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感染後いつまで新型コロナの検査は「陽性」のままなのか? 陰性確認の検査で「陽性」になる誤算

倉原優呼吸器内科医
(提供:イメージマート)

11日から始まった全国旅行支援では、ワクチンを3回接種していない人は新型コロナの検査陰性を確認する必要があります。また、ほとんどの医療機関は入院前に新型コロナのスクリーニング検査で陰性を確認しています。しかし、過去に感染した人は検査が陽性になることがあり、これが事態をややこしくしています。

全国旅行支援の陰性確認で「陽性」

全国旅行支援は、高い割引率で国内旅行を支援する仕組みで、観光業を勃興させる起爆剤として期待されています。この支援を活用する場合、新型コロナワクチンを3回接種していない人は、検査陰性を確認する必要があります。

先日、コロナ病棟を退院した患者さんから「陰性確認のために検査を受けたら陽性になった」と連絡がありました。

自治体によって求められる条件に差はありますが、感染したばかりの人が検査を行うと、検査の種類によってはある程度の期間、陽性になる可能性があります。

入院前スクリーニング検査で「陽性」

多くの病院では、入院前に新型コロナのスクリーニング検査が行われます。予定手術で入院するにしても、その他の病気で入院するにしても、陽性だと院内に感染が広まってしまうリスクがあるため、スクリーニング検査という防波堤で感染者が院内に入らないようブロックする必要があります。

他院でも耳にするのが「2~3週間前に新型コロナにかかって療養解除となった人が、入院前スクリーニング検査で陽性になった」という案件です。

たとえば、新型コロナにかかって手術が延期になっていた人が、回復後「これでようやく手術を受けられる」と入院の手続きをしたところ、新型コロナの検査が陽性になってしまい、手術がさらに延期されるというものです。

なぜこのような現象が起こるかというと、感染後のウイルスの残骸を拾ってしまうためです。

現在の新型コロナの検査は、現在の感染か過去の感染かを見極めることはできません。そのため、個々の事例ごとに判断せざるを得ないのが現状です(図1)。

図1. 新型コロナの入院前スクリーニング検査(筆者作成:イラストはイラストACより使用)
図1. 新型コロナの入院前スクリーニング検査(筆者作成:イラストはイラストACより使用)

感染後どのくらい「陽性」が続くのか

新型コロナの検査には、いろいろなものがあります。多くの医療機関では、入院前スクリーニング検査として、抗原定量検査やPCR検査といった高感度の検査を用いています(1)。

ドラッグストアなどで販売が解禁されている抗原検査キットのような感度が低い検査は、本来スクリーニング検査に適していません。

さて、新型コロナが治癒した後も、しばらくの間ウイルスの残骸が残り、検査が陽性になり続けるという現象が起こります(2,3)(図2)。PCR検査は、感染から平均17日後・最大83日後まで陽性になるというデータもあります。

図2. 新型コロナの検査陽性期間(参考資料2より引用)
図2. 新型コロナの検査陽性期間(参考資料2より引用)

新型コロナは当初退院基準に「PCR検査2回連続陰性」という決まりを設けていましたが、感染して1か月以上が経過しても陽性が出続ける患者さんがいて、毎日検査しては陽性が続くことから、退院できずに精神的に参ってしまった事例もありました。

当然、現在ではこんな退院基準は無意味ですから、感染後に検査陰性を確認する医学的メリットはありません。

しかし、ワクチンを3回接種していない人が全国旅行支援を活用する場合、検査陰性を確認する必要があります。感染者が解除後にこの支援を活用する場合、しばらく検査陽性が続く可能性があります。

解除後の再陽性に感染性はない

現在は、感染後に新型コロナの検査を行うことはありません。療養期間が過ぎれば、二次感染はほとんど起こらないでしょう。

解除後にウイルスが再陽性になった285名を対象に行われた韓国CDCの調査では、再陽性となった人の接触者790名から二次感染者は発生せず、再陽性となったウイルス108検体の培養は陰性であることが示されました(4)。

しかし、免疫不全患者を検討した別研究では、発症後20日以降もウイルスが分離されたという報告があります(5)。

そのため、入院前の新型コロナのスクリーニング検査が陽性になったからといって、目の前の人が現在感染性を有するかどうかは、総合的に判断しなければいけません。

「最近新型コロナにかかった人」については、「そりゃ陽性になるよね」で終わる話です。

まとめ

新型コロナはいまだに散発的にクラスターを起こすやっかいな感染症であり、旅行客や入院患者さんにとっては容認しがたいものです。

感染症全てに言えることですが、検査結果が全てではありません。本来、個々の事例に応じて、感染性の有無を総合的に判断する必要があるのです。

(参考)

(1) 大出恭代, 他. 医学検査. 2022; 71(1): 25–31.

(2) Crozier A, et al. BMJ. 2021 Feb 3;372:n208. doi: 10.1136/bmj.n208.

(3) Boucau J, et al. N Engl J Med. 2022 Jul 21;387(3):275-277.

(4) Korea Disease Control and Prevention Agency. Findings from investigation and analysis of re-positive cases. 5/19/2020. (URL:http://www.kdca.go.kr/board/board.es?mid=&bid=0030&act=view&list_no=367267&nPage=41

(5) 発症からの感染可能期間と再陽性症例における感染性・二次感染リスクに関するエビデンスのまとめ(国立感染症研究所)(URL:https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/10174-covid19-37.html

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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