日本型雇用の不合理とコロナ時代を生き抜く方法【山本一郎×倉重公太朗】第1回

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今回のゲストはインターネット普及期の初期からブロガーとして活躍している、個人投資家であり作家の山本一郎さんです。慶應義塾大学卒業後、IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も行っています。『リーダーの値打ち 日本ではなぜバカだけが出世するのか?』『ズレずに生き抜く 仕事も結婚も人生も、パフォーマンスを上げる自己改革』『情報革命バブルの崩壊』など著書多数。統計を得意とする山本さんに、コロナによって日本の労働環境がどのように変わっていくのか質問しました。

<ポイント>

・興味を持って現場に関わり、学び続ける人だけが生き残る

・働き方や職場環境が整理されないうちに変化の波がきた

・潜在的な失業率が具体的な数字にあらわれるのは9月末

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■「伸びるところに身を置く」

倉重:今回のゲストは、2ちゃんねる時代から「切込隊長」のハンドルネームで非常に有名な山本一郎さんにお越しいただいています。大変恐縮ですが自己紹介をお願いしてよろしいでしょうか。

山本:山本一郎と申します。主な仕事は投資家とコンサルティング業です。ファンドの運用や、不動産投資をメインにしています。それとは別にウェブで執筆したり、シンクタンクで共同研究させていただいたりしています。これまでずっとさまざまな分野の、数字を読み解きながら暮らしてきたので、企業研修などでは「どうすれば間違いのない人生を送れるのか」というお話をさせていただくことも多いです。

倉重:よく選挙分析などもされていますよね。

山本:経済から政治の票読み、野球の選手分析も、全部統計に関わるものです。そういった統計分析や数学、事業経験をしていました。ただ、最近は人工知能や深層学習が流行ってきて、いままで起きたことを分析して先を見通すだけでなく、よりいろんな分析を挟みながらリアルタイムで把握していく時代に移り変わってきたぞと思い、日々勉強しています。いまは、4人の子育てと両親の介護があるため、定常の仕事に関しては全部やめてしまい、時間に融通の利く資産運用やコンサルティングが中心になって、セミリタイアのような感じになっています。

倉重:毎回のスーパーの買い物も半端ではない量を買われているのですよね。

山本:子ども4人と両親がいるので、買い物に行くたび1万円以上スーパーで支払っているという状態です。他のお客さんや店員さんに二度見されます。

倉重:買いだめではなく家族分でそれくらいかかるのですね。あとは、文章を拝見していると、元ロッテの初芝に対する愛が私はとても好きなのですが。

山本:野球はコアの選手が大好きですね。初芝や元西武ライオンズの大沼、引退した選手のことをいまだに思い出しながら今の選手と比較しているのです。さすがにプロ野球やマイナーリーグの仕事をさせて戴くようになってからは、いまいま活躍されている個別のチームや選手について論じることは難しくなりました。野球関連の仕事として、「これは」と思うような新しい選手をピックアップしています。そういう人が活躍してくれるとうれしいですね。

倉重:山本さんのキャリアという意味では慶応義塾大学のご出身ですが、大学をご卒業された後は何をされたのでしょうか。

山本:大学時代から証券投資や不動産の管理をやり、さらに親の仕事の一部を手伝っていたので、投資家としてそれなりに稼げている状態でした。「就職ぐらいしなければ」と思って、日立系のメーカーの国際電気というところに就職したのですが、半年で辞めてしまったのです。

会社の初任給は20万5,000円で、残業手当は月12時間がマックス。仕事から帰って、相場をチェックして一日で600万円以上儲けることもありました。もちろん損をすることもあるのですが、相場でそこそこ稼いでいる一方、会社は一日拘束されて月20万しかもらえないよ、となるとやっていられないわけです。

倉重:20代前半でそれはすごいですね。

山本:当時は「仕事とは何か」ということや企業経営に興味があったので、ある程度しっかりとした会社に入れば、自分の人生において実りがあるのではないかと思っていました。

倉重:実際はどうでしたか?

