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バラマキ・シンドローム、今度は日銀による永久国債の引き受け論か

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 岸田文雄首相は13日の参院本会議で、日銀保有国債の一部永久国債化や教育国債は、安定財源や財政の信認確保の観点から「慎重に検討する必要がある」と話した。国民民主党の大塚耕平氏の財源確保を巡る質問に答えた。同党は教育国債の創設や日銀保有国債の一部永久国債化を公約に掲げている(13日付ブルームバーグ)。

 今度は国民民主党から「日銀保有国債の一部永久国債化案」が出てきた。これもまたバラマキ政策の一環といえるものである。

 これは以前、英金融サービス機構元長官のアデア・ターナー氏が提案していた日銀保有国債の無利子永久国債化であるかと思われる。政府が日銀保有国債を乗り換える形で無利子永久国債を発行し、日銀が引き受けるというものであろう。

 永久債とは償還期限の定めがなく、それが無利子であれば利払いの必要もない。日銀がそれを引き受けていれば、それは政府としては永久に償還する必要がなく、見た目では政府債務ではなくなるというものである。

 永久債とは英国が以前発行していたものであるが、2015年7月には全ての永久国債が償還されている。

 そもそも無利子で期間が無制限の国債を発行することに無理がある。たしかに現在は中期ゾーンの国債利回りはマイナスであり、10年債利回りは0.1%に満たない。ならば期間無限で無利子というのも無理ではないとの見方が出てくるのかもしれない。

 しかし、超長期と呼ばれる国債利回りは0.7%あたりとなっており、イールドカーブからみて、それより期間の長い国債利回りはさらに高いものが当然求められるため、無利子ということそのものに無理がある。

 さらに償還された国債を乗り換えるかたちであれ、日銀が国債を引き受けるとは財政法で禁じられているものである。発行金額に限度を設けようが、そもそもこれは明らかな財政ファイナンスという形式となることで発行そのもの、さらに日銀の引き受けという事態が日本国債へ信認低下に繋がりかねない。

 岸田首相は財政の信認確保の観点から「慎重に検討する必要がある」と話したそうだが、こういった突拍子もない主張まで出てくるあたり、ここにきてのバラマキ・シンドロームのひとつの現れかと思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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