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これからのキャリアを生き抜くには越境学習が必要だ~石山恒貴×倉重公太朗~第最終回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

倉重:では、最後の項目です。「年下とうまくやる」ということが最後に出てきました。これも年下上司とかそういう場面は世の中でたくさんあります。そもそもそのようなことにいちいちこだわるなという話かなと思います。

石山:年下とうまくやるという言葉は、実は分かりやすいと思って付けました。最近は、これは年下上司が来たときに、付き合いたくもないのにそいつにこびを売るということですかと言われたりすることがあります。ですから、年下だけとうまくやるということではなく、年齢にこだわりなくコミュニケーションするようにしましょうという意味なのです。

倉重:年上、年下は実はあまり関係ないですよね。世代や価値観や考え方が違う人とうまくやるということが大事ですね。

石山:まさにそうなのです。

倉重:これはダイバーシティーの話ですね。

石山:まさにそうなのです。だから、上下左右、こういう人たちだからこう構えないでということなのです。

倉重:その中の基本では、「○○さん」と呼べと。

石山:そもそもいろいろな会社に行くと、メールを見ると結構特徴があります。例えば、全部さん付けで通している会社もあれば、「〇〇事業部長殿」、と役職にプラスして殿付けをして、さらにいつも大変お世話になっておりますと、社内なのに必ずあいさつ文を入れなければいないメールがあったりします。「〇〇事業部長殿」と役職呼びをしていると、なかなかそこでフラットなコミュニケーションが生まれにくいと思います。これは男性のほうが顕著だと思いますが、仮に役職がなくても、自分より年上の人はみんな、「さん」と呼ぶと。でも、自分より年下の人はみんな「くん」と呼ぶか呼び捨てという。これをやってしまうと、結局自分の中で、いつまでたっても年齢という枠組みから外れないと思います。

倉重:体育会系の気質があると、なおさらそういうこともありますね。

石山:僕が少し思ったことは、最初に日本企業にいたときは、いろいろな意味で「さん」・「くん」ができてしまうのです。というのは、その会社にいると、誰が自分より年次が上で、誰が自分より年次が下と完全に分かっているのです。そうすると、会ったら必ずその人を「さん」と呼ぶか「くん」と呼ぶかが分かってしまいます。一瞬で分かります。その後外資系に行ったら、そもそも誰が何歳かが分からないわけです。本当に分かりません。

倉重:国籍・人種も違うわけですからね。

石山:もう全然分かりません。顔を見ても、私はその人の年齢などは分からない人間で、そうすると逆に間違えたら大変です。

倉重:むしろそう呼ぶしかありませんね。

石山:ですから、全員。あともう一つ、次の外資系に行ったときは、そもそも外資系だかですが、みんなもうファーストネームで、しかもちょっとあだ名のように呼ぶ感じですので、もう「さん」でも「くん」でもありません。やはりそちらのほうが、年齢のこだわりは外れます。

倉重:私は大学のときに応援団をやっていました。体育会系の極みですから、1年生はもう人でなしのような、人権はないという感じで育ってきました。また、そういうことが嫌だなと思っていました。年功序列の最たる者ですから。そういう年齢がたつだけで偉そうにして何なんだとずっと思っていました。でも、その中でも、きちんと後輩に分け隔てない先輩もいるわけです。こういう人は人間的に素晴らしいなと思います。あるいは年齢に、背景に強く当たってくる人などもいます。

石山:そこで分かりますね。

倉重:かなり分かりますよね。下はそういうことを見ています。

石山:一番分かりますよね。

倉重:そうなると、やはりその人の今後の人生の幅も変わってくるということですよね。

石山:そうですね。でも、確かに部活というか体育会。うちのゼミでも、スポーツ選手のセカンドキャリアを研究していた人がいます。でも、そこは、自分は高校生のときに1年生は人間ではないということで、先輩より最近にもちろん食べてもいけませんでしたが、そもそも先輩に話すなと言われていましたと。