山本:厳しい上下関係があり、仕事の手取り額が少ないという非常につらい状況でした。夜は外国証券や為替などの相場を見て、寝不足のまま8時20分の朝礼に出ます。「これはなかなか続けられないぞ」と思って、早いタイミングで辞めてしまいました。決して当時の国際電気が悪かったわけではなく、むしろ社会人として必要なことは一通り学ばせていただいて、そこは感謝しています。いま思い返すと「僕も思慮が足りなかったな。もっと粘っていればよかった」と反省する部分もあります。

倉重:学生時代から投資をされていたのですね。

山本:留学もしましたし、父がバブル経済のときに不動産投資を手広くしていたので、「投資をするのが当たり前」という意識は中学の終わりぐらいから持っていたのです。夜、自宅で家族で飯を喰うときに出る親父の話は、株式相場の話か使えない社員の愚痴・悪口、そして払いの渋い取引先への文句ばかりでした。相場には興味を持っていて自分もやってみたかったので、高校時代にアルバイトをして稼いだ資金を、親父の使っていた証券会社に電話をかけて突っ込みました。その一方でパソコン少年でしたから「これからパソコン関連で伸びる銘柄は何か」を考えながら運用していたら、バブルが崩壊。父の仕事は全部ダメになりました。私は、通信の世界で活躍できそうな会社を日米でピックアップしていたので、日本のバブル崩壊の影響はそれほど受けず、どうにか乗り切って現在にいたっています。そういう意味では、比較的うまくいったほうだと思います。

倉重:最初のキャリアのサラリーマンを辞めた後はどうされたのですか?

山本:その後すぐ起業して、先輩と一緒に会社を興したり、調査会社をつくったりしました。あとは、秋葉原で半導体の売買をしている知り合いの店の立ち上げを手伝ったり、知人の紹介でLinuxのパッケージを売る会社に潜り込んだりしました。。2ちゃんねるやサイバーエージェントさんとご一緒して、下請けのような形で若い人を集めて会社を作ったりしていました。

倉重:2ちゃんねるの切込隊長でもありますし、アメブロでも1位になったことがあります。非常に文才もおありになりますよね。

山本:パソコン通信をしていたので、高校時代から他の人に文章を読んでもらうことを意識していました。足掛け30年ぐらいものを書き続けている状態です。

倉重:ちょっと気になっていたのですが、モノを書く人というイメージが強い山本さんが最近はYouTubeの出演が多いのは何か理由があるのですか。

山本:単純に「お客さまのいるところに出ていく」というのが私の基本方針です。noteがはやったらnoteにいきますし、YouTubeのような動画サービスが出てきたらそちらにいきます。お客さまのいる場所に合わせて、どんどん自分をつくり変えていかなければいけません。廃れるメディアにフォーカスし続けていても、いつか共倒れしてしまうわけです。生き残るために新しいところに出ていく必要を昔から感じていて、「伸びるところに身を置く」ことは意識しています。自分の好きなものへこだわりは重要ですが、それが常に他人に評価されるかと言われるとまた別の問題です。インターネット時代になってもパソコン通信にこだわり続けている書き手の人たちは、パソコン通信の衰退とともに消えていきました。ブログにしてもSNSにしてもそうです。良いものを書いているだけでは駄目で、生き残らなければならないのです。

倉重:ご著書にも、「興味を持って現場に関わり、学び続ける人だけが生き残る」と書かれていますよね。

山本:そうです。大事なものはたくさんありますが、それは人間としての本質の部分です。いろいろな方に見ていただくためには、テレビがイケている部分であればコメンテーターを引き受けますし、逆にテレビが「ギャラは払いません」「時間拘束も長いです」という話になってくると、YouTubeのほうが圧倒的にお客さまに届くし、お金にもなります。だんだんと変化せざるを得ないということです。

■解雇規制は逆効果

倉重:ではそろそろ本題の一つに入っていきたいと思います。山本さんはYouTubeで「これからコロナ禍はどこまで続くか分からないし、10月以降から年末にかけて失業率も一気に増えるのではないか」と予想されていました。そのような中でわれわれはどうやって働いていたらいいのでしょうか。

