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通常の抗菌薬が効きにくい? 「マイコプラズマ感染症」とは

倉原優呼吸器内科医
(写真:イメージマート)

中国で子どもの呼吸器感染症が増えているという報道がありましたが、インフルエンザ、RSウイルス、マイコプラズマ感染症など複合的な要因であることが分かっています(2023年11月26日20時30分追記)。

マイコプラズマ感染症は重症化すると肺炎を起こすことがあり、その場合適切な抗菌薬を選択する必要があります。日本でも今後増えてくる可能性があり、注意が必要です。

増加が懸念されるマイコプラズマ感染症

これまで、中国は「ゼロコロナ」を目指していました。そのため、この対策の緩和による反動は大きく、あらゆる呼吸器感染症が増加に転じていることが注目されています。

世界保健機関(WHO)は、中国北部で報告された小児肺炎の集団発生について、マイコプラズマを含む一般的な呼吸器感染症であることを報告しています(1)。11月26日には、全年齢でインフルエンザが増加し、年齢によってライノウイルス、マイコプラズマ、新型コロナなどさまざまな病原微生物が影響していることが国家衛生健康委員会から報告されました(2023年11月26日20時30分追記)。

また、韓国の疾病管理庁のまとめによると、マイコプラズマ肺炎による入院患者が前年同期と比べると約2倍に増加しています(2)。このほとんどが子どもです。

日本では2016年以降、明らかなマイコプラズマ肺炎の流行はみられていません。とはいえ、決して楽観視ができる状況にあるわけではなく、学童の約半数は抗体を持っておらず、いずれ流行が拡大するのではないかと警戒している状況です。

マイコプラズマは「細菌」

マイコプラズマと聞くと、なんか恐ろしい感染症のように思われるかもしれませんが、呼吸器感染症ではありふれた細菌感染症です。インフルエンザや新型コロナなどのウイルスとは分類が異なり、マイコプラズマは「細菌」に位置付けられています。

上述した韓国の報告にあるように、子どもに多いというのがこの感染症の特徴です(図1)。

図1.マイコプラズマ感染症の特徴(筆者作成、イラストは看護roo!より使用)
図1.マイコプラズマ感染症の特徴(筆者作成、イラストは看護roo!より使用)

新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスと比べると感染性はそれほど高くありませんが、咳やくしゃみによる飛沫によって周囲に感染が広がっていきます。

マイコプラズマ感染症の症状は?

マイコプラズマ感染症の潜伏期間は約2週間と長く、初発症状は、発熱、倦怠感、せきなどです。細気管支炎~肺炎を併発すると、症状が長引きます。せきは長いケースだと3~4週間くらい続くこともあります(図2)。

図2.マイコプラズマ感染症の経過(筆者作成)(イラストはすべて看護roo!より使用)
図2.マイコプラズマ感染症の経過(筆者作成)(イラストはすべて看護roo!より使用)

子どもの場合、喘息のような細気管支炎になることも多く、熱とぜえぜえの両方がある場合は、本症を疑う必要があります。

喘息ではない子どもがマイコプラズマに感染することで、その後の喘息リスクが3倍以上に上昇するというデータもあります(3)。

世の中の喘息は、アレルゲンだけでなくこういった幼少期の呼吸器感染症が影響しているという説もあるくらいです。

マイコプラズマ感染症の治療や予防法は?

一般的に肺炎の治療にはベータラクタム系という抗菌薬がよく使用されます。しかし、マイコプラズマにはこのタイプが無効なので注意が必要です。

一般的にマクロライド系という抗菌薬が用いられますが、これにすら耐性を持っている「耐性マイコプラズマ」がアジアで増加していることが問題となっています(4)。耐性の場合、子どもにはトスフロキサシンなど別の系統の抗菌薬が使われます(5)。

肺炎でない限り、マイコプラズマ感染症に対して必ずしも抗菌薬が必要というわけではないので、適正な抗菌薬使用が望まれるところです。

マイコプラズマ肺炎は学校保健安全法で「第三種学校伝染病」に分類されています。そのため、診断された場合、感染の危険性が無くなったと判断されるまで出席停止の措置が取られることがあります。

新型コロナやインフルエンザとは異なり、マイコプラズマには有効なワクチンが存在しません。そのため、個々に感染対策を講じるしかありません。

全ての呼吸器系感染症には、接触・飛沫感染対策が肝要であり、大きな感染を起こすことなくこの冬を乗り切りたいものです。

(参考)

(1) Upsurge of respiratory illnesses among children-Northern China(URL:https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON494

(2) 「4週間でマイコプラズマ肺炎患者が2倍増加」. 韓国政府広報サイト. [韓国語] (URL:https://www.korea.kr/news/policyNewsView.do?newsId=148922780

(3) Yeh JJ, et al. J Allergy Clin Immunol 2016; 137:1017.

(4) Kim K, et al. JAMA Netw Open. 2022;5(7):e2220949.

(5) 小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022. 協和企画.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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