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学校でのマスク着用 新型コロナ感染を半減させる効果が明らかに

倉原優呼吸器内科医
photoACより使用

国民に浸透したマスクの着用

世界中で広く根付いたマスクの着用。すでに行動制限が解除されてマスクを外している国もあるようですが、日本では行政のはたらきかけによって、現在も多くの人がマスクを着用しています。

現時点で12歳未満の子どもは新型コロナワクチン接種の対象外です。周囲の大人がワクチンを接種することや手洗いなどの基本的な感染対策によって、子どもを守る必要があります。

文部科学省の資料(1)によると、「児童生徒および教職員は、身体的距離が十分とれないときや換気が不十分と思われる場などでは原則としてマスクを着用すること」と記載されています。着用義務があるわけではなく、努力目標の位置づけです。運動時は身体へのリスクがあるため、マスクを着用する必要はありません。幼児についても、持続的なマスクの着用が難しい場合、無理して着用させる必要はありません。

アメリカ疾病対策センター(CDC)も、学校の屋内環境では教職員や生徒全員がマスクを装着することを推奨しています。これを支持するデータがなかったのですが、児童の感染者数を低減する上でマスク着用が有効であることが最近示されました。

マスク着用は学校の新型コロナ感染予防に効果的

アメリカ・アリゾナ州の幼稚園から高校卒業までの学校における研究では、マスク着用義務がない学校では、義務付けられている学校と比べて、開校後の児童の新型コロナ感染者の増加が大きく、アウトブレイクのリスクが3.5倍になったと報告されました(2)。調査期間中に発生した学校関連の新型コロナ感染者のうち、9割近くがマスク着用義務がない学校で発生したものと判明しました。

また、アメリカ520郡の小児科における新型コロナの発生数を調査した別の研究によると、休暇をはさんで学校が始まる前と始まった後の感染者数の変化を観察したところ、全ての郡において18歳未満の新型コロナ感染者数は増加しましたが、マスク着用義務のある郡では増加割合が約半分に抑えられました(図1)(3)。

図1. マスク着用義務のある群とない群の新型コロナ増加数(参考資料3より引用)
図1. マスク着用義務のある群とない群の新型コロナ増加数(参考資料3より引用)

学校に限らない論文では、たとえばドイツでもマスク着用が義務化された地域とそうでない地域を比較すると、義務化から20日後に新規感染が約45%減少したという報告があります(4)。バングラデシュでも村規模でランダム化比較試験をおこなったところ、マスク着用により新規感染が減ると分かったそうですが、こちらはまだ論文化されていません。

不織布マスクの普及が重要

不織布マスクは洗い替えができないため、使用量が多くなります。そのため、布マスクやウレタンマスクで妥協している家庭もまだまだ多いと思います。しかし、布マスクやウレタンマスクは、不織布マスクよりも予防効果が低いことから日常的な使用は推奨されません(図2および動画)(5)。

図2. マスクやフェイスシールドの効果(参考資料5より引用)
図2. マスクやフェイスシールドの効果(参考資料5より引用)

動画. マスク等の効果について(内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室)

ソーシャルディスタンスがとりにくい環境下では、マスク着用は感染リスクを減らす強力な武器になります(6)。そのため、家庭の経済的負担を軽減するべく、最も効果的な不織布マスクを子ども用に無償提供できないだろうかと思います。

マスク反対運動の歴史と着用緩和の議論

アメリカでは、共和党が強いフロリダ州などで「子どもに対するマスク着用義務化は児童虐待だ」というプラカードを掲げたデモ運動まで行われています。日本でも、子どもに対する安全性の懸念から、反マスク運動が散発的に行われています。

過去、ペストやSARS(重症急性呼吸器症候群)の流行時にも反マスク運動が行われたことがあり、マスクの推奨が出されるたび、一定数の反対派が出てくる歴史があるようです(図3)(7)。

図3.マスク反対運動の歴史(参考資料7より引用)
図3.マスク反対運動の歴史(参考資料7より引用)

諸外国を圧倒するペースで国内の新型コロナワクチン接種が進んでおり、いつかマスクが外せるようになるのでは・・・と期待を持っている人も多いでしょう。かく言う私も、そう願っています。

今後、新型コロナ対策が進んでくると、どこかの時点でマスク着用を緩和しようという話が出てくると思います。マスクに対して色々な考えを持っている人がいるため、特に過渡期においては、国民に軋轢を生まないよう政府にうまく舵取りしていただきたいと思います。

(参考資料)

(1) 文部科学省初等中等教育局健康教育・食育課. 小学校、中学校及び高等学校等における新学期に向けた新型コロナウイルス感染症対策の徹底等について(URL:https://www.mext.go.jp/content/20210820-mxt_kouhou01-000007004_1.pdf

(2) Jehn M, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. ePub: 24 September 2021. DOI: http://dx.doi.org/10.15585/mmwr.mm7039e1

(3) Budzyn SE, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. ePub: 24 September 2021. DOI: http://dx.doi.org/10.15585/mmwr.mm7039e3

(4) Mitze T, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2020 Dec 22;117(51):32293-32301.

(5) 国立大学法人豊橋技術科学大学 Press Release(URL:https://www.tut.ac.jp/docs/201015kisyakaiken.pdf

(6) Kwon S, et al. Nat Commun. 2021 Jun 18;12(1):3737.

(7) Jones D, et al. N Engl J Med. 2021 Sep 23;385(13):1159-1161.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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