山本:コロナ前に積み残してきた問題が、コロナウイルスによってより酷く拍車が掛かったといいますか。これまで、働き方について「皆さんきちんとした議論をしましょう」という掛け声だけはしてきたと思うのです。

働き方改革法に関する2019年改正をする中で、「働き方改革だ」と言いながらも、まだ日本企業の働かせ方や職場環境のつくり方が整理されないうちにコロナウイルスの問題が出てきてしまいました。もちろん、安倍政権の働き方改革はいろいろ批判はありつつも、時系列に見れば概ねリベラルで望ましいものであったと思います。ただ、日本の経済や社会、企業風土を全面的に改定するところまでは行かず、まだ改善途上であったと思います。そこへ、コロナ禍がきてしまいました。

そこで、ダボハゼ的に「リモートワークにしましょう」「裁量的な働き方を考えましょう」ということが叫ばれていますが、それはリモートワークができる分野の人たちが言っていることです。それこそ、電気・水道・ガス等のインフラで担当を抱えているエッセンシャルワーカーの方々は現場に出なければなりません。職場によって付加価値も違うし、働き方も仕事の中身に依拠してしまうので、どういう分野分野によってどのような働き方があり、効率的であるのかを模索し直さなければいけないと思います。

倉重:コロナの影響がどの程度で収まるのかは誰にも分からないですけれども、少なくとも「この企業の看板にしがみついていたら大丈夫だろう」という考えでは、厳しいですよね。

山本:倉重先生のご著書の『雇用改革のファンファーレ』でもかなり明確にお書きになれていましたけれども、雇用の問題として今回特に大きく出てきたのが、やはり非正規雇用の人たちの扱われ方です。

完全に景気が悪くなってきたのでバッファとして使われて、早々に「皆さんさようなら」という状態になりました。正社員の待遇と非正規雇用の格差が今回かなり大きくクローズアップされたと思います。

倉重:雇用調整助成金が予定通り9月末に終わったら、そのあとは危ないですよね(現在は12月末まで延長)。

山本:実効の失業率はどのぐらい上がるのかという議論は、今まさに経済系の人たちが話していることです。彼らは「潜在的な失業率が具体的な数字に跳ね返ってくるのは9月の終わりぐらいではないか」とおっしゃっていました。

今まで想定していなかった地方経済での雇用のミスマッチが拡大していくと、それこそ200万人以上の失業者が出てきて、失業率もガーンと跳ね上がるのではないかという懸念は持たれていると思います。

倉重:個人的には雇用調整助成金で9月まではつなげるけれども、そこから先が危ないなと思っています。企業は3カ月契約の非正規が多いので、年末を越えて年明けから失業者が増えるのではないでしょうか。

山本:Go Toトラベルの関連で調査をしているのですが、9月末に一つの山場が来るのではないかと予想しています。不動産の賃貸状況に関して言うと、4月ぐらいから解約が増えています。半年、もしくは5カ月で契約が切れて店が返されていくと、廃業もかなり増えるのではないでしょうか。

特に飲食店やアパレル業界などは、有効求人倍率の逆数から調整された数字で出す需給ギャップで言うと6.5倍や7倍というレベルになってきます。あくまで「不振な業界の求人状況を全体で均すと」という過程ですから乱暴ではありますが、要は、景気の悪い業界では7人求職者がいたら1人しか採用されないという状況です。そうなると、いままでコト消費による付加価値で雇用を吸収していたサービス業のところから崩壊が始まります。彼らが求職の手を挙げているところへ、追い掛けるようにして製造業の人たちがこれからドーンと出てきます。3カ月間の非正規雇用で回していたところが、人材を吐き出し始めるからです。雇用改革を始める前に全ての波が来るという状況になりかねません。

