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経済統計の信頼性を脅かしかねない国交省の統計データの二重計上問題、本当に8年も気が付かなかったのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 国土交通省が毎月公表する「建設工事受注動態統計」でデータを二重に計上していたことが15日分かったと報じられた。

 国土交通省によると、データを不適切に取り扱っていたのは、建設業の毎月の受注動向などを示す「建設工事受注動態統計」。

 データは「調査票」の形で、都道府県を通じて事業者から毎月、集められているが、その際に期限までに提出がなかった事業者についても、受注実績をゼロとはせずに推計の受注額を計上していた。その後、実際のデータが提出されたあとに、その受注実績を翌月以降に再度、計上していたことから、データの二重計上が生じていたのである。

 二重計上された事業者の数は全体の1割程度とみられる。不適切な取り扱いは、少なくとも統計を今の方法で取り始めた2013年度以降から続いていたとみられ、会計検査院の検査を受けて、ことし4月以降は改めたとされる。

 今回、問題が発覚した統計は国の基幹統計の一つで建設業の毎月の受注実態を示す。全国の約1万2000社を抽出して調べており、20年度の総額は79兆5988億円だった。国内総生産(GDP)の算出などにも使われる。二重計上によってデータが上振れしていた可能性が高い(15日付日本経済新聞)。

 2018年末には厚生労働省の「毎月勤労統計」で長年不適切な調査が行われ、雇用保険など計500億円余りもの支給不足があった問題が発覚していた。その後、政府は他の統計の総点検や再発防止の取り組みを進めてきた。それでも埋もれていた不手際が発覚した。

 岸田首相は15日午前の衆院予算委員会で、今回発覚したデータ二重計上について「大変遺憾なことだ。統計の信頼回復のために、経緯を確認し、再発防止のためにどういった形でやるべきなのか至急検討し対応を考えたい」と話した。首相は「2020年度、2021年度のGDPには直接影響していない」とも説明していた。

 経済指標などに対しては金融市場参加者も基調なデータとして参考にしている。特に国などが出している経済指標はその信頼度の高さもあって基調な分析データとなっているが、その信頼性に疑問が生じる可能性も出てくる。統計を提出者に無断で書き換える行為は統計法に違反するおそれもあるとの指摘もある。

 総務省が政府統計の一斉点検を実施したが、今回の不適切な処理は明らかにならなかった。そもそも集計している担当者が気がついていなかったのか。間違いは誰でもあるが、信頼性を高めるにはそれを気がついたらすぐに改めることも重要である。8年間もの間、二重計上がされていたという事実はやはり大きな問題であったのではないかと思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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