プールや海で溺れていないのに肺が「水びたし」 なぜ
肺の中が水びたしになる状態のことを肺水腫(はいすいしゅ)と呼びます。プールや海で溺れた後に肺水腫を起こすことがありますが、明らかに水を誤えんしていないのに、水泳後、肺水腫を発症することがあります。この「水泳後肺水腫」について解説します。
「水泳後肺水腫」とは
水泳後肺水腫とは、明らかに水を誤えんしたわけではないのに、肺水腫を発症する病気です。特に、全力で泳ぐなどの運動強度の高い場合に起こるとされています。
なぜこのような現象が起こるかというと、冷たい水中で運動する行為そのものが肺水腫を起こしやすいためです。具体的には、浸水によって体幹への静脈の血液量が増えるために起こる浸水性肺水腫、息こらえなどによって肺毛細血管障害を起こす陰圧性肺水腫、運動によって心拍出量が増加して肺毛細血管障害を起こす運動誘発性肺水腫が組み合わさって発症します(図1)。
しかし、ご存知のようにほとんどの人は肺水腫を起こしません。水泳後肺水腫は、心臓や血管などの循環器系に病気を持っている人や、高齢者に起こりやすいとされています。また、男性よりも女性のほうが水泳後肺水腫を起こしやすいとされています(1、2)(図2)。遺伝的に心臓や肺の血管が弱い人も、肺水腫を起こしやすいです。
また、通常の水泳よりもスキューバダイビングなどのように圧刺激が強い潜水のほうが肺水腫のリスクは高くなります。
水泳中・直後の激しい息切れ
水泳中あるいは水泳直後に激しい息切れや咳が起こります。「気管に水が入ったのかも」ということで、しばらくプールサイドで休むパターンが多いですが、高齢女性の場合、すでに肺水腫に陥っていることがあるので注意が必要です。
急に肺水腫を起こすと、血混じりの痰やピンク色の痰が出てくることがあります。口元に耳を近づけると、喘息のように少しゼロゼロ・プツプツとした音が聴こえます。聴診器をあてるとこれがよく聴こえます。
プールでは、過換気症候群になってしまう人もいます。激しい息切れと過呼吸が起こるので、症状の見分けが難しいこともあります。
いずれにしても呼吸をするのが苦しそうな場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
自然に軽快することが多い
重症にならない限り、肺水腫は自然に軽快していくことが多いです。鼻や口から酸素を投与したり、経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP療法)という睡眠時無呼吸症候群で使用するデバイスを適用して、しばらく様子を見ることもあります。
肺水腫は、ほとんどが1日以内によくなります(3)。しかし、全体の38%は2日以上症状が続くとされており(2)、あっという間によくなるというよりは、じわじわと軽快するという理解でよいでしょう。
水泳後肺水腫152人を2~3年追跡したデータによると、水泳中に同じような呼吸器症状が再発した患者さんは28%とされています(2)。
そのため、過去に水泳後肺水腫を起こした人がもう一度水泳を行う場合、医師に相談してからのほうがよいでしょう。
まとめ
意外と知られていない「水泳後肺水腫」についてまとめました。基本的には全力で水泳した後に起こるので、ジムで軽く泳ぐ程度であればほとんど問題ないでしょう。
見解はまだ統一されていませんが、高血圧症があると肺水腫を起こしやすい可能性があります。
また、水温が低いほど肺水腫のリスクは高くなるので、普段から血圧が高く、冷たいプールで水泳をする場合、激しい息切れが出ないか注意してください。
(参考)
(1) Hårdstedt M, et al. Chest. 2021;160(5):1789-1798.
(2) Kristiansson L, et al. Chest. 2023;S0012-3692(23)00947-9
(3) Adir Y, et al. Chest. 2004; 126: 394‒9