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営業はスキルだ!誰もが無敗営業になれる、3つの質問と4つの力【高橋浩一×倉重公太朗】最終回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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世の中の多くの若手ビジネスパーソンは、「営業をやりたくない」と思っているようです。

しかし、「営業職」と「営業力」は違います。営業職でなくても、どのような仕事をしていても営業力は重要です。社内で円滑に仕事を進めるにも、部下をマネジメントするにも、起業して食べていくにも、「人に喜んで動いてもらう」という営業力が必要になってきます。オンライン営業の時代に、営業力を高める方法について高橋さんに伺いました。

<ポイント>

・若い営業は「実験マインド」を身につける

・物事の見え方が変わると、非常に大きな自信になる

・若さの特権はリスクを取れること

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■小さな失敗を恐れずに繰り返す

倉重:いろいろな価値観がゼロリセットされる現在は、若い人ほど、これから営業で成果を出すチャンスが来ているのかもしれません。営業で苦しんでいる若い人などは、どのように勉強をして、どういう姿勢で仕事をしたらいいでしょうか。

高橋:私がよく説明しているのは、「小さな実験を繰り返す」というマインドです。英会話学校のポスター貼りの話にも通じますが、「こうしたらどうだろう?」という実験を繰り返します。今はみんなやり方が分からないので、組織も寛容ではないですか。

倉重:「とりあえずしてみたら?」というのは多いと思います。

高橋:今の世の中は、小さな実験や失敗を恐れず繰り返すことができます。若い方はたくさん試して正解を発見することに喜びを見いだせるようになると、その後ブレイクするのではないかと思います。

倉重:確かに今までしていないことに挑戦するなら、若い人のほうが抵抗感は少ないですね。

高橋:若い営業の方には、実験マインドを強くおすすめしたいです。

倉重:そもそも営業の価値や楽しさというやりがいは、高橋さんから表現すると、どのような部分ですか。

高橋:実はここまでお話をしておきながら大変お恥ずかしい話ですが、営業という言葉を前面へ出すことに抵抗があった時期もありました。「営業職はつらい」「大変」「契約のために頭を下げる」「ノルマに追われる」などのイメージが世の中ではあると思います。

倉重:それはありますね。

高橋:ただそれは、営業という言葉が「営業職」に紐づけられ過ぎているせいだと思っています。営業職でなくても、どのような仕事をしていても「営業力」は必要です。とくに、これから働き方が多様化してくると、会社に勤めながら副業することが公式に認められるようになると思います。副業を始めたときに、どのようにお客様を獲得するのか、自分のビジネスにつなげていくのかを考えることは、大勢にとって身近なことになるでしょう。企業の人事の方にとっては、社員がお客様だったり、学生の人たちを採用するという採用活動も営業だったりします。いろいろな人にとって、営業力は重要なのです。

倉重:全ての働く人にとって必要なスキルですよね。

高橋:「営業力はみんなにとって必要な生きる力だ」ということが腹落ちしたので、今回本を出させていただきました。

■営業力はすべての人にとっての「生きる力」

高橋:今日お話いただいて感じられたと思うのですが、私自身が陽気で豪快な営業キャラではありません。

倉重:非常にロジカルで分析的ですものね。

高橋:仕事の場を除くと、普段は比較的ぼそぼそ話すのです。仕事関係の人に違う場面で会うと、大体「今日は元気がありませんね」と言われます。元気がないわけではなく、もともと人とのコミュニケーションに苦手意識があるタイプなのです。このような自分でも、生きる力としての営業力が備わると、人生や物の見方が変わることが、すごく感じられました。

営業力を上げたいと思ったときに、「ヒアリング力やプレゼン力などのスキルを少しずつ上げる」という発想だと、大変な道のりではないですか。しかし、お客様とのズレを起こさないように気をつけているだけで、いきなり上位2割くらいに入ることができます。

倉重:お客様とのズレを常に意識するのですね。そんなにズレているのですか?

