日銀への評価の疑問点
日銀総裁に植田和男氏が就任して9日で1年となる。金融政策運営についての評価をエコノミストに聞いたところ、市場の混乱なく政策修正を進めた手腕に高い評価が集まった。と8日に日本経済新聞が伝えた。
日本経済新聞が植田氏の就任以来の評価をエコノミスト16人に100点満点で聞いた。回答者の平均は77点だった。最高は90点、最低は40点で、中央値は80点だったそうである。
高評価の理由として多くのエコノミストが挙げたのが、異次元緩和策の解除を「市場の大きな混乱なくやりきった」点だとの指摘もあったが、これについては疑問を感じる面がある。
確かに植田氏が2023年4月に就任後、日銀が2023年7月と10月に2回、イールドカーブ・コントロールの柔軟化に踏み切った際、債券市場はそれほど動揺は示さなかった。
オーストラリア準備銀行が2020年3月から3年物国債の利回りを抑えるYCCを実施していたが、物価上昇の加速で金利は急騰し、市場に追い込まれる形で撤廃した。
豪中銀幹部からは「日銀は上手に形骸化させた」との評価が日銀関係者に伝えられたそうだが、豪中銀幹部は日本の債券市場で何が起きていたのかを知らなかったのであろうか。
植田総裁の就任前ではあるが、日本でも物価上昇の加速で長期金利が上昇し、日銀はそれに対抗するかのように毎営業日連続での指値オペを実施。10年債の4銘柄を発行額以上買いあげるという、前代未聞のことが起きていたのである。
10年債利回りはショートカバーによって急低下するなど、物価に応じた長期金利どころでなくなっていたのである。
日本の債券市場を機能不全とさせ、仕掛けていたヘッジファンドは撤退せざるを得なくなった。ただ、これを持って日銀が勝利したとはいえないであろう。
イングランド銀行はジョージ・ソロスなどの仕掛に屈したとされている。日銀も同様のアタックを無理矢理抑え込んだが、結果としてイールドカーブ・コントロールの柔軟化を行わざるを得なくなったとの見方もできよう。
加えて円安に対して何もしない日銀、とされることを避ける意味でも、イールドカーブ・コントロールの柔軟化を行わざるを得なかったとの側面もある。
確かに植田氏の就任後からであれば、そのような評価もできるのかもしれない。黒田氏のときに比べてより柔軟化していたとは思う。
ただ、植田氏就任以前の債券市場の混乱を見る限りにおいて、素直にそれを評価できるとはいえないようにも思うのであるが。