倉重:私も、大学で応援団やっていたとき話すときは、「よろしくお願いします」と先に言わないといけませんでした。「うむ」と言われてからきちんと話せという。

石山:そこが若いときに刷り込まれてしまうと、どうなのかなと思います。

倉重:本当ですね。それは人間としてということもそうですし、いろいろな幅が狭まってしまうことはもったいないことです。コミュニケーションの幅もそうです。それは多分、社内だけではなく、いろいろなコミュニティーでやっていく上でも、そういう生き方では当然人間関係も狭まってしまいますよね。

石山:そうですね。自分も32~33歳ぐらいまではさん・「くん」でやっていました。ある日本企業にいましたが、ある日やめようと思ったのです。

倉重:それは結構な決断ですよね。

石山:最初は気持ち悪がられました。

倉重:突然「○○さん」と呼びだして。

石山:突然「さん」と呼んだり。でも、そのうちに、意外にみんなすっと受け入れてくれました。みんなを「さん」と呼び始めて、自分の中の枠組みが変わりました。

倉重:自律した対等な第三者ということが前提ですよね。

石山:そうなのです。

倉重:私自身も、子どものこともできる限り尊重してさん付けしてみようかと思ったりしますが、切れるとつい呼び捨てにして怒ってしまいます。

石山:そういえば、子どもは呼び捨てにしています。子どもは「さん」付けしていません。子どもも「さん」付けしているのですか。

倉重:怒るときにあえて名前を言って怒鳴るのだと、やはりこれは対等ではないと思ってさん付けをして、これはどういうことか分かる?というように。あえて一番怒るときはそうしています。

石山:ちなみに、うちのゼミは、先生と言うのはやめてくれと言っています。あだ名で呼んでくれとなっています。

 あと、社会人大学院なのですが、そもそも社会人大学院は年齢もばらばらですよね。1年生に60歳の人がいて、2年生に25歳の人がいても当たり前です。社会人大学院で先輩後輩もないだろうと思っていましたが、普通にしているとあるのです。

倉重:あるのですか。それはやはり2年生のほうが。

石山:1年生の人が2年生を何とか先輩と呼んだりするから、もうやめてくれと。ですから、うちのゼミは先輩後輩をNGワードにしています。

倉重:久しぶりに学生気分になってうれしいということもあるのではないですか。

石山:そうかもしれません。そうだと思いますが。

倉重:それでも。

石山:それでもあると良くないのです。

倉重:序列ができてしまいますね。

石山:そう、変に序列感ができると嫌なのです。

倉重:さて、これまで、5つのPEDALの要素(1 仕事を意味づける、2 まずやってみる、3 学びを活かす、4 自ら人と関わる、5 年下とうまくやる。)を見てきました。まずは、個人ベースで基本的に意識をしてやっていこうということがまず第一だと思いますが、改めて会社としてこういうものを伸ばしてあげるためにはどうしたらいいですか?

石山:実は今回、この本にはあまり書けませんでしたが、会社側の職場や上司マネジメントの躍進行動エンジン・ブレーキもかなり出しています。職場としても、躍進行動を促すためにはこのようなことができますという処方箋は、実はあります。

倉重:あるのですか。

石山:あります。

倉重:それは、次の本で書くわけですね?

石山:それは本になるかどうかは分かりません。

倉重:ならないのですか。では、教えてください。

石山:一番大きいことは、上司マネジメントだと思っています。今回実は、上司マネジメントで、特に年下上司と年上上司でエンジンとブレーキを分析しました。一言で言うと、当たり前と言えば当たり前なのですが、ミドル・シニアの社員に裁量を与えて、責任のある仕事を与えて、常に成長し続けてもらうようなことをやるマネジメント。ただし、実は今回ブレーキだったことは、課題を明確に指摘するとか、ささいなことも声を掛けるということです。

倉重:マイクロマネジメントは駄目だという話ですよね。

石山:そうなのです。マイクロマネジメントはせずに伴走者になって、しかも一つのポイントが、上司が自己開示をしたほうがいいという話もあります。

倉重:Googleの研究のものですね。自分がガンに侵されていることを告白したリーダーの方がチームの生産性が高いというものですね。

石山:そうです。上司が自分の強みや弱みをうまく自己開示できる。ですから、やはりGoogleの話に関連して、今流行りかもしれませんが、心理的安全性を職場で確保するようなことが、実はすごく大事だったりします。

