日銀の金融政策の正常化は日本の財政危機を招くのか
日銀が金融政策の正常化に踏み切れない理由のひとつに、財政への影響が指摘されることがある。1000兆円を超す日本国債の残高に対し、国債の利回りが少しでも上昇すると日本の財政が悪化してしまうことで利上げはできない、してはいけないということであろうか。
日銀の正常化によって日本の財政が破綻してしまうというのであれば、これもまた円安要因、つまり円売り要因となる。それほど切羽詰まった状況であるのであれば、今後、本当の意味での悪い円安、円売りを加速しかねない。
もし日米金利差によって円安が進行しているのであれば、日銀はFRBと同様のペースで利上げをしなければ国債利回りの格差は縮小せず、円安は続くのではとの見方もある。しかし、何も同じペースにする必要もない。あくまで正常化の可能性を示すだけでも円安抑制となろう。
そして、日銀が金融政策を正常化しても、それがすなわち財政危機に繋がるわけではない。
4月17日の日本経済新聞の特集「円安再考」という記事の「財政の金融 蜜月の代償」のなかで次のような表記があった。
「財務省の試算では金利が1%上昇した場合、25年度の元利払いの負担は想定より3.7兆円増える。『それほどの資金をどうひねり出すのか』(財務省幹部)」(17日付日本経済新聞)
これは記事の文字数の制約もあってか実はかなり説明不足である。この説明では現在の長期金利から1%上昇すると、3.7兆円の元利金支払いが増加すると読めてしまう。しかしこれはそうではない。
ここでの財務省の試算というのは「令和4年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」であると思われる。
「令和4年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」 https://www.mof.go.jp/policy/budget/topics/outlook/sy0401a.html
このなかの「[参考] 名目経済成長率及び金利が変化した場合の試算([試算-1]の前提等を基に算出)」をみていただきたい。「令和5(2023)年度以降金利が変化した場合の国債費の増減額」のなかで、令和7年度(2025年度)で金利が+1%のところが、+3.7(兆円)という数字となっている。
ここではいくつか注意すべきことがある。まずは、金利が+1%というところの元の金利とは何かである。これはいまの足下の長期金利の0.2%あたりを想定したものではない。
この少し上にある算出要領のなかの、国債費の試算のベースとなる令和4年度(2022年度)(予算積算金利)というものがある。それは「1.1%」となっている点に注目していただきたい。
今年度予算を組むにあたっての長期金利(10年国債の利回り)の想定は、日銀の長期金利コントロールのレンジの上限の0.25%ではなく、「1.1%」となっているのである。これは財務省が日銀のイールドカーブコントロールの解除を見越してこの数字を出しているわけではなく、あくまで過去の長期金利の動向などを鑑み、市場実勢からみてやや高めに置いてある数字ということになる。
つまり、金利が1%上昇した場合、2025年度の元利払いの負担は想定より3.7兆円増えるというのは、長期金利が1%程度に上昇したとすればではなく、2.1%程度に上昇したならばということになる。
さらに注意すべきものがある。それでは長期金利が日銀に0.25%以下に抑えられている現状、これが年度いっぱい続いたらどうなるのかという点である。それはつまり想定した元利金払いよりも少なく済むことになる。これが結果として国債の前倒し発行分というかたちとなって、ある意味予算のバッファーとなっていたりする。
少なくとも長期金利である10年債利回りが1.1%程度に上昇したとしても、国の予算上は想定の範囲内ということになる。それが2%に上昇すれば当然負担は増えるが、それで日本の財政が急速に悪化するということではない。
少なくとも日銀が0.25%という長期金利コントロールをやめて、市場実勢に即した長期金利が形成されるとして、これで国の財政が立ち行かなくなるということではない。日銀の正常化によって日本の財政が破綻するようなことも当然ない。
ただし、これまでのような財政政策を行うことは厳しくなり、それは債務管理に緊張感を与える。結果として財政規律を守ることで、日銀によって無理矢理抑えられなくても、国債利回りの安定化にも繋がることになる。