったん断絶した経験があるのですよね。

小安:そうなのです。女性の就労支援に取り組むことになったもう一つの理由は、個人的な体験です。自分自身が28歳の時に配偶者の海外転勤で離職をしたとき、なかなか仕事を得ることができませんでした。しかも、その時断られた理由が「あなたは“奥さま”だから」ということでした。

倉重:どういうことですか?

小安:駐在員の妻を「奥さま」というふうに海外の日本人社会では言うのです。日本企業に面接に行っても「奥さまは働いてはいけないんじゃないの?」というふうに言われたこともありました。

倉重:「働くべきではない」と。

小安:20年前のことなので、「働くべきではない」という不文律がありました。今 では、駐在員の妻という立場でも海外からリモートで働けるサービスを人材サービス会社のWaris等が立ち上げていて、本当に素晴らしいと思います。20年前はそんなサービスすらないし、立ち上げることも難しいほどの社会規範が存在しました。「そもそも駐在員の妻というものは、夫を支えるために会社がお金を出して帯同させているものなので、働くべきではない」ということを明確に言われたこともあります。

 私は当時負けん気が強く、働くことが好きだったので、「それを奪われては、私は生きている価値がない」「日本企業は駄目だ」と思い、現地のシンガポールの会社に就職をしました。

倉重:いいですねぇ。

小安:シンガポールでは、ジョブホッピング(job-hopping)という言葉がよく使われていました。「いい条件があったらどんどんホッピングしていくのは当たり前だ」という感覚で、キャリアアップのために2~3年ごとに転職をするカルチャーがあったのです。私はシンガポールのマーケットから学んだジョブホッピングを実践し、5年間で2回ホッピングしました。そのたびに交渉して自分で給与を上げていく経験をしたのです。

倉重:日本の労働者で、自分で給与交渉をする人は少ないですよね。

小安:日本に帰ってきて33歳で再就職のために仕事を探した時も、まず金額設定して、「この年収の会社を探そう」という形で、リクルートに入りました。

 リクルート入社後は住宅や旅行、ブライダル等、いわゆる販促マーケットのネット開発・編集をしていたのです。「女性の就労に『不』がある」ということは私個人の課題としては持っていました。それが解決すべき社会課題であるという認識を持つようになったのは、入社6年目に人材サービス部門に異動し、求人メディアに関わるようになってからやっとです。

倉重:なるほど。

小安:20年前の経験が15年たってやっと普遍化した課題として自分自身の中に落ちてきたのです。そのとき、「この課題を解決したい」ということで動き始めました。

■コロナによって女性の就労はどう変わったか?

倉重:日本の労働市場において、労働力人口も減っていくという時代背景の中で、「女性の就労を増やしていこう」という動きがあります。コロナが起きたことで、女性の就労支援という課題に変化があったのであれば、お話しいただけますか?

小安:独立をしてから、妊娠・出産・育児で離職をしてしまった専業主婦にフォーカスを当てて復職支援をしてきたのですが、コロナ後は喫緊の課題として、職を失ったり世帯収入が減ったりして困窮している、主にひとり親家庭のお母さんの支援をするようになりました。

 NPO法人キッズドア理事長の渡辺由美子さんとの出会いがあって、2021年1月からキッズドアさんが支援している困窮家庭のお母さんたちに向けた寄り添い型のオンライン就労支援プログラム「わたしみらいプロジェクト」をスタートしています。

※「わたしみらいプロジェクト」3期、4期募集

https://peraichi.com/landing_pages/view/watashimirai

倉重:どのような内容ですか?

小安:専業主婦の復職支援で培ったノウハウを活用し、昨年、兵庫県豊岡市のひとり親のステップアップ支援プログラムを30人にさせていただきました。それを日本全国の女性に届けるために、6回コースのプログラムに仕立てて、オンラインで提供しています。

倉重:コロナで失業されたり、世帯収入が減ったり、いろいろな方がいると思います。本当に大変なケースになると、パソコンや通信環境もが家になく、面接に行く電車賃もないという人もいますよね。

小安:私が今までしていた専業主婦の就労支援との大きな違いは、基本的に今現在、就業中であるということです。無職の専業主婦の復職支援であれば、平日の昼間にできるわけです。託児サービスを提供すれば、お子さんを連れてきて平日の日中に集まっていただくくことも可能です。

倉重:課題は明らかなわけですね。

小安:働く意欲を高めて企業とマッチングする場をつくれば、そこで雇用が生まれていました。

倉重:とは言っても、「私なんて主婦をずっとやっているから働けないわ」という人はたくさんいると思いますけれども。

小安:離職期間が長く、働く自信を失ってしまった女性に対しては、自己肯定感を上げる働きかけをしていました。あとは企業にお母さんたちが働ける時間帯や、柔軟な働き方ができるジョブをつくっていただくことで、マッチングは確実に生まれるという知見を持っていたのです。「これで女性の就労支援プログラムは完成だ」と思っていました。

倉重:「思っていた」ということは、想定外のことがあったのでしょうか?

