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日銀対ヘッジファンドの主戦場、債券先物取引が大荒れの展開に、なにが起きていたのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 日銀は15日の10時10分に10年債の新発債の3銘柄の指し値オペに加え、356回の指し値オペをあらたに加えた。これについては事前の告知はなく、いきなりだった。その後日銀は「チーペスト銘柄の連続指値オペの実施について」という告知を出した。

 10年利付国債の356回を16、17日に無制限で0.25%で買い入れるというものである。

 日銀金融市場局は、きょう午前に通告した10年債の356回債を対象にした指し値オペに関し「長期国債先物に強い売り圧力がみられるなか、チーペスト銘柄の残存期間である7年ゾーンに上昇圧力が生じ、長期金利の変動許容幅の上限を超える恐れがあることなどを踏まえ、10年物国債金利の操作目標をゼロ%程度とする金融市場調節方針をしっかり実現するよう公表した」とコメントした(15日付ロイター)。

 14日に10年国債利回りはカレント3銘柄を除き、残存7年以上の銘柄の利回りは総じて0.3%台となっていた。長期金利の変動許容幅の上限を超えていたことで、これを356回だけの買い入れで抑えに来たようにみえる。

 しかし、実際には債券先物9月限のチーペスト銘柄の356回を狙い撃ちして、ヘッジファンドなどによる債券先物の売り攻撃から反撃に転じようという策であった。これを受けて債券先物は147円63銭まで値を戻しプラスに転じた。寄り付きは147円08銭であった。

 しかし、債券先物は147円63銭から今度は急落した。東京時間の米債は大きく動いておらず、現物債の動きも鈍く、債券先物単独の動きとなっていた。ヘッジファンドの逆襲である。

 債券先物は現引き現渡しがあり、理論理屈上はチーペストと呼ばれる受け渡し適格銘柄の最も割安な銘柄と同水準となる。受け渡し適格銘柄は残存7年以上の10年国債であり、今回はそのなかで残存7年に近い356回が9月限の理論上のチーペスト(最割安銘柄)となっていた。

 その銘柄だけ0.25%に誘導しようとしても、356回そのものの商いは極めて少ない。しかも356回を0.25%に押さえ付けてもチーペストが変わるだけとなる。つまり完全に押さえ付けるには残存7年以上の10年国債すべてで指し値オペを入れることになりかねない。

 それ以前に、チーペストに連動するというのは絶対ではない。債券先物の居所はどのあたりなのかと理論価格を確認するために利用しているものである。現引き現渡しとなれば、チーペストを渡すのが最も損失が少ないことで絡んではくる。しかし、債券先物の売買最終日を迎えるまでは差金決済もできることで、先物が常にチーペストに連動しなければならないということではない。

 そのあたりが理解されたようで、再びヘッジファンドが売り攻勢を強め、今度は債券先物は2円以上も下落し、債券先物9月限は2円1銭安の145円58銭の安値引けとなったのである。

 日銀がしたいことは理解できなくもないが、それで債券先物を買い戻させられると思ったのは、少し思慮が足りなかったのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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