倉重:なるほど。そう部下に思ってもらう必要がまずあるということですね。その上では、上司はどうしたらいいですか。

石山:一つは、特にミドル・シニアの中のシニア社員かもしれませんが、そういった社員にとって何が大事かということは、成長し続けるという人間観があるかどうかだと思っています。今までだったら、特にシニア社員だと、今まで培った技能を継承してくださいということを企業としては思っていました。でも、そうではなくて、これからも一線で活躍してもらうということは、成長してもらう。成長してもらうということは、どのような局面であっても、その人にストレッチなぐらいの裁量を与えて挑戦し続けてもらう。ところが、技能継承するというようなことが中心になっていくと、「今更、私の出る幕ではないから」という一歩引いた発言や姿勢につながりかねません。

倉重:それは、もう終わった人のようになりますよね。

石山:もうこれは若手に任せてということになってしまいます。そうすると、成長しなくなってしまいますし、責任のある仕事に挑戦しなくなっていきますので、第一線で活躍し続ける自律性のようなことが大事だと思っています。これは、前川製作所さんは昔から工夫してますね。

倉重:どうしてるんですか?

石山:前川製作所は昔から、70歳でも80歳でも働き続けられる会社でした。前川製作所さんのそういう社員は、3つの特徴があります。まず、第1が健康であること。第2が自分のやりたいことがはっきりしていること。第3が自分のやりたいことを周囲に認めてもらっている人、あの人となら一緒にやりたいと周囲が認めていること。こういう3つの条件があります。

 やはり幾つになっても自律性があって、自分のやりたいことがしっかりあることが大事だと思います。そのやりたいことが、自分だけがやりたいことで、職場にとって必要がないことだとまずいと思います。ですから、仕事を意味づけると重なるかもしれませんが、やりたいことと職場で必要なことがうまく接続している人が、やはり何歳になっても活躍できる人なのです。

倉重:そうなってくると、自分で勝手に努力するし、自分で勝手に勉強しますね。

石山:ですから、そういう人をつくるようなことを促すマネジメントが大事なのではないでしょうか。

倉重:そのように気付いてもらうために、副業が解禁などといろいろ言われています。まさに2枚目の名刺というところでもお書きいただいていたと思いますが、単にお金稼ぎでは絶対駄目ですよね。

石山:そうですね。その話でいくと、パラレルキャリアと副業の定義の話をしていいですか。

倉重:どうぞどうぞ。

石山:パラレルキャリアと副業の定義も人それぞれですので、あくまで私が考えている定義です。チャールズ・ハンディという人がイギリスにいます。この人は昔からポートフォリオワーカーということを唱えていました。リンダグ・ラットンさんが『ライフ・シフト』で使ったポートフォリオワーカーは、チャールズ・ハンディの考えを踏まえていると思っています。

 チャールズ・ハンディはポートフォリオワーカーをどのように言ったかというと、人生には4つのワークがあると。

1つ目のワークが有給ワークです。お金をもらうワーク。このワークを2つやると兼業・副業になると思います。ただし、兼業・副業で1つ言っておきたいことが、多くの人が兼業・副業は、本業も雇用、副業も雇用という形を想定してしまいますが、どちらかというと、今、新しい形で副業に取り組んでいる人は、本業は雇用で副業は非雇用というか、フリーランスや起業などそのようにやっていますので、副業といってもいろいろあります。

2つ目のワークが家庭ワークです。育児や介護や家事などはとても重要です。

3つ目のワークがギフトワークというもので、これは社会貢献のためのワークです。例えば、NPOや、最近でいうとプロボノという、ビジネススキルを生かした社会貢献のようなものが当てはまります。私はギフトワークというよりもギフト・地域ワークといったほうがいいのかなと思っていまして、いろいろな地域貢献活動のようなものも入ってくると思っています。

4つ目が、学習ワークなのです。これは社会人大学院で学んだり、先ほどから出ているいろいろな勉強会や研究会をやったりということです。

 私の定義ですと、パラレルキャリアはこの4つのワークを何か複数やるということだと思っています。副業は、パラレルキャリアの中のたまたま有給ワークを2つやるということだと思っています。

