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日銀の長短金利操作の矛盾点

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 現在の日銀の金融政策を再確認してみたい。

 長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)については、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとするとあり、

短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。

長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。

 起点となる短期金利については政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用するとある。ただし、マイナス金利が適用されているのは日銀の当座預金の一部に限られる。それでも残存5年近くの国債利回りもマイナスとなっている。

 これは今後も物価の低迷が続き、日銀の緩和策が継続することで中短期の利回りに低下圧力が掛かっていたためである。しかし、ここにきて5年債の利回りがプラスに転じてきた。物価の低迷や日銀の緩和策が継続することにやや疑問が投げかけられたためともいえる。いずれ2年債利回りもプラスに転じる可能性がある。

 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するようとあるが、これについては±0.25%というレンジが設けられている。そのレンジを抜けてくるとなれば「上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う」とある。これは少しおかしい。上に抜けることしか想定していない。下にぬけた際には必要な金額の長期国債の売却を行うことが示されていない。

 さらに0.25%という数字の設定そのものに明確な理由が存在しているわけでもない。本来であれば、物価の動向に応じてとかなるのかもしれないが、とにかく明確な理由が示されているわけではない。

 しかも長期金利が物価予想や海外金利の上昇に応じて上昇した際には、無制限の買入を行うことになる。つまり、国内物価に上昇圧力が掛かっていた際には、火に油を注ぐことになりかねない。日米長期金利の拡大による円安圧力を強め、輸入物価の上昇圧力ともなる。

 目標物価がゼロ近辺やマイナスであり、海外金利も低迷していれば、ここで無制限買入をしても物価に働きかけることは考えづらいこともたしかである。

 日銀の物価目標(コア全国消費者物価指数)は12月が前年比プラス0.5%であり、1月はプラス0.2%程度となることが予想される。ただし、携帯電話料金の引き下げによる効果を除くと1月で1.7%あたりとなり、すでに2%にかなり接近している。

 今後、食料品の値上げが続くことが予想され、原油価格も先物で100ドルに接近している。日銀の目標とする物価の2%は達成しつつある。最後の一押しでの無制限買入ということも考えられなくはないが、海外の金利が物価動向を受けて上昇している。状況がこれまでとは違うことに注意すべきである。しかも国内企業物価が前年比で8.5%であるということにも注意すべきであろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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