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落とした食べ物の「3秒ルール」は科学的に正しいか? 食中毒の季節が到来

倉原優呼吸器内科医
さすがにアイスクリームはダメです(写真:アフロ)

食中毒が心配な季節になってきました。落とした食べ物を短時間で拾えば安全という、いわゆる「3秒ルール」という都市伝説が知られていますが、これは科学的に正しいでしょうか?

微生物が食べ物に移るかどうか検証

このルールを真面目に検証した研究があります(1)。サルモネラ菌が、木・タイル・カーペットからボロニアソーセージ・パンへ移るかどうか、接触時間5秒・30秒・60秒の3パターンで検証しました。

結果、5秒・30秒・60秒のいずれにおいても、ほぼ同じ菌数が食べ物に移動することが分かりました(図1)。

図1. タイルからボロニアソーセージへの菌の移動(参考資料1より引用)
図1. タイルからボロニアソーセージへの菌の移動(参考資料1より引用)

その他、エンテロバクター菌を用いた研究もあります。この研究では、ステンレス・タイル・木・カーペットから、スイカ・パン・バター付きパン・グミに短時間で移るかどうか検証したものです。12.5センチメートルの高さから食べ物を2,560回も落として調べた、執念の研究です。

長く付着しているほうがたくさんの微生物が移動しましたが、3秒どころか1秒未満で瞬間的に微生物が移動することが示されました。スイカのような水分が多い食べ物では、1秒未満で微生物が移動します。反面、カーペットやグミという条件下では移動しにくいことが示されました。

以上、2つの研究結果から、短時間だからといって微生物が移動しないという「3秒ルール」の都市伝説は否定されます図2)。特に水分が豊富な食べ物は、瞬間的に汚染されるので注意しましょう。

図2.落とした食べ物には菌が付着しやすい(筆者作成、イラストはイラストACより使用)
図2.落とした食べ物には菌が付着しやすい(筆者作成、イラストはイラストACより使用)

落ちたかどうかより重要なこと

ここからは私見です。環境の汚染菌に対しても、ヒトの免疫は常に機能していますから、床に落ちた食べ物を口に入れたからといって、イコール食中毒や感染症のリスクに直結するわけではありません。

むしろ、手を洗わずに料理をする、惣菜・弁当などの調理済み食品を2時間以上放置する、生食・生焼けの食材を食べるほうがリスクでしょう。

食中毒を予防するために、食品を購入してから食べるまでの過程において、食中毒菌を「つけない」「増やさない」「やっつける」という3原則を実践することが重要です(図3)。

図3.消費者庁「食中毒予防の3原則」(参考資料3より引用)
図3.消費者庁「食中毒予防の3原則」(参考資料3より引用)

(参考)

(1) Dawson P, et al. J Appl Microbiol. 2007 Apr;102(4):945-53.

(2) Miranda RC, et al. Appl Environ Microbiol. 2016 Oct 14;82(21):6490-6496.

(3) 消費者庁. 細菌・ウイルスによる食中毒. (URL:https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/food_safety/food_safety_portal/microorganism_virus/

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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