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フードバンク、気楽さを大切に

工藤啓認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長
子どもたちに”お腹いっぱい”を届けたい(写真:アフロ)

不定期で食材と届ける理由

ある若者は昼食にお弁当を持参し、ある若者は近くのコンビニなどに買いに行く。ランチ時間にはスタッフとともに和気あいあいと食べることもあれば、ひとりになって落ち着いて食べる若者もいる。しかし、最近は少し違った風景も出てきた。それは食材を購入し、作ったものをみんなで食べる回数が増えてきたのだ。代金はひとり200円程度でボリュームもある。

若者支援が本格的にスタートした2000年の初めころから、政府や自治体による若者支援が広がり、その動きは若者に留まらず、困窮者や子どもたちを支える事業が生まれ、各地で熱心な取り組みが行われている。それまでの若者支援は全国に点在するNPOなどが受益者負担のもとで活動をしており、公的サービスと民間サービスを併設するNPOも増えている。

当然、受益者負担型サービスはお金がかかり、コスト負担可能な若者や家族が中心となり、比較的自由度の高い機会が提供される。一方、行政と協働した支援は受益者に負担を求めることはなく(交通費等、実費は利用者)、委託元である行政が作成した仕様書と予算使途の範囲内での機会の提供となる。

育て上げネットも受益者負担型と行政協働型を併設してきたが、さまざまな企業や個人のご寄附などによって、従来の受益者負担型のサービスを一定の条件のもと無償で使っていただけるようになり、交通費など実費負担分も提供させていただけるようになった。数に限りはあるが、交通費などをこちらが負担することにより、これまでリーチできなかった若者にも出会うことが可能となった。

そのような流れのなかで新たな課題にぶつかった。前述の「食事」だ。同じ空間にお弁当持参、店での購入、その他の若者が混在するなかで、誰もが低価格で昼食が取れるよう、材料費をみんなで拠出する割り勘、シェアランチが自然発生的に生まれた。しかし、できるだけ安くしようとすれば自ずと購入可能な食材も限られてくる。頻度は多くなくとも一回の食事でお腹いっぱいになってほしい。誰もがそう考えていた。

そこに手を差し伸べてくれたのが昨年9月に法人化したNPO法人フードバンクTAMAである。日頃の御礼を兼ねてフードバンクTAMAの皆様をお伺いさせていただいた。今回は食材調達から、食に困っている方々に届けるまでを、青木副理事長、安達理事、芝田事務局長(以下TAMA)に詳しくお聞きすることができた。

芝田事務局長(左)、青木副理事長(右から二番目)、安達副理事長(右)
芝田事務局長(左)、青木副理事長(右から二番目)、安達副理事長(右)

いまやフードバンクという言葉も市民権を得たが、育て上げネットを利用する若者、学習支援に来る子どもたちのため、お米などの食材を不定期で届けてくれる。不定期というのは、例えば、こちらでお米がなくなりそうになったら連絡をすると、スタッフの方々が届けてくれるという意味だ。

八王子市と日野市を拠点とするフードバンクTAMAは、食材提供エリアを八王子市、立川市、日野市、昭島市に限定し、市役所や社会福祉協議会、NPOや市民活動とパートナーシップを結び、活動している。パートナーは、児童養護施設、自立支援施設、シェルター、無料学習塾や子ども食堂などとなっている。

TAMA:「25近い団体と連携をしていますが、不定期にしているのは各団体から時期や希望食品というニーズを聞いて、ほしいものを届けるためです。余っているものを届けることはしません。また、基本的には自分たちで直接届けることを大切にしています。」

営業、しぶとく営業

立ち上げの経緯を聞いてみると、NPO立ち上げに際して、他所のフードバンクで活動をしていたり、経済的に苦しいひとたちを支えていたメンバーはいないと言う。

TAMA:「きっかけは私(芝田さん)が、日野市で行われた子どもの貧困に関するシンポジウムに参加したことです。会場は超満員で、子どもの貧困とはこんなに切羽詰まっているのか。そういう事情を初めて知りました。自分も大変な時代がありましたが、60歳を越えて何かしなければいけないと思ったのです。」

設立メンバーは、芝田さんの他、ビルオーナーや会社代表、民生委員をされている方々など地元でそれぞれ活動しているひとたちに声をかけ、13名が集まった。全員がボランティアで、“できる範囲”の活動をしている。ひとつの興味として、これだけフードバンクが知られてくると、企業や個人など向こうから食料が届くものなのかを聞いてみた。

TAMA:「手分けして営業をかけまくりました。そして全部断られて(笑)それでもしぶとくやっていく。みんな人脈が豊富なので、伝手を使って地道に営業、営業ですよ。向こうから話が来ることなんて(最初は)ありませんよ。」

地道な営業が実を結び、地元企業などから食材が集まり始めた。複数の大手企業も手を挙げた。ある大手企業はフードドライブを実施している。フードドライブとは、家庭などで使わない食材、例えば缶詰や調味料など、を持ちより必要とされる場所/個人に提供する活動だ。それなりの規模の食材をいただくという。

TAMA:「大手企業さまからは、同じ商品や食材を多量にいただくことが少なくありません。ただ、私たちの理念は、必要なものをお届けすることです。もともといただく食料は消費期限などが近いものもありますので、そういったものは連携する別のフードバンクとシェアしています。逆に、遠方のフードバンクから私たちのところには届かない食料をいただくこともあります。お互い足りないものを調達し合っています。」