高橋:8割くらいの人はズレまくっています。営業を受ける側に立つと、大体5社受けたら4社くらいは「ピントが合っていない」と感じるはずです。本の冒頭にも書いたエピソードですが、3社の引っ越し屋さんに見積もりを頼みました。そのうちの2社は機械的で単純な質問をして、5分で見積もりを出して帰られたのです。3社目の方は、「私は何社目ですか」という質問をしてこられたので、「え?」と思いました。テンプレートの営業ではないと感じただけで、その会社の評価が急上昇したのです。

倉重:「台本を読んでいるな」と感じると、興ざめしますからね。

高橋:台本を読んでテンプレ営業をする人のほうが多数派ですから、それをしないだけで「期待できそうだ」というポジションから始められますよね。

倉重:なるほど。それは明日からでもできますね。

高橋:そうです。事実、その方は別にプレゼンが素晴らしかったわけではありません。単純に家の中を一緒に周りながらいろいろと質問をしてくれて、「それならこうしませんか」という提案をしただけなのです。

倉重:それは先ほど出た「共に作っていく」という話に通じます。単なる引っ越しではありますが、梱包方法を一緒に決めたという感覚になりますね。

高橋:そうですね。「少し高くても安心ができて分かってくれる人にお願いしたい」と思いました。そういう物の見方を身に付けるだけで、だいぶ営業の世界観が変わるはずです。

倉重:そうなったら楽しくなるでしょうね。

高橋:そうですね。営業力とは生きる力で、人生の選択肢を広げてくれるものです。そういう力があると、いろいろな人との接点も増えてきます。極端な話、家族生活も営業力があったほうがうまくいくかもしれません。

倉重:確かにプライベートでも、人とコミュニケーションを取ることは必要ですから。

高橋:そういうズレに気付いて、きちんと相手に寄り添うことは、どのようなシチュエーションでも必要です。特にコロナになってくると、物理的に分断されていますから、そういうときに声がかかる人とかからない人が分かれてくると思うのです。

倉重:確かにそのような感じがします。

高橋:多分今は、仕事がある程度できて頼りにされる人は非常に忙しいと思います。逆にすごく暇になってしまっている人もいます。そこの差が人から必要とされる力ではないかと思っているのです。

倉重:私は、むしろコロナになってから仕事が増えています。

高橋:それが営業力です。

倉重:なるほど。知らずに発揮したかもしれません。私から最後の質問で、高橋さんのこれからの夢をお伺いしたいと思います。

高橋:ありがとうございます。世の中には、「どうせダメだ」という絶望や、「将来大丈夫かな」という不安があると思います。僕も子どもの頃に学校へ行くのがつらくて仕方がないという時代がありました。

逆に今は人とコミュニケーションをすることが仕事になっています。根底の「生きる力」がついて物事の見え方が変わると、非常に大きな自信になります。僕は人生の選択肢が広がるような発明をしたいと考えているのです。たくさんあるうちの1つが、今回の営業力だと思います。それ以外にも、世の中に役立つ形で、「これがあるから仕事が楽しくなった」「自信がついた」「人生が明るくなった」と言ってもらえる、人生の分岐点を増やす活動を続けたいと思っています。

倉重:いいですね。まさに今、終身雇用の時代が崩壊し、雇われる力、あるいは仕事をする力をどう自分でつけていくかのかが問われる時代になってきました。キャリアを自分で選択する要素として、どんな職業であれ、営業力というのはすごく重要ですね。

高橋:そうですね。特にオンライン時代に入って、みんなが試行錯誤しているので、こういう力を高める絶好のチャンスが到来していると思います。

倉重:今ゼロスタートですから、やったもの勝ちですね。

■20代でしてよかったことは?

倉重:では、観覧者からの質問を承っていきたいと思います。せっかくですから、同じ営業フィールドのAさん、最初の質問をお願いします。

A:経営理念を専門にしているコンサル会社をやっています。営業研修も時々させていただくのですが、今日のお話を聞いて、陽気で豪快な営業カラーではない高橋さんの素に触れた感じがして、「こういう感じの営業でもいい」という力になりました。ありがとうございます。

高橋:ありがとうございます。

A:東大を出て外資系のコンサルティング会社に入社して、私がお母さんでしたら、「浩一、思い直しなさい。なぜ起業をするの」と言うと思います。東大の卒業生名簿に上から電話をしたら、「みっともないからやめなさい」と言われたとおっしゃっていました。今高橋さんがあの時の自分に声を掛けるとしたら、やはり外資系コンサルの高給を捨てて起業をするほうに背中を押しますか。

高橋:人生の大事な決断は、親にも全部事後報告です。母親が気づいたときには会社を辞めていたという感じだったと思います。

A:では、その時の自分にも、「いいんじゃないの?」とアドバイスをしますか。

高橋:今考えてみると、社会人3年目で起業したのは、結構いいタイミングだったと思います。若いうちは、失うものが知れているではないですか。若さの特権はリスクを取れることなので、25歳の時に起業のチャンスがあったというのは、非常にありがたいことだと思います。

