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日銀の金融緩和策の点検・検証について。非常時緩和を普通の緩和策にすら戻さない(戻せない?)理由とは

久保田博幸金融アナリスト
(写真:イメージマート)

 日本銀行が四半世紀にわたる長期的な視点から、金融緩和策の点検・検証を実施する方向で調整に入ったことが分かったと23日に産経新聞が報じた。

 早ければ27、28日に予定する植田和男総裁を迎えて最初の金融政策決定会合から議論を始めるとしている。

 金融緩和策の点検・検証を実施することは必要であるが、結論有りきとならないか疑問がある。

 この記事では2013年4月には黒田東彦前総裁が主導し「異次元の金融緩和」に移行したが、今も2%の物価上昇目標を安定的に実現できていないとしている。

 この前提そのものにも大きな疑問がある。

 特に2022年に入り、世界的な物価上昇と金利の上昇によって、日銀の異次元緩和の異質さが際だってきた。日本でもやや遅れて物価に上昇圧力が掛かった。しかし、日銀はそれに対し、コストプッシュであり、賃金上昇は伴わないことで、物価目標は未達と結論づけた。

 実際の消費者物価指数(除く生鮮)が一時前年同月比4%と日銀の物価目標の2%の倍となっても、2%を超える物価上昇が2022年4月分から1年に及んでも、日銀の物価目標である消費者物価指数(除く生鮮)は2%を超えていないとしている。

 にもかかわらず、非常時緩和を普通の緩和策にすら戻さないというのはどういうことであろうか。戻さないための工夫として10年カレントを発行額以上を日銀が購入するという事態も発生した。財政ファイナンスに映るだけでなく、10年カレントの市場機能を喪失させた。

 政策の一貫性も必要なことも理解できなくはない。しかし、前任者の政策が本当に正しいものであったのか。もし戻したくないのではなく戻せないとしたら、これはこれで日本が危機的状況にあるということを示すものではないのか。

 日銀も欧米のように積極的に利上げを進めろということではなく、非常時対応ではなく普通の金融緩和に戻すことすらどうしてそれほどためらうのか。

 債券市場の機能低下や日銀の国債保有額の増加は見えないリスクを増大させている。こちらの検証も必要であろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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