いまや「万年人手不足」と言われていた介護業界ですら、徐々に充足が上がってきて吸収できない状態になるのではないかと心配しています。

倉重:国がどういう雇用政策を取るのかが、極めて重要な時期になってきたと思います。目先の失業率だけを考えたら、「解雇するな」「雇い止めするな」と規制する方向になると思いますが、いかがでしょうか。

山本:解雇規制の話は、良く政治家の皆さんからアイデアとして出ますが、それは逆効果ではないかと思っています。むしろ市場をきちんとつくってあげて転職がしやすい環境にすることが大切です。例えば職業訓練や、雇用助成のようなセーフティネットの仕組みを用意してフォローしてあげる。景気をきちんと後押しできる雇用政策をするべきだと思うのですが、むしろいまは国内産業に向けて「リモートワークをしなさい」というのと併せて、「できるだけ社員を解雇しないでください」ということを言い出しそうな雰囲気です。厚労省の中でもかなり意見が割れているようですね。

倉重:経団連の方も、アメリカのような完全にドライなジョブ型ではなく、「ウェットなジョブ型にする」とおっしゃっているようです。ウェットというのがよく分かりませんが。

山本:そういう意味で言うと労働組合も困っているようですね。仕事がこれ以上増えないと分かっている中で、正規の職員だけカバーしていてわれわれは大丈夫なのかと言い始めている現状です。立憲民主党と国民民主党が一緒になろうとして、労働政策を野党側から言わなければいけない人たちも新党結成だ玉木分党だと大混乱しているので、政府が「労働法制でこういうことをしよう」と思っても意図が明確に伝わっていないのかもしれません。

倉重:そもそもコロナ前から世界の産業構造が変わっている中で、日本の労働法制や、雇用社会は非常に昭和的なものが残っていました。だからこそ変えようというのが働き方改革だったわけです。そこにコロナがわーっと来て、「とりあえず失業者を出さないようにしよう」というだけでは、実は根本的な問題点が何も手付かずで解決していないという現実から目を背けているだけでしかありません。

山本:「失業を出したくない」という安倍政権、そしてその後継政権の考えは分かります。アベノミクスに曲りなりの成果があったとするならば、それは穏やかな景気拡大に伴う株高と雇用拡大にあったのは間違いありません。就職氷河期を作らずロストジェネレーションを形成しなかったのは、安倍政権の大きな功績の一つです。

しかしながら、雇用のセーフティネットと非正規雇用への対策は、多分コロナが来る前からきちんと道筋をつけておかなければいけない重要な政策議論だったのです。おっしゃっているように、働き方がミスマッチであるなど、構造的な要因を全部民間に押し付けるような形でカバーしてきました。よくパソナやリクルート、電通などが批判されますが、裏を返せば政策的にはあくまで経過措置というか縫合策であって、具体的に日本人の働き方を変えていったわけではありません。もともと日本はそこまで終身雇用ではなかったのですが企業に人生を預ける合理的な選択肢もないわけですから、人生の最後に至るまで、いろいろな会社を渡り歩く前提、もしくはフリーランスがたくさん出る前提で、社会保障も含めた枠組みを組み直さなければいけなかったのです。きちんとした議論がなされないまま、コロナが来てしまったので、このまま解雇規制という方向にいってしまうと思います。

倉重:セーフティネットや社会保障改革、転職市場の整備・採用インセンティブの議論なしに解雇の話だけ出てくるのは危ないですね。

山本:そうなってくると、会社の側が持たなくなって倒産するということが、とくに地方で起きてくると思っています。

倉重:倒れそうな会社に、税金、補助金的をばんばんつぎ込んでなんとか延命治療させているのでは意味がないですよね。

山本:いままさに商工会などの窓口はお金を借りたい人たちでパンパンになっていると聞いています。無利子、無保証だと言っても結局は返さなければいけないお金です。見た目上はうまく回っていったとしても、売上にならなかったら意味がありません。そういった点で言うと、時限爆弾の導火線をある程度長くしているだけだと思います。

(つづく)

対談協力:山本一郎(やまもと・いちろう)氏

個人投資家、作家

1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」、「ズレずに生き抜く( 文藝春秋)」など著書多数。