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日本は医療逼迫を避けられるのか 想定外の第6波の感染力

倉原優呼吸器内科医
(写真:WavebreakMedia/イメージマート)

矢面に立つ宿泊施設と軽症中等症病床

現在全国で新型コロナの新規感染者数が増えているのは主にデルタ株と思われますが、諸外国の置き換わり動向を見る限り、この過程で極めてはやいスピードでオミクロン株にシフトしていくものと思われます。

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によると、アメリカにおけるオミクロン株の割合は、12月4日までの週では0.6%だったものが1月1日までの週で95.4%となっており、わずか1ヶ月でほぼ置き換わってしまいました(1)(図1)。想定外の速度です。

図1. アメリカにおけるオミクロン株の割合(参考資料1より)
図1. アメリカにおけるオミクロン株の割合(参考資料1より)

オミクロン株の実効再生産数はデルタ株の2.8~4.2倍とされており、当初想定されていたよりもはるかに感染力が高い変異ウイルスです。残念ながら、今後感染者数は確実に増加します。

ただ、すでに知られているように、重症度についてはデルタ株ほど高くありません。南アフリカやイギリスからの報告では、オミクロン株に感染して入院するリスクは、デルタ株の0.2~0.4倍あたりになりそうです(2-4)。

ただ、忽那先生の記事(5)でも書かれていたように、第4波・第5波と比べて、「重症度」×「感染者数」がどうなるかが問題です。たとえば、重症度がデルタ株の3分の1でも患者数が4倍以上になると医療逼迫は間違いありません。デルタ株と比較すると確かにおだやかなのですが、病毒性は、関西第4波で医療逼迫の原因となったアルファ株と、武漢で流行した従来のウイルスの間にあるかもしれません。アルファ株は、思い出したくないくらいの医療逼迫を関西に起こしました(6)。

基礎疾患があるから・高齢者だからという理由で閾値を下げて入院患者数を増やしてしまうと、これまでの変異ウイルスで経験したように、あっという間にベッドが埋まってしまうことが予想されます。実効再生産数が高いオミクロン株では、なおさらです。その矢面に立つのは、宿泊施設と軽症中等症病床です

オミクロン株でも宿泊施設対応へ

ゲノム解析結果が出ていない、あるいはウイルス量が少なくて判定不能であるため、「オミクロン株疑い」で入院している患者さんもまだたくさんいます。彼らは、オミクロン株確定例同様、原則個室隔離で入院しており、PCRが2回連続で陰性を確認されないと退院できませんでした。また、オミクロン株の濃厚接触者も宿泊施設での療養を余儀なくされていました。

このような対応を続けていると必然的に医療逼迫リスクが上がってしまうため、1月4日に「オミクロン株に感染した人全員を原則入院させている現在の対応を見直す」という通知が自治体に出されました(7)。具体的には、新型コロナ病床あるいは宿泊施設のベッド使用率が50%を超えそうな場合、自宅療養あるいは宿泊療養を認めるというものです(図2)。2回のワクチン接種から14日以上経過しているオミクロン株の無症状者・軽症者においては、発症または診断後10日以降に感染性ウイルスを排出している可能性が低いとされており(8)、妥当な戦略です。

図2.オミクロン株の今後の対応(筆者作成)
図2.オミクロン株の今後の対応(筆者作成)

軽症だと医療逼迫が起こらない?

オミクロン株は軽症が多いのだから風邪と同じように扱えばよいという見解もあります。ただ、もしこれを容認してしまうと、中途半端な病毒性を持ったウイルスが、極めてはやいスピードで全国に伝播します。ワクチンを接種している人は軽症で済むかもしれませんが、それ以外の感染者では軽症で済まないかもしれません。いずれにしても、新規陽性者数が増えれば増えるほど、たくさんの患者さんが病院にやって来るのです

実際、アメリカでは現在相当数の病院が医療逼迫に陥っており、505の郡が病院収容能力に達し、541の郡が今後10日以内に収容上限に達する危険性が高いとされています(9)。アメリカの病院に勤務している知り合いも「この数日は新型コロナ患者さんしか入院して来ない」と言っていました。

また、早々に第6波入りした沖縄県における新規陽性者数の倍加時間(2倍に増加する時間)は、発症日をベースとして2.8日と推定されています(10)。中等症患者さんについても、1週間前から倍増しています(図3)。このレベルの医療逼迫が全国各地で起こる可能性を想定しておく必要があります。

図3. 沖縄県の新規陽性者数および重症度別入院患者数(参考資料10より)
図3. 沖縄県の新規陽性者数および重症度別入院患者数(参考資料10より)

日本では第6波に備えて、第5波で入院が必要だった患者さんを1万人近く上回る、約3万7,000床がすでに確保されています。軽症中等症病床に関しては大幅に増床されています。

ただ、ベッドを増やせば万事解決というわけではありません。第5波当時、東京都内で確保された病床は約6,000床でしたが、入院待機者が相次いでしまいました。このとき、まだコロナ病棟には空床があったのです。

空床が多かった理由として、保健所の業務キャパシティが限界だったこと、空きがあっても1日何人もの入院を即時対応できる病院が少なかったこと、が挙げられます。

現在、宿泊施設やステーションの人材を厚くするという施策も取られています。これら感染者対応施設(図4)をうまく舵取りすることが、各自治体に求められます。

図4. 感染者対応施設(筆者作成)
図4. 感染者対応施設(筆者作成)

まとめ

コロナ慣れした諸外国でもオミクロン株に対して後手に回って医療逼迫が起こっているため、医療が脆弱な日本における第6波を決して楽観視できません。

とはいえ、第4波・5波の頃とは違って、治療薬も増え、ワクチン接種率も高くなりました。これらが防波堤となることに期待したいところです。

引き続き基本的感染対策を継続するとともに、オミクロン株の感染予防効果・重症化予防効果を得るためのブースター接種をすすめていくことが重要です。

(参考資料)

(1) COVID Data Tracker. Monitoring Variant Proportions.(URL:https://covid.cdc.gov/covid-data-tracker/#variant-proportions

(2) Jassat W, et al.(URL:https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3996320)(査読前論文)

(3) Wolter N, et al. (URL:https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.12.21.21268116v1)(査読前論文)

(4) SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England. Technical briefing: Update on hospitalisation and vaccine effectiveness for Omicron VOC-21NOV-01 (B.1.1.529)(URL:https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1044481/Technical-Briefing-31-Dec-2021-Omicron_severity_update.pdf

(5) オミクロン株による第6波に備えて 我々にできることは?(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20220105-00275985

(6) 大阪府コロナ第4波、医療現場はどうなっているのか? 医療逼迫の原因、対策は(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210429-00235077

(7) 新型コロナウイルス感染症の感染急拡大が確認された場合の対応について(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000876462.pdf

(8) SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染による新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査(第1報):感染性持続期間の検討(URL:https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10880-covid19-66.html

(9) COVID-19 Circuit Breaker Dashboard(URL:https://alexanderjxchen.github.io/circuitbreaker/

(10) 沖縄県疫学統計・解析委員会. 沖縄県新型コロナウイルス感染症発生動向報告(URL:https://www.pref.okinawa.jp/site/chijiko/kohokoryu/documents/hp221004.pdf

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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