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日本の債券市場が消失しかねない事態に

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 日本の債券市場の流動性を支えているものが二つある。そのひとつが大阪取引所に上場している長期国債先物、通称「債券先物」である。もうひとつが日本相互証券で取引されている10年国債の新発債である。

 日本の債券市場の流れを見る上で欠かせないものとなっているのが債券先物となる。海外投資家のシェアも大きく、一定量の商いがあり、日本の債券市場の居所を知る上でも必要不可欠なものとなっている。

 現物債のなかでのベンチマークとなっているのが、10年国債の新発債である。その利回りが日本の長期金利とされている。

 現在、この日本の債券市場を支えている債券先物と10年国債の新発債の取引に問題が生じつつある。いずれも日銀が金融政策と称して、連続無制限の指し値オペで吸い上げており、流動性が枯渇するリスクが出てきているのである。

 日銀は金利を抑え込むために大量の国債買いを余儀なくされている。6月の購入額はすでに14.8兆円と2014年11月の11.1兆円を抜いて最大となった。月末には15.9兆円に達する見通し(28日付日本経済新聞)。

 日銀の買い入れは特定の国債に集中している。長期金利の指標となる10年新発債は87.6%を日銀が抱え込んでいる。

 債券先物が海外ヘッジファンドの仕掛け的な動きによって価格が大きく下落した。これを受けて日銀はチーペストと呼ばれる10年国債の残存7年の356回債も無制限の指し値オペを実施した。

 356回のほとんどを日銀が所有することにより、チーペストによる現渡しができなくなるリスクが生じる。むろん残存7年以上であればどの国債でも良いが最割安銘柄は356回となる。

 それとともに、海外投資家の仕掛け的な動きとチーペストにも日銀が介入したことにより、債券先物と現物債の価格の連動性が失われた。その後、多少回復しつつあるとはいえ、完全な回復は期待できない。債券先物がヘッジに使えなくなると国債入札への支障が出るだけでなく、通常の取引でもヘッジとして先物が使えなくなるリスクがある。

 すでに日銀は短期国債を除く国債の発行残高は1021.1兆円のうち514.9兆円(20日時点、額面べース)を保有する。日銀の保有割合は50.4%と最大となった。

 これだけでも日本の債券市場の流動性を失わせることになる。そこにベンチマークの2つを指し値オペで吸い上げるとなれば、日銀は日本の債券市場を消失させようとしているようにみえる。

 指し値オペなどにより6月の1週間で6月の利付国債発行分の国債を買い入れた日銀でもあり、財政ファイナンスを行っているようにも映る。このような状況を続けることでいったい日銀は何をしたいのであろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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