大切にしていること

昨年9月にNPO法人化したが専従職員は置いていない。そこには創業メンバーが大切にしている経営コンセプトがある。先ほど触れたが、フードバンクTAMAの活動エリアは八王子、立川、日野、昭島の四市となっている。実際にはその活動を知り、自分たちのエリアにも来てもらえないだろうかという声は多い。そんなときには広いエリアをカバーしている他のフードバンクなどを紹介するようにしていると言う。

TAMA:「創業メンバーの半数が60代で、それぞれがボランティアで活動しています。5年後くらいには若い世代に引き継いでいこうと考えています。新しい世代は新しい世代の理念や考え方でやっていってもらいたいと思っています。しかし、いま大切にしているのは“気楽さ”を大切にし、食料寄付のお申し出があれば可能な限り取りに伺う。届けるときにも直接届ける。ここを崩さないよう活動エリアを限定し、むやみに拡大しないようにしています。」

現在のところ25団体ほどのパートナーに食料を渡しているということだが、フードバンクの活動が地域に知られれば、困っている個人の方から食材を切望されることはないのかと質問した。

TAMA:「たくさんあります。電話やメールもいただきます。しかし、直接個人への提供は原則しないといまは決めていますので、丁重にお断りをさせていただき、パートナーである行政窓口や社会福祉協議会をご紹介しています。理由は、私たちには個人情報を管理したり、その方の“困り方”を推し量るベースがないからです。ある人には支援をして、ある人には支援をしない。誰に何をどの分量お渡しするかも決められませんし、不公平になってもいけませんので、パートナーのみなさまにそこはお願いをしているんです。」

フードバンクTAMAがチャレンジしたいこと

気楽さを大切にし、エリアを決め、法人や団体に届けることを非常に大切にしているのも、活動を維持させるため法人のあるべき姿について議論を積み上げているからだ。ある自治体から直接的な活動とは異なる案件と予算の提案も断った。

TAMA:「何度も繰り返しますが、自分たちはボランティアでやっていますので、毎月の報告や定期的な会議や連絡調整を必要とする案件は、誰か専従でかかわらないといけなくなります。いまはそこに手を出そうと思っていませんので、そのお申し出も丁重にお断りしました。」

そうはいっても、たくさんの「食事」に困っている人がいることは知っている。すべての人をお腹いっぱいにしてあげたい。その想いは常に持たれている。無暗な拡大や専従者を配置することは考えていないが、それでもチャレンジしたいことが二つある。

ひとつは、もう少し安定的に食料が調達できて、それぞれのニーズに通年でより応えられるようにしていくことだ。そのため、フードドライブを年に一回実施してくれる企業を探している。

TAMA:「いま、フードドライブは二つの企業が実施してくださっています。ある企業は12月で、もうひとつの企業が2月です。特にいまは6月か7月に実施してくださる企業を探しています。夏休みは子どもたちの給食がなくなります。この時期に食料が調達できると、夏休みに必要なものを届けることができるからです。3~4か月に一度、四つのフードドライブができれば、いまの活動範囲をカバーすることができます。」

もうひとつチャレンジしたいことがあると言う。いまは無料塾などと連携して、そこに通う子どもたちに食料を届けているが、どうしても通塾している子どもだけにしか届かない。育ち盛りのいる子どもたちを持つご家庭に食料を届けたい。

TAMA:「今後、いくつかの学校と交渉をしていく予定です。給食がなくなる時期はもちろん、日常的に苦しいご家庭がわかれば、何らかの形でそこに食品を届けたいんです。届けるにあたっては、一般的な宅配業者を使いたいと考えています。直接届けることにこだわっていますが、少なくないご家庭が周囲の目を気にされると思うんです。でも、宅配業者であれば受け取ってもらいやすくなると思うんです。親子間のコミュニケーションにも配慮できるはずです。」

もう少し突っ込んで聞いてみたところ、このチャレンジに必要な資金は20万円から50万円くらいだと見積もられている。幅があるのは世帯数がどの程度になるかわからないからだ。いくつか民間助成金などにもチャレンジしようとしているが、採択されるかはわからない(既にひとつ不採択だった)。

立ち上げたばかりで、食品調達と配送でメンバーの時間は一杯いっぱいだと言う。寄付を集めるにしても、経験もなければ、そこまで時間を割くことは難しい。それでもお腹を空かせた子どもたちをお腹いっぱいにしたい。苦しいご家庭を支えたいという気持ちは変わらない。

NPO法人フードバンクTAMAでは広く寄付を呼び掛けている。食べ物に困らない生活、子どもたちをお腹いっぱいにしたいという彼らのチャレンジを応援したい。

ゆうちょ銀行

記号:10150

番号 :91463931

口座名義:特定非営利活動法人フードバンクTAMA

三井住友銀行

支店:多摩支店(店番号688)

口座番号:6909337

口座名義:特定非営利活動法人フードバンクTAMA

※個人や企業に限らず、余剰食品のご寄附も受け付けているそうです。特に、調味料や缶詰は大変ありがたいということでした。食品等のご寄附は直接フードバンクTAMA事務局にお問合せください。

認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長

1977年、東京都生まれ。成城大学中退後、渡米。Bellevue Community Colleage卒業。「すべての若者が社会的所属を獲得し、働くと働き続けるを実現できる社会」を目指し、2004年NPO法人育て上げネット設立、現在に至る。内閣府、厚労省、文科省など委員歴任。著書に『NPOで働く』(東洋経済新報社)、『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『若年無業者白書-その実態と社会経済構造分析』(バリューブックス)『無業社会-働くことができない若者たちの未来』(朝日新書)など。

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