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英国で復活した債券自警団、自警団を拘束中の日本

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 27日の欧州の国債はこれまで見たことのないような利回りの上昇(価格の下落)となった。2010年頃からの欧州の信用危機の際にも、欧州の国債利回りの上昇はあったが、これはイタリアなど周辺国主体のものであった。今回は総じて国債が大きく売られていたのである。

 この原因のひとつが英国にあった。英国のトラス新政権が1972年以来の大規模な減税を打ち出したことにより、英国債が動揺を示した。

 イングランド銀行は22日に0.5%の利上げ決定を発表し、保有する英国債の市場での売却を始めると発表した。これを受けて英国債は利回りが大きく上昇していたが、トラス政権の1972年以来の大型減税と国債増発を受けて、火に油が注がれた格好となったのである。

 物価の高騰を受けて、イングランド銀行が積極的な金融引き締めによって抑え込みに掛かっている際に、物価の上昇要因となるとともに、国債増発要因となる政策を打ち出したことで、英国債の利回りにさらなる上昇圧力が加わった。

 英国の財政悪化への懸念によって、外為市場ではポンドが下落した。英国債とポンドの下落は、英国への信認低下との見方もできる。政府の財政への懸念を意識した動きでもあり、英国の国債は炭鉱のカナリア機能をしっかり示したともいえる。

 これを「債券自警団」が戻ってきたと表現する向きもあった。

 1980年代に「債券自警団」という用語を生み出したエコノミストのエド・ヤルデニ氏は、「The Bond Vigilantes: They’re Baaaack!(債券自警団:彼らが戻ってきた!)」と題するリポートで、新型コロナウイルス禍で講じられた大規模な金融・財政刺激策をきっかけに数十年間見られなかった力が生じ、中央銀行が今年に入り積極的な引き締めで対応せざるを得なくなっていると分析した(27日付ブルームバーグ)。

 「中銀が大金融抑圧(グレート・ファイナンシャル・リプレッション)をやめることを余儀なくされた途端に、債券自警団が放たれることになった」とヤルデニ氏は論じた。

 中央銀行による積極的な引き締めを行っている最中に、積極的な財政政策を講じると、それは物価の上昇要因ともなるため、さらなる国債利回りの上昇を招くことになる。

 今度はイタリアでも警戒が強まってきている。イタリア国債も急速に利回りが上昇(価格が下落)してきている。25日の総選挙で右派連合が勝利したことを受けたイタリア国債の利回り上昇である。

 26日にECBのラガルド総裁は、イタリアの次期政権に関する質問に対し、国債利回りの急上昇が加盟各国の「政策ミス」によるものである場合、金利上昇抑制に向けた新たな債券購入スキームは発動しない方針を示した。

 本来、国債の利回りは物価や経済動向、さらにその国の財政状況などによって利回りが決定される。それが素直に反映されれば、ややオーバーシュートがあったとしても、今回のような極端な動きで警告を発する。つまり「債券自警団」が活躍することになる。

 「債券自警団」を無理矢理に抑え込んでいる国があるようだが、それは警告を見せないための動きともいえよう。これによって見えないところでエネルギーが蓄積しつつある。早めに「債券自警団」を解放しないと、あとあと爆発を招く懸念すらある。

 と28日に書いていたのだが、英国で復活した債券自警団に対し、自警団を拘束中の日銀のような対応を今度はイングランド銀行が取ってきた。それはどうしてなのか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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