「仕事ごっこ」を撲滅せよ!【沢渡あまね×倉重公太朗】第1回

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グローバル化、少子高齢化、男女共同参画、M&Aの加速、終身雇用の崩壊により、企業およびそこで働く方々を取り巻く環境は、日々厳しさを増してきています。新型コロナウイルスの感染拡大により、新しい働き方を模索する企業も出てきました。すべてのビジネスパーソンが輝くためには、これから何をしていけば良いのでしょうか? 働き方に関するさまざまな著書を出版されている、業務改善・オフィスコミュニケーション改善士の沢渡あまねさんにインタビューしました。

<ポイント>

・チームの足を引っ張る「仕事ごっこ」とは何か?

・ハンコリレー、FAX……仕事の足を引っ張る妖怪

・他者とコラボレーションしてイノベーションを起こすには

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■「グローバル大企業病」に幻滅して独立

倉重:今回は組織開発のアドバイザーをされている、沢渡あまねさんにお越しいただいております。『仕事ごっこ』という本が非常に有名です。

この世の中に残っている不条理な習慣や、みんなの足を引っ張るような慣習を痛快に書いていただいています。大変恐縮ですが、簡単に自己紹介をいただけると幸いです。

沢渡:沢渡あまねと申します。作家、それから業務プロセスの改善をしています。

「オフィスコミュニケーション改善士」と名乗っていますが、主に私の経験職種は「IT×広報」です。ITエンジニアのカルチャーや仕事のやり方、およびコミュニケーションで組織の景色を変える支援をしています。もともと日産自動車、NTTデータ、大手製薬会社などで16年間サラリーマンをしていました。

キャリアのスタート期は、自動車会社でITの調達――いわゆるシステム開発や運用保守のベンダーの選定です。「オフショア」と言いまして、中国やインドなど海外の開発拠点や運用保守のベンダーを開拓する仕事から入りました。

そこから、ITを使って事業をグローバル展開していく仕事をメインにしていた時期があります。

NTTデータでは、社内および官公庁や製造業などクライアント向けのITサービスの構築や運用のサービスマネージャーを務めました。

倉重:独立なさったのはいつ頃ですか。

沢渡:2014年の9月です。

ITと広報の仕事を行ったり来たりしていました。

倉重:どうして独立しようと思ったのですか?

沢渡:やはり大手企業に幻滅したといいますか。大手の製薬会社(非公表)に1年ぐらい勤務して「なんだかなあ」と思いまして。

皆、グローバルで綱引きをしているわけですよ。あるプロジェクトについて、日米欧の各拠点の誰が覇権を握るかというような話で揉めて、全然ものごとが進まず、綱引きに負けた海外の拠点長は辞めていきます。

控えめに言って「グローバル大企業病」です。

高齢化もものすごく、定年カウントダウンの50代のマネージャーが幅を利かせているような状況が、正直自分にはつらかったのです。

当時は私も30代後半。製薬会社ですから給料はよかったです。ですが、「この働き盛りのときに、綱引きに巻き込まれながら、成果や実績を出せない仕事をもんもんとしていていいのか」と悩んで、一回飛び出てみようと思ったのです。

倉重:すごいですね。そのときは別にお客さんの当てがあったわけではありませんよね?

沢渡:そうですね。ただ、NTTデータに在職中に本を3冊出版していたので、その本のテーマなどをきっかけに、社外の勉強会などで講師をしていました。

人に物事を伝えたり、組織の壁を越えて活性化を促したりするところに楽しさを感じていたので、「一回組織の壁を越えてみて、何ができるかを試してみよう」と思いました。

倉重:不安などはありませんでしたか。

沢渡:ありましたけれども、まだ当時は38歳くらいでしたので、「1~2年試して駄目だったら、また就職活動をすればいいかな」ぐらいの気持ちでした。

倉重:その後独立してから、順調に伸びているんですよね?

沢渡:いえ、最初はめちゃめちゃ苦労しました。

倉重:そういうキャリアの話も聞きたいです。

沢渡:やはり大手企業を渡り歩いてきて、テレワークなどさまざまな働き方や海外勤務も経験した中で、「日本の働き方はおかしいな」と感じていたわけです。

今でこそ、リモートワーク、テレワークが当たり前になってきています。

ですが当時はまだ、子育てをしている女性社員の福利厚生程度でしかありませんでした。

あるいは、私のような変人しか試みようともしなかったのです。

倉重:「あの人は変わっているからね」というような?

