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1年後も肺に残る 新型コロナの「火傷(やけど)の痕」

倉原優呼吸器内科医
photo ACより使用

インフルエンザと比較して新型コロナでは体内に炎症を起こす頻度が高いことから、それを反映して後遺症も多いとされています。コロナ禍で多くの新型コロナを受け入れてきた病院からみた、肺の後遺症について解説したいと思います。

日本における後遺症の頻度

新型コロナに感染した後、咳や倦怠感などの罹患後症状(後遺症)が続くことがあります。重症であればあるほど、後遺症の症状が長引きます(図1)。

図1.新型コロナ後遺症の経過例(筆者作成)
図1.新型コロナ後遺症の経過例(筆者作成)

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によると、感染者の16%は12か月を超えて症状が持続していると報告されています(1)。しかし、これまで日本ではまとまったデータがありませんでした。

先日、日本呼吸器学会の英文誌において、日本における後遺症(罹患後症状)の研究結果が発表されました(2)。日本の26医療機関において18歳以上の入院患者さんを対象とした1,200人の観察研究で、後遺症の頻度は3か月後で46.3%、6か月後で40.5%、12か月後で33.0%という結果でした。

オミクロン株以降ではそこまで頻度は高くないとされていて、八尾市、品川区、札幌市における後遺症の頻度を調べたところ、第6~7波(2022年1月~9月)の時期では当初より半減して、大人で11.7~17.0%、子どもで5.8~7.3%と報告されています(3)。

国内でも、一定割合の人が後遺症に悩まされている現状が浮き彫りになっています。

肺に火傷(やけど)のような痕

当院は、コロナ禍3年で多くの新型コロナ患者さんを受け入れてきました。入院が必要な患者さんでは肺炎を起こす頻度が高く、退院した後も、まだ肺に火傷(やけど)のような痕が残っている方がおられます。

海外の研究では、新型コロナ入院例の19%が4か月後でも肺に痕を残していることが明らかとなっています(4)。

図2は、筆者自身の胸部CT写真と後遺症を残した胸部CT写真を並べたものです。

図2.正常と新型コロナ後遺症の胸部CT写真(筆者作成)
図2.正常と新型コロナ後遺症の胸部CT写真(筆者作成)

肺はCT写真で黒く写りますが、マスクメロンの模様のように肺の中にモヤモヤと見える網の目が、後遺症です。これが新型コロナ肺炎を起こした火傷(やけど)の痕で、3年間これが残っている患者さんも何人か当院に通院されています。

とはいえ、これが永続的に自覚症状を起こすわけではありません。次第に体が順応し、痕が残っていても症状の無い人はたくさんおられます。

経験的にも、インフルエンザではこのような現象は多くありません。これは、新型コロナの炎症を起こす力が、インフルエンザよりも強いことを意味しています。

まとめ

後遺症があった割合は、新型コロナワクチン未接種者と比べ、感染前にワクチンを接種していた人で低いことが日本の住民調査で示されています(3)。

現在、XBB.1.5株対応1価ワクチンの接種がすすめられていますが、ワクチン供給量が想定より不足しており、接種場所が少なかったり、予約できなかったりする状況が続いています。

高齢者や重症化リスクが高い方は、可能なタイミングで接種をご検討ください。

(参考)

(1) Montoy J, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2023; 72(32): 859-865.

(2) Terai H, et al. Respir Investig. 2023; 61(6): 802-814.

(3) 令和4年度COVID-19感染者の健康と回復に関するコホートの主な結果(住民調査:八尾市、品川区、札幌市)(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001147539.pdf

(4) Soliman S, et al. Eur Radiol. 2023 Aug 12. doi: 10.1007/s00330-023-10044-0.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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