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新型コロナ第9波が本州を縦断中 熱中症と見分けにくい?

倉原優呼吸器内科医
(写真:アフロ)

医療逼迫が厳しかった沖縄県では新型コロナ感染者数のピークアウトがみられるものの、そこからやや遅れて本州にも第9波が到来しています。5類感染症に移行した後から、常に前週比を上回る感染者数が報告されている現状があります。

新型コロナはどの程度流行している?

定点医療機関あたりの新型コロナ感染者数の推移が公開されていますが、概ね第8波ピークの半分あたりまで増加しています(図1)

図1. 定点医療機関あたりの新型コロナ感染者数(参考資料1より引用)
図1. 定点医療機関あたりの新型コロナ感染者数(参考資料1より引用)

入院が必要な新型コロナの患者さんも、5類感染症に移行してから右肩上がりに増加しています。

定点医療機関あたり13.91人という数値は、インフルエンザの場合、すでに「注意報」を超えている水準です。「1つの医療機関で1週間に新型コロナと診断された人が13.91人いる」ということになります。かなり多いほうです。

47都道府県のうち38でこの数値が10人を超えており、ほとんどの地域で新型コロナは新たな流行に入ったと理解してよいでしょう。沖縄県では、ピークアウトの傾向がみられるようです。

波の数を数える意義はもはやありませんが、今回の波を表す書き方が他にありませんので、第9波ということになります。

若年層での増加が著しいです(図2)。これは定点医療機関自体が、インフルエンザと同じように子ども主体で設定されていることも一因ですが、実感としては子どもを中心にして一家のほとんどが感染するというケースが多い印象です。

図2.年齢別の定点医療機関あたり新型コロナ感染者数(参考資料1をもとに筆者作成)
図2.年齢別の定点医療機関あたり新型コロナ感染者数(参考資料1をもとに筆者作成)

今回の第9波はなかなかやっかいだと思います。その理由をいくつか挙げてみましょう。

やっかいな理由①:5類化で緩む警戒

オミクロン株以降、ほとんどの人が重症化しないので、5類化以降警戒心が和らいでいます。ウィズコロナを選択した日本においては、それでかまわないと思いますが、ずっとガードを下げておくことが得策というわけではありません。

地域で学級閉鎖が相次ぐようなレベルの感染になってきた場合、室内などでは個々が感染対策を講じるべきでしょうし、いつでもガードを上げられるようにしておくべきです。

9月から「令和5年度秋開始接種」が始まります。いずれXBB対応ワクチンが主流になると思いますが、前回の新型コロナワクチン接種から1年を超えているような人は再び感染・重症化リスクが高くなってくるので、積極的に接種を検討いただくとよいと思います。

やっかいな理由②:医療機関の「診る」と「診ない」が2極化

2つ目は、医療機関の対応についてです。

5類化の前、すなわち新型インフルエンザ等感染症だった頃、各医療機関には行政から新型コロナの病床を確保するよう強い要請が出ており、どこの病院もたくさんの新規入院を引き受けていました。

その名残で、現在も中核病院ではできるだけ多くの新型コロナ患者さんを引き受けるようにしています。しかし、院内感染リスクによる機能不全や助成金半減によって「割に合わない」と考えている医療機関もあり、政府の期待とは裏腹に「診る」と「診ない」の2極化が観測されています。

「どこの医療機関でも診られる」という理念そのものには賛成ですが、うまく機能するかどうかは別問題です。

やっかいな理由③:他の感染症が多い

新型コロナだけでなく、他のウイルス感染症はまだまだ多いです。

驚くべきことに、7月末になるというのにいまだに九州地方ではインフルエンザが流行しています。定点医療機関あたりの感染者数は、鹿児島18.67人、宮崎9.98人とまだまだ多い状況です。

やっかいな理由④:薬剤が不足

薬剤の不足も気がかりです。上述したように、新型コロナ以外のウイルス感染症が多いことから、小児科や呼吸器科で使うような咳止めなどが不足しています。

背景にはジェネリック医薬品の生産と流通にかかわる問題があり、第9波によってこれまで水面下にあったものが露呈したに過ぎないのですが、とにかく薬剤が手に入りにくくなっているのが現状です。

やっかいな理由⑤:熱中症と似ている

症状が似ていることから、新型コロナと熱中症の区別が難しいことがあります。

のどの痛みや咳があるときは新型コロナの可能性が高く、フラフラしたり意識がもうろうとしていたりする場合は熱中症の可能性が高いかもしれません()。

表. 新型コロナと熱中症の違い(筆者作成)(イラストはイラストACより使用)
表. 新型コロナと熱中症の違い(筆者作成)(イラストはイラストACより使用)

猛暑が続いているにもかかわらず、エアコンをつけない高齢者はまだまだ多いです。私も、高齢者の患者さんには無理しないよう外来でお伝えしています。

まとめ

沖縄県において第9波はピークアウトしつつありますが、同じような医療逼迫が本州でも起こるかもしれません。

5類化しても、発熱相談センターなどを残している自治体もあります。かかりつけの医療機関がない場合、お住まいの地域の相談先を確認しておきましょう。また、抗原検査キットや解熱剤などを事前に購入しておきましょう。

(参考)

(1) 新型コロナウイルス感染症に関する報道発表資料(発生状況等)2023年6月~(URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00438.html

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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