 2枚目の名刺とは、きっと4つのワークを全部バランス良くやったら2枚目の名刺になるのではないかと思っています。そういう意味でいうと、それ自体が非常にいろいろな広がりがあって、意味があると思っています。

 ただ、これは、そういう話をするともう1つ言われることは、普通の人は有給ワークもやって家庭に帰りますよねと。そうしたらみんなパラレルキャリアではないですかということをよく言われます。実は、みんなパラレルキャリアをやっていると思っています。ただ、そこで1つ言いたいことは、これは心理的な問題ですので、あなたは本当に家庭ワークをやっていると胸を張って言えるならそこでパラレルと言えるけれども、例えば有給ワークの仕事に偏っていて、たまに育児を手伝っていますぐらいの。

倉重:どうせごみ出しをしているだけだろうと。

石山:育児を「手伝っています」と言った段階でもうワークしてませんよね。

倉重:松浦民恵さんが作成された家事のチェックシート※をやってみろと。あれはすごく細かく分類されていますが、その中の何個が埋まるのだと。

※家事分担チェックシート

https://www.nikkeibook.com/item-detail/48822

石山:怖いですね。僕もこの話をするといつも、おまえはどうなのだという話をよく言われます。うちの娘からは、講演でこういう話をしたと言うと、どの口が言っているのだとよく言われます。

倉重:お時間が迫ってきましたので、最後にシングルキャリアの問題を取り上げたいと思います。

石山:シングルキャリアですね。パラレルキャリアと対極の状態で、なにか一つのことだけに異存している状態ですね。

倉重:そういうシングルキャリアの問題もあって、結局同じ職場にいること自体がいいか悪いかの話ではありませんが、マインドが染まってしまうとよくないということもおっしゃっていました。これはすごく大事だと思います。

石山:長期雇用を否定するものでは全然ありません。雇用の安定は別に全然否定されることではないと思います。ただ、平日は残業ばかりしているから友達と遊べません。スケジュールは前もって入れません。では、残業がないから週末は友達と遊ぶのかと思ったら、ゴルフに行くのだけれども、職場の人か取引先の人としか行きませんとなってしまったら、会社を辞めたらお金がもらえなくなるだけではなくて、自分の人生そのものがなくなってしまいますというような。

倉重:周囲も含めてなくなってしまうわけですね。

石山:周囲も含めてなくなる、そういう心理的な依存状態はよくないという意味です。

倉重:そういう意味でのリスクが高いという話ですね。

石山:はい。

倉重:人生100年をより楽しむためにも、キャリア形成においては多様なコミュニティーを持っていることが重要ですね。

石山:正にそういうことです。

倉重:最後に石山先生自身の夢を語っていただきたいと思います。

石山:これは偉そうにと言われるかもしれませんが、自分の納得のいく、書き切ったというような本か論文を書きたいです。

倉重:やはりまだ「未完」であると。某漫画の最終回のようですね。

石山:今まで書いたものはみんな、もっとこうすればよかったとか、もっとああすればよかったとかがすごくあります。これを書いたときに、書き切ったなというような本や論文を一度書いてみたいです。

倉重:いいですね。楽しみですね。先生は元々人事で実務をやられていましたので。要するに、ずっと20代のときからの研究者の人と違って、そこが自分の中でも引っ掛かっている部分もおありになるだろうと思っていました。

石山:引っ掛かっていました。全然、研究者キャリアも浅いです。そうすると、まだ全然だと思います。

倉重:でも、実務経験がある石山さんにしかできないことがきっとありますよね。

石山:そうありたいと思っています。

(おわり)

【対談協力】石山恒貴(いしやまのぶたか)

法政大学大学院政策創造研究科 教授・研究科長

一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院経営情報学研究科修士課程修了、法政大学大学院政策創造研究科博士後期課程修了、博士(政策学)。NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。越境的学習、キャリア形成、人的資源管理等が研究領域。人材育成学会理事

主な著書:『越境的学習のメカニズム』福村出版、2018年 、『パラレルキャリアを始めよう!』ダイヤモンド社、2015年、『会社人生を後悔しない40代からの仕事術』(パーソル総研と共著)ダイヤモンド社、2018年

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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