A:素晴らしいです。ありがとうございます。

倉重:では若者に聞いてみましょう。20代のBさん。

B:お話をありがとうございました。エンジニアをしていますコヤマツと申します。

高橋さんが20代のうちに、これはしておいて良かったということを教えていただきたいのですが、起業に参画する以外で何かありますか。

高橋:何かを深掘りすることは、人生のどこかで非常に大きなアドバンテージになると思います。若い時はいろいろなことが目に入ると思いますが、どこかでガッツリ深掘りをすることも大事です。ハードワークでなくても構いません。のめり込んで掘るからこそ見えてくる世界を体感すると、その後の人生に非常に大きなインパクトがあるのではないかと思います。

倉重:1本の軸があると、また何かが変わりますね。

高橋:そうですね。今までの人生で、僕は人に助けられてばかりだったと思っています。営業としての大事なことは全部お客様から教えていただきましたし、マネジメントのポイントも、先ほどお話しした会社のメンバーから学びました。自分のおかげでできたというよりは、人に助けてもらったからうまくいったことばかりです。

先ほどの「自分で努力して深掘りすることと」は逆かもしれませんが、人に感謝をしつつ、「助けてもらうからうまくいく」という世界観があったほうが人生はハッピーになるのではないかと僕は思います。

素直に人に頼ったり、感謝の気持ちをきちんと伝えたりすることは、ベタですが非常に大事だと思います。

B:ありがとうございます。

倉重:では最後にCさん。

C:ありがとうございました。人事制度などをつくるコンサルタントをしています。今、テレワークで新しい評価制度についてのご相談も多いのです。評価制度にはどうしても物差しを使わざるを得ないところがあります。売上や利益という分かりやすい要素は、誰が見ても分かるので置いておくとして。そうではない要素で、「いい営業」と「いまいちな営業」を評価するにはどうしたらいでしょうか。ベテランと若手も違うでしょうから、若い子を評価するときに、「これからの時代は、こういう要素があったら高く評価する」という要素はありますか。

高橋:やはり組織貢献かと思います。今、コロナの影響でいろいろな会社の状況に明暗が出ているのですが、うまくいっている会社は部門の連携が強いです。ビジネスであれば、商品も料金ラインアップもマーケティングも営業も、変えるべきところをきちんと変えていける会社が生き残っています。逆にそこが膠着(こうちゃく)しているとなかなかうまくいきません。営業は、お客様の声を最前線で聞いているので、社内に貢献できるようフィードバックしたり、他の部門を巻き込んできちんと新しい価値がつくれるように立ち回ったりすることが重要です。お客様からの貴重な声を社内に共有するだけでも大変インパクトがあると思います。一番重要な接点ですから、部門と部門をつなげたりお客様と会社をつなげたりする役回りの人がきちんと評価されると、すごくうまくいきやすいと思います。

倉重:単に数字だけではなく、組織貢献過程もきちんと見るということですね。

高橋:そうです。数字だけで見ると押し込み営業になりやすいですので。

倉重:本日は長時間ありがとうございました。

高橋:ありがとうございました。

(おわり)

対談協力:高橋浩一(たかはし こういち)

TORiX株式会社代表取締役CEO

東京大学経済学部卒業。ジェミニ・コンサルティング(後にブーズ・アンド・カンパニーと経営統合)を経て25歳で起業、企業研修のアルー株式会社に創業参画(取締役副社長に就任)。 商品なし・実績なしの状態から、業界トップレベルの受注率で自ら従業員1000名以上の大企業を50件以上、新規開拓。

  その後、創業者が自分で営業するだけでは組織の成長が伸び悩むという課題に直面し、「営業経験なし」「社会人経験なし」のメンバーが毎年入社してくる中で、経営メンバーが現場に行かずとも、自律的にPDCAが回る組織体制と仕組みを構築。売上・利益とも大きく向上させ、3名でスタートした会社は6年で70名規模に。同社上場への成長プロセスにあたり、事業と組織の基盤を作り上げる。

 2011年にTORiX株式会社を設立し、代表取締役に就任。 これまで、上場企業を中心に50業種3万人以上の営業強化を支援。行動変容を促す構造的アプローチに基づき、年間200本の研修、800件のコンサルティングを実施。8年間、自らがプレゼンしたコンペの勝率は100%を誇る。2019年10月、『無敗営業 「3つの質問」と「4つの力」』を出版 (発売半年で4万部)。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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