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「世界COPDデー」 日本で500万人以上が未診断の「たばこ病」 新型コロナ死亡リスクも上昇

倉原優呼吸器内科医
(提供:イメージマート)

11月16日は「世界COPDデー」です。たばこの煙にはたくさんの有害物質が含まれており、慢性閉塞性肺疾患(COPD)はそれを肺に吸い込むことで発症する、いわば「たばこ病」です。実は、多くのCOPD患者さんが未診断です。

年齢を重ねるごとに息が切れる

みなさんは「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」という病気をご存知でしょうか。昔は「肺気腫(はいきしゅ)」と呼んでいましたが、「COPD」という病名に統一されました。

2021年12月の調査によると、「あなたはCOPD(シー・オー・ピー・ディー)という病気を知っていますか?」という質問に対して「どんな病気かよく知っている」「名前は聞いたことがある」と答えた人は、全体の28.2%とまだ低い状況です(1)。

たばこを吸い続けるほど、COPDを発症しやすくなります。禁煙しない場合、老後COPDを発症し、晩年に酸素療法が必要になることもあります。

他の病気と違うのは、煙によって壊れた肺胞は元に戻らないという点です。つまり、「昔に吸ったたばこのツケを老後に払わされる」という、なかなか残酷な病気なのです。

日本の寿命調査に参加した6万人以上の男女を調べると、喫煙者の平均寿命は男性で8年、女性で10年短かったとされています(2)。

500万人以上が未診断

日本では、40歳以上の約530万人、70歳以上の約210万人がCOPDではないかと考えられています(3)。このうち、95%以上が診断されていません(4)。

この理由は、病院を受診しようと思う喫煙者が少なく、かなり息切れが進行してから受診するためです(図1)。コロナ禍で受診控えが進んだことから、潜在患者数はさらに多くなるかもしれません。

図1. COPDはなかなか受診にいたらない(筆者作成)(イラストは看護roo!より)
図1. COPDはなかなか受診にいたらない(筆者作成)(イラストは看護roo!より)

新型コロナの死亡リスクは3.8倍

COPDは、感染症によって「急性増悪(きゅうせいぞうあく)」という状態に陥りやすくなり、入院することがあります。そのため、当初から新型コロナの死亡リスクを上昇させる病気とされています。

コロナ禍に入って約3年となり、COPDが新型コロナ診療に与える影響も徐々に明らかになってきました。

約123万人を対象とした解析によると、COPDの患者さんでは新型コロナの死亡リスクが3.8倍高くなることが示されています(5)。私の勤務する病院も新型コロナの軽症・中等症病床を有していますが、亡くなられる方がCOPDを持っていることがよくあります。

喫煙者の肺は、異物を除去する線毛の機能が低下し、新型コロナの侵入門戸であるACE2受容体の発現が多くなり、容易に炎症を起こしやすくなります(図2)。

図2. 喫煙者の肺は炎症を起こしやすい(筆者作成)(イラストはイラストACより)
図2. 喫煙者の肺は炎症を起こしやすい(筆者作成)(イラストはイラストACより)

そのため、オミクロン株以降新型コロナの致死率が低下したとはいえ、COPDの患者さんにとっては、感染は一大事になります。

喫煙者は「COPDチェックリスト」を

さて、あなたがCOPDのリスクが高いかどうか、チェックしてみましょう(6)(図3)。以下の5つの質問に答えて、点数を合計してみてください(※)。

※40歳以上が対象です。COPDのほとんどが40歳以上に発症するためです。

図3. COPDチェックリスト(参考資料5をもとに筆者作成)
図3. COPDチェックリスト(参考資料5をもとに筆者作成)

喫煙歴のない人がCOPDを発症することはほとんどありませんので、少しでも喫煙歴があることが前提になりますが、合計点数が4点以上の場合、COPDを発症している可能性があります

この場合、医療機関を受診して検査を受けることをおすすめします。

まとめ

COPDは年齢を重ねるごとに息切れを感じやすくなり、新型コロナなどの感染症によって急激に症状が悪化することもある「たばこ病」です。

多くの患者さんを診療している呼吸器内科医としては、効果的な治療法がなかなかない老後のCOPDに対して、歯がゆい思いを持っています。

たばこがやめられず、息切れを感じている人は、一度呼吸器内科を受診してください。禁煙が早いほど、寿命短縮が回避できます。

(参考)

(1) COPD認知度把握調査結果(URL:http://www.gold-jac.jp/copd_facts_in_japan/copd_degree_of_recognition.html)

(2) Sakata R, et al. BMJ. 2012;345:e7093.

(3) Fukuchi Y, et al. Respirology. 2004; 9(4): 458-65.

(4) 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会. COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版.

(5) Uruma Y, et al. PLoS One. 2022; 17(11): e0276774.

(6) Samukawa T, et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2017; 12: 1469-1481.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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