小安:今回、コロナ禍で困窮する家庭のお母さんの就労支援をするようになって違いに気づきました。「全く働いていない」という方は少なく、非正規でフルタイムで働いて「年収200万未満」という方たちが、コロナ禍でさらに収入が下がって、困窮している状況が見えてきました。日中働いているので、行政が提供する既存の支援プログラムに参加できない方もたくさんいました。

倉重:これはかなり詰んでいますよね。子育てしながら日中の就労をして、さらに収入を上げるためのプログラムをするというのは。「1人何役やるんですか」という感じですね。

小安:本当にそうなのです。「これまでとは全然様相が違う」ということを、プログラムを実施して気がつきました。そこで、プログラムを土曜日の午前中や平日夜に設定し、パソコンや通信環境がない方でも、スマホで無理なく参加できるようにアレンジしたのです。

倉重:短めの授業みたいな感じですか。

小安:事前に印刷したテキストを手元にお届けして、スマホでも参加できるという形にさせていただきました。

倉重:それなら家にWiFiもパソコンもない人でも参加できますね。

小安:ここで感じた課題としては、行政が提供している既存の就労トレーニングは、仕事をしながらステップアップしたい人向けに設計されていなかったということです。

倉重:受講可能な時間ではないということですか?

小安:時間もそうですし、対象者も異なっていました。基本的に、無職の時に雇用保険で職業訓練を受けるという前提でつくられていたのです。

倉重:なるほど。一人ひとりの働く人のスキルアップというのは、「国が社会インフラとしてやってくれないか」と思ってしまいますけれども。

小安:コロナの後、そこをいろいろな方がロビイングされたこともあって、働きながら受けられるプログラムも出てきています。「わたしみらいプロジェクト」は今回、厚労省で「生活困窮者及びひきこもり支援に関する民間団体活動助成事業」という事業の交付金を受けて、年間200人に提供できるようになりました。

倉重:すごいですね。

小安:国としてはゼロからつくるより、すでに動いている民間団体、NPOに対して交付金や助成金を出すことによって、生活困窮者にリーチし、就労支援をしていく施策を採るほうが、効率が良いと判断したのではないでしょうか。NPOや私たちの中に知見は相当たまっていますので、緊急施策としては良い動きだと思います。

倉重:プログラムを受けた方に、派遣や非正規の方で、失業してしまって食べるものにも困窮している方は結構いらっしゃいますか?

小安:いらっしゃいます。「キッズドア」はコロナの影響などで経済的に厳しい全国の困窮子育て家庭にデータベースにご登録いただき、食品や文具などの物資支援や、奨学金・政府の給付金などの情報を届ける情報支援と就労支援を行っています。登録している家庭が日本全国に約2800世帯 あるのですが、そのうち、「わたしみらいプロジェクト」の1期生に申し込んだのは52名。個別面談を受けた方が18名。その後採用意欲を示してくれた企業6社を集めた企業相談会に参加したのは約22名です。

 何を言いたいかというと、2,800世帯 のうち、ステップアップに興味があって実際にプログラムを申し込んだ人はたった52名なのです。

倉重:全体の2%に満たない数字ですね。

小安:今後プログラムの募集方法や見せ方を工夫しながら、必要な人にリーチしていく努力をするのですが、倉重さんがおっしゃったように、「それどころではない」という方も少なからずいらっしゃいます。生活に困窮し、経済的、精神的に打撃も受けている状況で、「時間を割いてプログラムを受けてみよう、ステップアップしよう」と思えるお母さんは相当前向きなのです。

倉重:まだ意欲が死んでいないということですね。

小安:プログラムに参してくださったお母さんたちは50人ほどいたのですが、氷山の一角です。その下には一歩踏み出せないお母さんたちが相当数いらっしゃいます。この層に「どうやって来ていただくか」という工夫が、実は一番大きな課題だと感じています。

倉重:なるほど。「今日のご飯のことを考えたら、そんなことやっていられないよ」という話でしょうね。

小安:そうなのです。意欲の高い最初の50人ですら、第1回目の講義で、多くの方が「明日のことでいっぱいいっぱいで、何も考えられない」という状態でした。

(つづく)

対談協力:小安美和(こやす みわ)

株式会社Will Lab (ウィルラボ)代表取締役

株式会社インフォバーン 社外取締役

株式会社ラポールヘア・グループ社外取締役

内閣府男女共同参画推進連携会議有識者議員

東京外国語大学卒業後、日本経済新聞社入社。2005年株式会社リクルート入社。エイビーロードnet編集長、上海駐在などを経て、2013年株式会社リクルートジョブズ執行役員 経営統括室長 兼 経営企画部長。2015年より、リクルートホールディングスにて、「子育てしながら働きやすい世の中を共に創るiction!」プロジェクト推進事務局長。2016年3月同社退社、6月 スイス IMD Strategies for Leadership(女性の戦略的リーダーシッププログラム)修了、2017年3月 株式会社Will Lab設立。岩手県釜石市、兵庫県豊岡市、朝来市などで女性の雇用創出、人材育成等に関するアドバイザーを務めるほか、企業の女性リーダー育成に取り組んでいる。2019年8月より内閣府男女共同参画推進連携会議有識者議員。