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金融庁はなぜ年金不安の“地雷”を踏んだのか=行政方針転換が仇に

窪園博俊時事通信社 解説委員
金融機関を監視・監督する金融庁。なぜ年金問題に触れたのか。(写真:西村尚己/アフロ)

 公的年金では老後資金が不足することを指摘した金融庁の報告書が国会を揺さぶっている。麻生太郎金融相は14日も釈明に追われた。一方、野党は引き続き年金問題で与党を追及する構えだ。立場がないのは、政治的な炎上ネタを投下してしまった金融庁で、幹部が陳謝する事態に追い込まれた。

 さて、今回の騒動を受け、金融に少し詳しい読者は首を傾げているのではなかろうか。「そもそも金融機関の不正行為などを見張るはずの金融庁がなぜ畑違いの年金問題に関わっているのか」と。そうした疑問を持つのは正しい。ここでは金融庁が所管外の案件でトラブルに陥った経緯を考察したい。

映画・ドラマで登場する金融庁の人物は厳しい「検査官」だが…

 銀行員を描いた映画・ドラマでは、しばしば金融庁の人物が登場する。銀行の業務を厳しく監視・監督する「検査官」と呼ばれる役柄であり、立ち入り検査で業務上の不備、不正融資などを容赦なく摘発。銀行員らが戦々恐々とする対象として描かれる。まさに、これこそが金融庁のイメージだ。

 ところが、銀行界を恫喝するイメージだった金融庁はこの数年ですっかり変わった。厳しい検査で銀行経営を追い詰め、場合によっては合併まで追い込んでいた金融庁はもはや過去の姿で、最近は別物。簡単に言えば、「強面の検査官が金融コンサルタント的な人物に変貌しようとしている」(大手邦銀)とされる。

不良債権問題の終結で、銀行恫喝はもはや時代遅れに

 銀行を恫喝する「検査官」が時代遅れとなったのは、不良債権問題が終結したからだ。バブル崩壊後、長らく日本経済の重しとなった不良債権問題だが、銀行再編も進んだことでおおむね2000年代に片付いた。だからといって、金融庁として手持無沙汰となるわけにはいかない。

 不良債権問題との戦いで組織が肥大化した、という事情もあるからだ。1990年代後半、旧大蔵省銀行局が独立する形で発足した直後の数年は1000人未満だったが、中途採用も活発に行い、最近では1500人程度まで増えている。最大の問題だった不良債権が片付いたからといって急に減らすのは難しい。

不良債権処理後の新たな課題が「家計の資産形成」

 そこで金融庁は不良債権問題を克服した後の新たなミッション探しに動いた。この変化を分かりやすく表現したのが「処分庁から育成庁へ」というスローガンだ。麻生金融相が記者会見や国会答弁などでこのスローガンを標榜していたが、要は金融機関を育成するコンサルティングのような存在を目指した。

 その際、新たな課題にしたのが「家計の安定的な資産形成」だった。これは日本の家計資産が預貯金に偏重し、欧米のように株式・投信比率を高めるには、政策的な後押しが必要と判断したからだ。「変革期における金融サービスの向上にむけて」では、政策課題の2番目に資産形成が位置付けられる。

余計なお世話が年金不安の“地雷”を踏むことに

 この「家計の安定的な資産形成」の延長線で登場したのが、今回の世間を騒がせた老後資金の話である。金融庁としては、年金資金の不足を前提に早めの資産形成を訴えたかったのに、前段の部分がクローズアップされ、結果的に年金不安を煽ってしまった。

 まとめると、不良債権問題を克服した金融庁が行政方針を転換させ、新たな課題とした「家計の資産形成の推進」が、意図せざる結果だが、“余計なお節介”となって年金不安の“地雷”を踏むことになった。前向きな取り組みはいいにしても、方針転換の方向性や情報発信の在り方などもう少し吟味すべきであっただろう。

時事通信社 解説委員

1989年入社、外国経済部、ロンドン特派員、経済部などを経て現職。1997年から日銀記者クラブに所属して金融政策や市場動向、金融経済の動きを取材しています。金融政策、市場動向の背景などをなるべくわかりやすく解説していきます。言うまでもなく、こちらで書く内容は個人的な見解に基づくものです。よろしくお願いします。

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