沢渡:そうです。一方で海外は柔軟です。私は新卒のときに取引が多かったスウェーデン企業に通って、ショックを受け続けました。

当然のごとくみんな定時で帰ります。スーツ&ネクタイではなくカジュアルな格好。自分らしく音楽を聞きながら仕事をしている人もいれば、ご飯を食べながら仕事をしている人もいます。金曜日は3時半ぐらいになると中庭でバーベキューなどが始まって。

倉重:いいですね。

沢渡:「こっちに来い」と手招きされて、みんなと肉を焼きビールを飲み、夕陽を見ながら、「日本人って何をしているのだろう」と思いました。

帰りの飛行機に乗っても、成田に近づくにつれて、なんかブルーになるのです。

「またサービス残業、休日出勤の日々が始まるのか」「上司の顔色を伺わなくてはならない、奴隷のような生活が始まるのか」と。

海外のビジネスパートナーから、「日本人は大変だね」と同情されると、

”Because we are Japanese…”

と答えて諦める。

それがなんだか理不尽で虚しく思えてきたのです。

なんか、日本人ってものすごく損しているなと。

倉重:ご自身がそういうものを経験されていたのですね。

「何かよほどの思いがあるのだろうな」ということは投稿を見て感じていました。

沢渡:とはいえ自分もワークホリックなところがあって、SIer勤務時代などは、人に言えないぐらいの残業や休日出勤をしていました。

そのときはよくても、心身に不調をきたしたり、家族やチームメンバーが疲弊していったりします。

「こんな働き方を続けていてはいけない」と思いました。

「日本のワークスタイルを変えなければいけない! ワークスタイル変革だ!」と。

ところが私がサラリーマンを辞めた2014年9月の時点では、そんなことを言っても誰も振り向いてくれなかったんですね。

倉重:6年前だとそうでしょうね。

沢渡:一時期はやさぐれて、「みんな仲良く過労死してしまえばいいんだ!」と思ったこともありました。

でも、発信し続けたことで、技術評論者の編集者さんが関心を持ってくれて、『職場の問題地図』を上梓したのです。

2016年の9月ですね。ちょうど東京都の小池百合子都知事が、「都庁では8時以降の残業は禁止します」と言った直後です。

『職場の問題地図』の販売タイミングとほぼ重ったので、新宿かいわいの書店さんで売上げが上がり、その後に電通事件が起こったことで累計23万部いきました。

倉重:23万部はすごいですね。

沢渡:ワークスタイルや働き方の文脈でのお声掛けが多くなって、今に至ります。

全く日の目を見ないときから「働き方だ」「ワークスタイルだ」って言い続けてよかったなというのは感じています。

倉重:ようやく時代が変わってきましたよね。

私も労働法を変えるべきだと6~7年前からずっと言っているのですけれども、全く誰も興味を持っていませんでした。

最近になって「なるほど」と言ってくれる人が増えてきた感じがします。

沢渡:そうですよね。

■ハンコリレーの妖怪化

倉重:ご著書の『仕事ごっこ』を読ませていただいて、非常に共感することが多いので、基本的にはこのテーマでお話できればと思っています。

まず、仕事ごっことは何でしょうか?

沢渡:主に2つのセンテンスで説明しています。

1つ目は、生まれた当初は合理性があったこと。

ハンコリレーも、恐らく生まれた当初は合理性があったわけですよね。

それぞれの機能の長がきちんと承認して、合議のもとに物事を決めましょう、意思決定をしましょうということから始まりました。

時代や環境、価値観が変化し、技術が進化していくと、相対的に「これって生産性やモチベーションの足を引っ張る厄介者だよね」ということになります。

妖怪のようなものですね。

生まれた当初はピヨピヨかわいい妖精だったのが、時代遅れになって妖怪化するわけです。

倉重:「ハンコを傾ける」という習慣は、完全に妖怪になっていますね。

沢渡:この妖怪に化けてしまった仕事や慣習を「仕事ごっこ」と言います。

ここで大事なのは、生まれた当初は合理性があって、必ずしも悪ではなかったということです。

例えば、ファクスも生まれた当初はイノベーションの産物だったわけですよね。

「家にいて紙が送られてくるなんて」とみんな喜びました。

私も小学校1年生のときに、初めて電電公社見学で見て感動しましたよ。

「テレポーテーションをして送る魔法なのか」と本気で勘違いしたものです。

「これ使えば、おばあちゃんのうちからあんパンを送ってもらえるんじゃない?」なんて脳内お花畑な妄想をしました。

そのくらいのイノベーションだったのです。

ところが今は、ファクスって面倒くさいものの代表格でしょう?

