金融政策の修正に踏み切るのは時期尚早ですか
昨年来、物価上昇等を受けて、日本銀行は金融政策の修正を図るべきタイミングに来ているとの声が聞かれます。たしかに、物価が勢いを伴って上昇し、予想物価上昇率も緩やかに高まってきたこと等を踏まえると、「デフレマインド」あるいは「物価は上がらない」という物価観に変化が生じつつあると私は考えています。その意味で、以前と比較すれば、「物価安定の目標」の実現に近づきつつあると思われますが、これまでお話しした物価のメインシナリオは大きな不確実性を伴っており、まだ金融政策の修正に踏み切るのは時期尚早と考えられます。
どういう訳か、このタイミングで日本銀行の安達審議委員と野口審議委員による講演が21日、22日と連続して予定されていた。両者ともいわゆるリフレ派であり、かつて4人いたリフレ派だがいまはこの2人だけとなった。
上記はそのうちの安達審議委員の講演要旨にあったものである。
「デフレマインド」あるいは「物価は上がらない」という物価観に変化が生じつつあると私は考えていますと、ややリフレ派らしからぬ発言をしていたようだが、デフレではなくデフレマインドとしているあたりに「工夫」もみられる。
「物価安定の目標」の実現に近づきつつあると思われますとも言及していたが、物価のメインシナリオは大きな不確実性を伴っており、まだ金融政策の修正に踏み切るのは時期尚早と考えられますとしている。ビハインド・ザ・カーブと言う言葉があるのをご存じないようだ。
物価のメインシナリオに限らず、世の中は不確実性にあふれている。だからこそ遠い先の予測がより難しくなっている。それにもかかわらず足元の物価上昇より、先行きの物価下落予想を基に、金融政策の修正に踏み切るのは時期尚早と考えているのは矛盾がありすぎる。
それ以前に非常に説明不足なところがある。「金融政策の修正」というのが何を指しているのかという点である。FRBやECBのように連続しての大幅利上げとかであれば、慎重にする必要性もないとはいえない。しかし、今の日銀はある意味、究極の実験的な金融緩和策を行っており、次に動くとしても追加緩和しか考えていないことまで表明し続けている。
そんなガチガチの金融緩和策を、物価高にあって(5月の全国CPIは前年同月比プラス3.2%)少しでも緩めて、柔軟性を回復させようという気も今の日銀は持っていない。いまさらではあるが、これは決して正常な中央銀行の金融政策とはいえないであろう。