古書、捨てず「働く自信」に生かす

通りに面した場所に設置されたブックバス(撮影:育て上げネット)

古書の居場所、役割を作る

「ブックバスが長野から来てますよ。古書をお安くお買い求めいただけます」

冷たい風が吹くなかで、若者たちが道行くひとに声をかける。その声は小さく、遠くを歩くひとまで届かない。それでも道行く高齢者、若者、子どもを連れた家族がバスのなかに吸い込まれていく。

中古車を改装し、車内に書棚とベンチを取り付けたブックバスを全国に走らせるのは、古書買取・販売を手掛ける株式会社バリューブックス(長野県上田市)だ。全国から買取と寄付を希望するお客様から毎日2万冊が届く。

もし、NPOや被災地への寄付をした経験があるひとにとっては「チャリボン」という名称の方が知られているかもしれない。古書の買取金額をチャリボンに登録しているNPOなどに寄付ができる仕組みだ。開始から約7年で、累計4億2千万円を超える寄付実績がある。

「本屋が変われば、世界が変わる」を掲げ、10年経営してきたバリューブックス社の大きな課題のひとつが、「行先の見つからない書籍」だ。バリューブックス社に送られる古書の50%は販売することが難しく、学童保育、高齢者施設、子どもや若者を支援するNPOなどに寄贈するBook Gift Projectなどを通じて用途を拡張しているが、少なからず古紙リサイクルに回している状態だ。バリューブックス社は古書が次の居場所を見つけること、新たな役割を作ることにチャレンジし続けている。

望むのは「働く自信」

人材採用難が叫ばれるようになっている。無業の若者を支援する認定NPO法人育て上げネットにも、毎月のように企業の採用担当者から連絡がある。目的は自社で採用したい若者と出会うためだ。

法人を設立したのは2004年5月。当時、「ニート」という言葉が社会に広がった。働く意欲がない、怠けているといったレッテルが貼られるなか、支援団体の課題は職場体験やインターンシップ、採用を考える企業を探すことであった。そう考えると、企業からオファーが来る現状は社会の変化を感じざるを得ない。

しかし、企業側が若者の採用に、それが支援団体を活用する若者でも、積極的になる一方、簡単にマッチングが成立するわけではない。就職に限らず、「働く」に至るまで、若者自身が解決したい個別の課題があるからだ。

支援団体のプログラムを活用するにあたって、その来所目的を『若年無業者白書 - その実態と社会経済構造分析2012-2013』で調べた。

参考:なにがきっかけで若年無業者になるのか~支援期間へ来所する目的は「働く自信をつけたい」が5割と最多~ (育て上げリサーチ

若年無業者非求職型の来所目的(出典:若年無業者白書)
若年無業者非求職型の来所目的(出典:若年無業者白書)

類型ごとに差異はあるが、これから「働く」を考える若者にとって、支援団体に求めるのは「働く自信をつける」ことである。この抽象的で、個人によって何が自信につながるのかが異なることを、少しでも実現することが、彼らが仕事とつながるための重要ポイントだと考えている。

職業体験としてのブックバス

車内は温かみのある空間で、気になった書籍をベンチに座って読むことができる(撮影:育て上げネット)
車内は温かみのある空間で、気になった書籍をベンチに座って読むことができる(撮影:育て上げネット)

今回、ブックバスには約1,000冊の、次の居場所を探している古書が積まれた。店舗を開くにあたり、若者たちが行ったのは大きく三つある。

ひとつは価格設定。今回は売上を育て上げネットの活動費として寄付する形だが、バリューブックス社からは価格や販売方法についての決定を任された。もうひとつが古書販売をしていることを伝えること。そして最後にお客さまへの接客である。

接客や呼び込みなど、対人コミュニケーションを苦手とする若者は少なくない。当初、声が小さく、購入者への御礼の言葉もどこか不慣れだ。しかし、ブックバスはそこに存在するだけで目を引き、道路の反対側からそれを見つけた子どもたちが保護者を連れて渡ってきたり、通行人から「これは何ですか?」と質問が来る。

特定の書籍を購入するお客さまではないため、車内もどこかやわらかな空間で、時間の流れもゆったりと感じる。店員として積極的に声をかける必要もなく、むしろ、保護者が書籍を眺めている間、元気な子どもたちの遊び相手となり、チョークで落書きができるバスのいたるところで一緒にお絵かきしながら遊んでいた。

車両前方に座る若者は店長の役割を担った。ブックバスは落書きができる仕様となっており、子どもたちは親が選書している間、チョークを両手にバスに絵を描いていった(撮影:育て上げネット)
車両前方に座る若者は店長の役割を担った。ブックバスは落書きができる仕様となっており、子どもたちは親が選書している間、チョークを両手にバスに絵を描いていった(撮影:育て上げネット)

10時30分から13時30分までの間、突然現れたブックバスを通じて100冊を超える書籍が、次の居場所を見つけていった。そして、バリューブックス社から購入者に持ち主が移る途中、書籍は若者に小さな「働く自信」を残していった。

今回の企画を通じて、バリューブックス社の中村和義さんはこのように取り組みを振り返る。

「毎日、届く本の中でインターネットでは販売につながらない本はどうしてもたくさん出てしまうんです。でも、直接、手にしてもらうことができたら必要とされる本もたくさんある。そんな本たちを選別して必要としてくれる場所へ届けようと2010年から始めたのが『Book Gift Project』。

そんな活動の一環としていつもと同じように本をプレゼントしにいくつもりでしたが、移動式本屋のブックバスでいくことがきまっていたので、それなら、若者たちに『本屋体験』をしてもらうことができるかも!とふと思いました。

本来では、古紙リサイクルになってしまっていたかもしれない本と移動式本屋のブックバスが掛け合わさって、ある意味、本屋をそのまま貸し出すことができたんです。実際に体験してもらった姿を見たときには、こういった『ちょっとした本当の体験』が本屋だけでなく、いろいろなところでできるのであれば、自分の可能性を見つけるきっかけになるかもしれないと思いましたね。

本の可能性を絶えず探っている僕たちにとっても、新たな発見を得る機会となりお互いの学びの場となったことはとても嬉しかったです。」

閉店の際、車内で接客を担当した若者が「緊張しました・・・」と少し疲れた様子ながらも、仲間に売上報告をした。予想以上の冊数が売れたことに拍手が起こり、嬉しそうな表情をみせていた。

職場体験やインターンシップは、その機会のある場所に出向いて行うことが一般的だ。今回、彼らにとって、普段自分がいる場所に機会を運んできたブックバスだからこそ、職場体験をやってみようという一歩が踏み出せたのではないだろうか。