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長期金利が消失しかねない事態に。10年新発国債を発行額以上買い上げた日銀。財政ファイナンスへの懸念も

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 日銀が2日に公表した「日本銀行が保有する国債の銘柄別残高」によると10月末の10年国債の新発債368回の保有額が3兆1141億円となっていた。

 10年国債の発行にあたって、ひとつの銘柄(回号)は3か月毎に入れ替わるような格好となっている。367回は7月から9月まで3回入札によって発行されていた。

 368回は10月から12月まで発行される予定である。つまり10月末の368回債の残高は10月4日に入札され、5日に発行されたものだけとなる。

 その発行残高は、QUICKによると2兆8665億円となっていた(2日付日本経済新聞)。

 これをみておかしいことに気がつくと思われる。日銀は10月の毎営業日連続指し値オペによって、10月5日に発行された10年国債368回をその発行額以上を買い入れていたのである。

 これにはカラクリがある。たとえ日銀に368回を発行額以上売却したとしても、国債補完供給オペやレポなどの何らかの手段で、11月1日に入札された10年368回の発行日である11月2日まで368回を借り入れることができれば、それは可能となる。

 11月1日に入札される10年国債も368回であり、その発行日の2日以降であれば発行残高は一気に倍となる。

 だから大丈夫、とか言う問題ではない。

 10年国債の新発債を発行額を超えて、日銀が買い入れているという事実。これは金融政策の行き過ぎに止まらず、財政ファイナンスそのものではなかろうか。

 しかも日銀が発行額以上の10年新発債を買い入れたということは、流動する368回がなくなっていたことを示す。日本の長期金利とは新発10年国債の利回りである。その新発10年国債が実質的に市場から消えていたとなれば、日本の長期金利がその間、消失しかねない事態となる。

 日本でも物価が上昇局面となり、海外の国債利回りの上昇も受けて、本来であれば日本国債の利回りも素直に上昇していたはずである。しかし、物価目標達成のためと称して(異次元緩和で物価が上がらないことは9年も掛けて日銀が最も理解しているはず)、頑として国債の利回り上昇を許さず、10年新発債と債券先物と連動するチーペストを連続無制限の指し値買入オペによって封じるという手段を日銀は取った。

 しかし、それが市場原理に反するどころか、債券市場そのものを機能不全に追い込み、日本の債券市場を崩壊・消失させかねない事態となっていることに対し、日銀はどう責任を取るというのであろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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