倉重:裁判所がいまだにファクスなので、書類確認だけのために行かなければいけないのです。正確に言うと受信はできますが、返信もファクスなので送信をしに行っているのですけれども。

沢渡:ファクスを送るだけのためにコンビニに行ったりしますよね。

そして2つ目はコラボレーション。相手といかにつながるかですね。

競争ではなくて、協創。あるいは「共創」という字が当てられます。

コラボレーションする組織やそこで働く人とつながって価値を出す。

それを邪魔するような形骸化した仕事や慣習、あるいは「仕事のための仕事」も、仕事ごっこです。

紙とハンコの煩雑な手続きや、報告のための報告のための報告書を作るという作業は、新たな価値を生み出すコラボレーションを阻害しています。

人と人が、組織と組織が、あるいは組織と人がつながる邪魔をしている何かを仕事ごっこと捉えてください。

この前提で各話が展開されていく本です。

倉重:相手の時間やモチベーションなどが疎外されているのですよね。

まさに「仕事のための仕事」が、今もなお、日本企業をはじめとして多く残っているということですね。実際、社内資料を整えることなどは何も産んでいませんから。

沢渡:いかにお客さんや協力関係を結びたい相手と素早く繋がって仕事をするか。そこが大事なわけです。

■オープンなコラボレーションがイノベーションを生む

沢渡:コラボレーションの有無は、これからの組織のキーワードとして言われている2つのことに関わってくると思うのです。

まずはコラボレーションの先にイノベーションがあります。

イノベーションとは、既存の物を掛け合わせて新たな価値を生むこと、あるいは既存の問題を解決する取り組みのことを言います。

分かりやすい例として、最近はトヨタがNTTとコラボレーションをして、「モビリティー・アズ・ア・サービス――MaaSという新しいサービス型のモビリティーを提供していきます」と発表しました。

これはまさに企業間のコラボレーションです。

今まではどちらかというと、日本の企業は中の人たちだけで何とかしようとしてきました。

けれどもどんどんオープンにコラボレーションをしているところは、イノベーションを起こして、今までにない価値を生んでいます。

地方自治体では千葉県の流山市の事例があります。自分たちの悩み事をオープンにすることによって、住民からその解決策などの情報を得ました。

倉重:市役所がそうしているのですか。

沢渡:そうです。

自らの課題をオープンにすることによって、住民とのコラボレーション――協業を生んで既存の問題を解決していくケースです。

倉重:昔ながらの考え方だと、「問題点は隠さないと」と思う方もいるでしょうね。

沢渡:最近はUSAの軍隊なども、機密で固めるのではなくて、抱えている問題や課題をオープンにすることによって、ヒントや助力を外から募り、解決していくスタイルに変わらないとダメだという話をしているわけです。

いわゆる統制型であった組織でさえもオープンにして、コラボレーションで物事を解決していく、イノベーションを起こすスタイルに変わりつつあります。

(つづく)

【対談協力:沢渡あまね(さわたり あまね)さん】

1975年生まれ。あまねキャリア工房 代表(フリーランス)、株式会社NOKIOO顧問、株式会社なないろのはな取締役。作家、業務プロセス/オフィスコミュニケーション改善士。浜松/東京二重生活。

日産自動車、NTTデータ、大手製薬会社を経て2014年秋より現業。経験職種は、ITと広報(情報システム部門/ネットワークソリューション事業部門/インターナルコミュニケーション)。

『人事経験ゼロの働き方改革パートナー』を謡い、ITやコミュニケーションの観点から組織改革を進める。300以上の企業/自治体/官公庁などで、働き方改革、マネジメント改革、業務プロセス改善の支援・講演・執筆・メディア出演を行う。趣味はダムめぐり。

<著書>

『仕事ごっこ』『仕事は「徒然草」でうまくいく』『業務デザインの発想法』『職場の問題かるた』『職場の問題地図』『マネージャーの問題地図』『働き方の問題地図』『仕事の問題地図』『システムの問題地図』(技術評論社)、『チームの生産性をあげる。』(ダイヤモンド社)、『働く人改革』(インプレス)、『新人ガール ITIL使って業務プロセス改善します!』『ドラクエに学ぶ チームマネジメント』(C&R研究所)など。

『職場の問題地図』は"ITエンジニアに読んでもらいたい技術書/ビジネス書大賞2018"で、ビジネス書部門大賞受賞。